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34話 決着

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 命が二つあれば勝てる……。他人からしてみればどう考えてもそんなことは不可能に見えるだろうけど、今の僕には可能に思えた。

 もちろん失敗すればドッペルゲンガーのスキル【瞬殺】で死ぬことになるけど、恐怖心なんて削除すればいいだけのこと。やつを倒すには、おそらくこの方法しかない。

「――はあああぁぁぁっ……!」

 僕は恐怖心を捨てつつ、気合を入れるため、それから相手に対して全身全霊で向かっていくという意思を示すべく、大声を上げながら駆け出していく。

『ハアアアァァァッ……!』

 相手も興奮したのか、僕と似たような声を出しながら迫ってきた。僕はルーズダガーを構え、《跳躍・中》とともにすれ違うようにして斬りかかっていく。

『……』

 当然、やつは振り返ることもなく魔法陣を足元に出してきた。【瞬殺】なら、標的を視界に入れなくても半径20メートル以内にいれば倒せるからだろう。ここからが本番だ。僕はやつの背後から同じように跳躍するとともに攻撃するという動作を繰り返した。

 このモンスターは知性Aで頭もいいから、こっちが無駄な動作をしている、何か裏があるんじゃないかと警戒されないように、普通に攻撃しつつ疲労、頭痛等のマイナス要素、吸収の眼光、毒針等の特殊攻撃を出し惜しみせずガンガン浴びせておく。これによって相手は実際にダメージを食らっているわけで、僕のやってることに疑問を持たないはずだ。

 もう魔法陣はゆっくりと回り出している。これが止まったとき、決着がつく……。

「……」

 が跳躍したあと、前のめりに倒れるのが見える。あたかも幽体離脱であるかのように。ただ、僕にはもちろんそんなスキルはないので、あれは偽者だ。よく見てればすぐにわかる程度の紛い物だし、一瞬で消えちゃうけど。

 そう、僕は魔法陣が止まる寸前に【偽装】によって自分の姿を周りの景色と同化させつつ、もう一人の自分――人影――を作り出して今までと同じ動作をやらせて、それに【瞬殺】スキルを使わせたのだ。当然、その際に【削除&復元】スキルで削除しておいた。

「これで終わりだ」

『コレデオワリ、ダ……』

 ドッペルゲンガーは僕の真似をしたあと、復元後に使った【瞬殺】によって跡形もなく消え失せた。

 名前:カイン
 レベル:38
 年齢:16歳
 種族:人間
 性別:男
 冒険者ランク:A級

 能力値:
 腕力S+
 敏捷C
 体力A
 器用B
 運勢C
 知性S+

 装備:
 ルーズダガー
 ヴァリアントメイル
 怪力の腕輪
 クイーンサークレット

 スキル:
【削除&復元】B
【ストーンアロー】D
【殺意の波動】D
【偽装】D
【ウィンドブレイド】E
【鑑定士】B
【武闘家】C
【瞬殺】F

 テクニック:
《跳躍・中》
《盗み・中》

 ダストボックス:
 アルウ(亡霊)

【鑑定士】スキルを使ってみたら……凄い、レベルが5も上がってる。それに能力値も全体的に上がってて、腕力と知性がSプラスになってた。ありったけの負の要素、特殊攻撃を使ったのでダストボックスの中身はアルウ(亡霊)だけになっちゃったけどね。

 中でも特に嬉しいのは、この【瞬殺】スキルをゲットできたことだ。単体のみとはいえ、半径20メートル以内にいる敵なら一撃で倒せるわけだからあまりにも心強い――

「――あ……」

 僕はいつの間にか、大勢の人たちに囲まれてることに気付いた。自分のステータスに集中しすぎてたみたいだ。

 ん……? 馬に乗った騎士っぽい女の人が、同じように騎乗した髭面の人を連れるようにしてこっちに近付いてくる。

 アルウよりもあどけない感じの三つ編みの少女だけど、やたらと凛々しくて異彩を放っていた……って、うわ……馬から颯爽と下りたと思った矢先、僕に猛スピードで一直線に向かってくるもんだから、あまりの迫力に少し後ずさりしちゃった。

「冒険者よ、我に是非聞かせてほしい。あれは貴殿が倒したのだろうか……」

「あ、うん。もう心配ないよ」

「そ、そうか。す……す……」

「す……?」

 なんだろう、この子顔を見る見る紅潮させてる。表情は強張ったままだし、怒ってるのかな……?

「素晴らしい……」

「え……?」

「是非、あの化け物をどうやって倒したのか教えてはもらえないだろうか……?」

「そ、それは……」

 うーん、どうしよう。さすがにこれを言っちゃうと、今度は僕が化け物扱いされちゃいそうだしなあ。

「んー……ごめん。これは秘密にしておきたいから……」

「き、貴様っ――」

「――いや、よいのだ!」

「……」

 制止されてたけど、髭面の騎士が凄く怒ってるみたいだ。ってことは、この凛々しい子はかなり偉い立場なのかな?

「不快な思いをさせてしまい、誠に申し訳ない。冒険者なら自分の能力を隠したがるのは当然。興奮のあまり、失礼なことを聞いてしまった。それで貴殿の名は……?」

「僕はカインっていうんだ。君は?」

「我は――」

「――聞いて驚け、小僧っ! このお方はな、ヘイムダル王国――」

「――いや、今はそういう堅苦しいことはよいっ! 名前だけでいいのだ!」

「……」

 連れの怖い人、今何を言おうとしてたんだろう。ヘイムダル王国の騎士団長とか……?

「我の名はソフィア。よろしく頼む、カイン」

「あ、うん、よろしくね、ソフィア」

 僕はソフィアと笑顔で握手し合った。それまでは近づきがたいような感じだったけど、こうして見てると普通の少女だからドキッとしてしまった。

 ……ん、周りが騒々しくなってきた。なんだろう?

「い、今の聞いたか? ソフィアっていや、この国のじゃ……!?」

「え、ええ……?」

 こ、この人が……? そういや、いい意味で周りから明らかに浮いてたしなあ……。

「それに、カインっていうやつ、この村の落ちこぼれだったやつじゃねえか!」

「あ、確かに見覚えあるわ! あの子よね!?」

「出世したなあ」

「ちくしょー。こんなことなら恩を売っておきゃよかったぜ……」

「……」

 そういえば、ちらほら見たことのある人がいるね。虐待紛いのことをしてきた僕の伯母さんもいて、こっちのほうを見ながら顔面蒼白になってた。少しは見返せたかな……?

「カインだけじゃなく、ナセルたちもいたぞいっ!」

「あ、俺も見た。カインの伯母さんとこの家の陰で震えながら隠れてたぜっ!」

「あの子たちはなーんにも変わってないわね」

「「「ワハハッ!」」」

「……」

 へえ、あいつらも来てたんだね。まさか、いつの間にか嫌いなはずの故郷の村に帰ってたなんて思いもしなかった……。
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