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5話 反抗的
しおりを挟むあ、あれは……!
森の中で僕が見たのは、横倒しになったカートの傍らで尻餅をつくミドルヘアの少女と、棍棒を振り上げながら駆け寄ろうとする緑色の肌の怪物だった。
名前:ゴブリン
レベル:8
種族:ゴブリン族
属性:地
サイズ:中型
装備:
棍棒
スキル:
【ストーンアロー】
やっぱりゴブリンだ。《跳躍・小》を駆使して近付いてるけど間に合いそうにない。このままだと棍棒で少女の頭を叩き割られてしまう。あれを削除できればいいけど、僕に向けられたものじゃないからできない。畜生、どうすれば――って、待てよ? あの手があった……。
「いやああぁぁっ!」
『キキキキッ! ギッ!?』
勝ち誇ったような顔を浮かべたゴブリンが獲物の前で棍棒を落とし、両手で苦しそうに頭を抱えたのは決して偶然じゃない。僕のダストボックスにある頭痛×2をやつの手元で復元させた結果だ。ゴブリンが頭を振って棍棒を拾い上げたときには、自分のテクニックを利用した跳び蹴りが腹に命中するところだった。
『ギギィッ!』
「あ、ありがと――」
「――お礼はいいから僕の後ろに隠れて!」
「うん!」
少女を自分の背後に隠し、起き上がったばかりのゴブリンと対峙する。さすが、やつはレベル8ってだけあってまだピンピンしてるし、棍棒を振り上げて目をギラつかせながら駆け寄ってきた。どうやら興奮状態で頭痛も関係なくなってるみたいだね。それでも、僕は冷静だった。
『ギッ……!?』
なんせこっちには最強スキルの【削除&復元】があるってことで、僕に向かって振り下ろされようとしてた棍棒は消えてなくなった。今度は僕の番だ。
「食らえっ!」
『ガアァッ!』
《跳躍・小》の勢いを利用して、低く前に跳びつつゴブリンの横腹を短剣で斬り、さらに少女を庇うために元の位置に戻りつつ背中を斬る。
『ガアア……』
ゴブリンはそれでも倒れず、凄い形相で僕を睨みつけてきた。ただ、この状態じゃ何もできないはず――と思ってたら、足元に魔法陣が浮かび上がってきた。そういや、【ストーンアロー】っていうスキルを持ってたっけ。それを使う気だ。
ゴブリンの周囲に石が幾つも現れたかと思うと、こっちに向かってきたところで消失した。タイミングは少し遅れちゃったけど、無事に削除できたってことだ。さあ今度はこっちの番だ。呆気にとられた様子のゴブリンに《跳躍・小》で跳び蹴りを食らわせると、馬乗りになって短剣を何度も何度も突き立ててやった。
『――ウガアアアアアァァァッ!』
「はぁ、はぁ……」
断末魔の叫び声で僕は我に返る。疲労とセットでゴブリンに【削除】を使ってみると消えたから死んだのは間違いなさそうだ。
名前:カイン
レベル:8
年齢:16歳
種族:人間
性別:男
冒険者ランク:F級
装備:
短剣
革の鎧
スキル:
【削除&復元】
【鑑定士】
テクニック:
《跳躍・小》
ダストボックス:
疲労4
兎の毛皮27
兎の肉27
棍棒
【ストーンアロー】
ゴブリンの死骸
予想通り、ゴブリンの棍棒、スキル、死骸を新たにゲットできていた。早速【鑑定士】スキルで手に入れた新スキルを鑑定してみる。
スキル名:【ストーンアロー】
効果:魔力によって魔法の石を精製し、標的にぶつけることが可能。威力、量、命中率は自身のステータスに依存する。
わお、魔法系のスキルだ。相手のステータスにもよるみたいだけど、これが命中してたら結構ヤバかったのかもね……って、そうだ、あの子は……いた。呆然と立ち尽くしてるけど、急がなきゃいけないと思って彼女の手を引っ張る。
「ちょ、ちょっと! やめてよ!」
「うっ?」
パンと頬を叩かれてしまった。僕、何か悪いことしたっけ……? 彼女は頬を赤く染めて気まずそうにしてる。
「ご、ごめん。折角助けてくれたのに。でも、男の子と手を握るとか、あたし初めてだからつい……!」
「あ、そ、そうなんだ。それなら仕方ないね。でも早くここから離れないと」
「うん。あ、ちょっと待って。あのカートも一緒に……」
彼女が指差した場所には横転したカートがあった。
「了解」
「あれ? あたしのカートが消えちゃった……」
「僕が消したんだ。でもあとで復元できるから大丈夫」
「え、えぇ? わっ!? ちょっと! そんなに急がないでよ!」
文句を言う彼女を無視して引っ張り、僕は森の入り口へと《跳躍・小》を使って移動し始めた。ゴブリン一匹でもかなりきつかったし、こんなのを複数相手にすることになったらさすがに厳しいからね……。
「――っと、こういうわけなの」
「なるほど……」
あれから僕は少女の手を引いて町の入り口までやってきた。彼女は素材の木の実が欲しくてギルドで依頼したものの中々集まらず、自分の手で取るために森の中に入り、集め終わって帰ろうとしたところでゴブリンに襲われたんだそうだ。
「いくらなんでも一人であんなところに入るのは無謀すぎるよ」
「わ、悪かったわよっ!」
まあそれを言ったら僕もそうなんだけどね。でもそのおかげで助けることができてよかった。
「てか、もうちょっと待てばよかったのに。依頼をこなしてくれる人が現れるまで」
「あたし、【商人】っていうスキルはあるんだけど貧乏なの。まだ依頼の報酬に費やせるほどのお金がないのよ」
「なるほどね」
数あるギルドの依頼の中には、危険な仕事なのに報酬が安いものが存在するから不思議だと思ってたんだけどそういうことだったんだな。当然だけどそういう仕事はよっぽど暇人か、あるいはほかに仕事が見つからない場合を除いて避ける冒険者が多いんだ。
「今度から気をつけるようにね」
「わかったわよ」
「そこは、はいでしょ」
「はいはい!」
「……」
ちょっぴり反抗的な子みたいだ。
「あ、そうだ、カートを戻さないと……」
ダストボックスからカートを手元に復元させると、木の実やら枯れた花やらが入ってた。これはなんの素材に使うものなんだろう? カート自体もかなり古びたもので、ところどころ傷んでるのがわかった。こういうのを見てると貧乏っていうのもうなずけるけど、物を大事にするって素晴らしいと思う。
「それじゃ……ありがとね!」
「あ、うん、またね……って、あれ?」
少女の姿がないと思ったら、カートとともに忽然といなくなってる。信じられないくらい素早いなあ。人の通りも多いし、雑踏の中に紛れて見失ったみたいだ。
急いでたんだろうけど、せめて名前くらい聞きたかったなあ。正直好みの子だったし……って、なーに下心抱いちゃってるんだか。向こうもそれを察知して逃げたのかもね。ただ、どうしてか知らないけどまた近いうちに会えるような気が凄くするから不思議だった。
さて、気持ちを切り替えて収集品の売却等、日が暮れる前に今日はもう少し頑張るとしよう!
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