上 下
21 / 22

第21話 新旧

しおりを挟む
「ちょっ……!?」

「どうした、イル? さあ早く行くぞ」

「……お、おう……」

 懐から出した羽をスライドで船に変え、俺は孤島と化した我が領地を目指す。

「……スラン。あんた、あのシードランド家の息子なんだな……」

「ああ。その通りだ」

「領主様なら、スランって呼び捨てにしないほうがいいか?」

「いや、スランって呼んでくれ。そのほうが俺としてはやりやすい」

「それじゃ遠慮なく! てか、名前を聞いたときにどっかで聞いたことがあるって思ったんだよ。最近ゴタゴタやってるって思ったら、まさか俺がその一人になるなんてよ……」

「……イル。今更引き返そうなんて言わないよな?」

「まさか! むしろよ、なんかわくわくしてきたぜ!」

「ただし、領民は俺を含めて3人しかいないけどな」

「さ、3人……!? それじゃあ、俺を入れて4人ってわけか!?」

「そうだ。ぞくぞくしてきただろ?」

「……鳥肌が止まらん」

「ははっ。そりゃそうだよな。ただ、逆に言えばこれから開拓し甲斐があるってことだ」

「……確かに、俺みてえなならず者が生まれ変わるには最高の舞台だ」

 俺はイルガルトの言葉に相槌を打った。

 出発したときと同じく、目立たないように船を迂回させ、シードランド家の領地を目指す。

 それからほどなくして、俺たちは目的地へと辿り着いた。

「へえぇ、ここがスランの領地か……」

「そうだな。正しくは俺たちの領地だ」

「な、なるほど……」

 イルガルトも感動した様子で周囲を見回していた。このやり取りは、裏側にスライドしておいた防壁の扉から領地へと入った瞬間のことだ。

「てかよお、全然思ってたのと違う……」

「まあ、そこは仕方ない。今はこんなもんだが、なんせこれからの領土なんだからな」

「いや、スラン、そうじゃねえんだ。もっと荒廃したイメージだったのに、やたらと手入れが行き届いてて感動したくらいだ……って、これも例のスライドスキルってやつで!?」

「そうだな。それもあるが、これから紹介予定の二人の領民のおかげでもある」

「へえ……って、あれ? スラン、どこ行くんだ? こっちは山のほうなんだが……」

「山のほうに俺たちの住んでる家があるんだ」

「えぇ? あんだけ立派な屋敷もあるのに? それに山のほうって、下りるとき凄く不便じゃねえか?」

「んー、不便かっていうとそうでもない。領地ごとスライドしたばかりだから今はまだ難しいが、エネルギーに余裕があればスライドスキルを使って一瞬で下山できる」

「へえ……って! 今まで100%の力じゃなかったのか……」

「ああ、そういうことだ。それにここはな、両親の墓もあるし、自然豊かで見晴らしもいい」

「確かに……。山のほうに住むっていうくらいだから、あの屋敷はてっきりダミーとばかり思ってたが……」

「まあダミーってほどじゃないが目くらましにはなる。屋敷ががら空きだからな。ただ、だからって将来住む予定の領民たちを捨て駒にするつもりはないよ。むしろ、見晴らしがいいから何か異変があればすぐに助けに行ける」

「さすがスラン。しっかり考えてんなあ……」

 俺たちは会話しつつ歩き、山の中腹にある小屋へ到着した。

「あ、坊ちゃま、お帰りなさいませ!」

「スラン、おかえりー!」

「ただいま、モラッド、モコ」

「ど、どうも。よろしく」

「「あ……」」

 モラッドとモコが、小屋から出てくるなり目を丸くしていた。そりゃそうか。本当に領民を連れてきたんだからな。

「ま、まさか、本当に新たな領民をお連れになるとは……」

「思わなかったぁ……」

「えぇ? 二人とも、俺を信じてくれなかったのか?」

「う、うん。失敗するかもって、モラッド様とお話してて……」

「坊ちゃまを信じたいのは山々ですが、なんせこういう閑散とした状況ですゆえ、いくらお金を積んでも断られるかと……」

「……なるほど。あ、モラッドとモコに自己紹介してくれ、イル」

「おう、わかった! 俺はイルガルトっていう名前で――」

 イルガルトが緊張した様子で自己紹介しつつ、今までの経緯を手短に話した。

「「……」」

 彼の話が終わる頃には、それまで信じられなさそうだったモラッドとモコも納得顔になっていた。

「そんな辛い経験があったのですな……」

「みんなから捨てられちゃうなんて、可哀想……」

「……ま、まあ、確かにそのせいで一時期は荒れまくってたが、俺にも悪いところはあったんだって今は思ってる。それに、スランに拾われたから、そう思ったら捨てられたのも結果的には悪くなかったのかなって」

「イル、心を入れ替えただけあって前向きでいいな。それでいいんだ」

「そりゃな。なんせ俺がスランの一番の領民だから、姿勢だけでも見せとかねえとな!」

「「「……」」」

 俺はモラッド、モコと顔を見合わせて苦笑いした。どうやらイルは調子に乗るタイプでもあるようだ。

「あ、その前にちょっといいか? スラン」

「なんだ? イル」

「俺が普段使ってる弓は古いもんだし、矢筒も数に制限がある。それが切れたら短剣で戦おうと思ってるんだが……」

「いや、その必要はない」

「え……!?」

 俺は両手を合わせて暗がり、つまり『闇』を作り出すと、その頭文字をスライドして『弓』に変え、さらに足元の『野』の漢字をスライドして『矢』に変えてみせた。

「この通りだ。いくらでも代わりはあるから、遠慮なく弓手として力を発揮してほしい」

「す、すげえ! さすが神のスライドスキル! これで遠慮なく矢をぶっ放せるぜ!」

 喜んでくれたみたいでよかった。

「……あ、スラン! あのね、ドラコの件、卵に罅が入ってから苦戦してたけど、もうすぐ誕生するみたい!」

「お……かなり待たされたが、いよいよみたいだな」

「はい、坊ちゃま。わたくしめも、卵の様子が気になって気になって寝不足で……」

「ははっ、爺もドラコに相当焦らされてるか。イル、早くも後輩ができそうだな」

「へ……?」

 きょとんとするイルを見て、俺たちは大いに笑い合ったのだった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

パーティのお荷物と言われて追放されたけど、豪運持ちの俺がいなくなって大丈夫?今更やり直そうと言われても、もふもふ系パーティを作ったから無理!

蒼衣翼
ファンタジー
今年十九歳になった冒険者ラキは、十四歳から既に五年、冒険者として活動している。 ところが、Sランクパーティとなった途端、さほど目立った活躍をしていないお荷物と言われて追放されてしまう。 しかしパーティがSランクに昇格出来たのは、ラキの豪運スキルのおかげだった。 強力なスキルの代償として、口外出来ないというマイナス効果があり、そのせいで、自己弁護の出来ないラキは、裏切られたショックで人間嫌いになってしまう。 そんな彼が出会ったのが、ケモノ族と蔑まれる、狼族の少女ユメだった。 一方、ラキの抜けたパーティはこんなはずでは……という出来事の連続で、崩壊して行くのであった。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜

東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。 ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。 「おい雑魚、これを持っていけ」 ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。 ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。  怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。 いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。  だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。 ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。 勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。 自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。 今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。 だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。 その時だった。 目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。 その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。 ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。 そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。 これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。 ※小説家になろうにて掲載中

不遇スキルの錬金術師、辺境を開拓する 貴族の三男に転生したので、追い出されないように領地経営してみた

つちねこ
ファンタジー
【4巻まで発売中】 貴族の三男であるクロウ・エルドラドにとって、スキルはとても重要なものである。優秀な家系であるエルドラド家において、四大属性スキルを得ることは必須事項であった。 しかしながら、手に入れたのは不遇スキルと名高い錬金術スキルだった。 残念スキルを授かったクロウは、貴族としての生き方は難しいと判断され、辺境の地を開拓するように命じられてしまう。 ところがクロウの授かったスキルは、領地開拓に向いているようで、あっという間に村から都市へと変革してしまう。 これは辺境の地を過剰防衛ともいえる城郭都市に作り変え、数多の特産物を作り、領地経営の父としてその名を歴史轟かすことになるクロウ・エルドラドの物語である。

えっ、能力なしでパーティ追放された俺が全属性魔法使い!? ~最強のオールラウンダー目指して謙虚に頑張ります~

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
コミカライズ10/19(水)開始! 2024/2/21小説本編完結! 旧題:えっ能力なしでパーティー追放された俺が全属性能力者!? 最強のオールラウンダーに成り上がりますが、本人は至って謙虚です ※ 書籍化に伴い、一部範囲のみの公開に切り替えられています。 ※ 書籍化に伴う変更点については、近況ボードを確認ください。 生まれつき、一人一人に魔法属性が付与され、一定の年齢になると使うことができるようになる世界。  伝説の冒険者の息子、タイラー・ソリス(17歳)は、なぜか無属性。 勤勉で真面目な彼はなぜか報われておらず、魔法を使用することができなかった。  代わりに、父親から教わった戦術や、体術を駆使して、パーティーの中でも重要な役割を担っていたが…………。 リーダーからは無能だと疎まれ、パーティーを追放されてしまう。  ダンジョンの中、モンスターを前にして見捨てられたタイラー。ピンチに陥る中で、その血に流れる伝説の冒険者の能力がついに覚醒する。  タイラーは、全属性の魔法をつかいこなせる最強のオールラウンダーだったのだ! その能力のあまりの高さから、あらわれるのが、人より少し遅いだけだった。  タイラーは、その圧倒的な力で、危機を回避。  そこから敵を次々になぎ倒し、最強の冒険者への道を、駆け足で登り出す。  なにせ、初の強モンスターを倒した時点では、まだレベル1だったのだ。 レベルが上がれば最強無双することは約束されていた。 いつか彼は血をも超えていくーー。  さらには、天下一の美女たちに、これでもかと愛されまくることになり、モフモフにゃんにゃんの桃色デイズ。  一方、タイラーを追放したパーティーメンバーはというと。 彼を失ったことにより、チームは瓦解。元々大した力もないのに、タイラーのおかげで過大評価されていたパーティーリーダーは、どんどんと落ちぶれていく。 コメントやお気に入りなど、大変励みになっています。お気軽にお寄せくださいませ! ・12/27〜29 HOTランキング 2位 記録、維持 ・12/28 ハイファンランキング 3位

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

金貨増殖バグが止まらないので、そのまま快適なスローライフを送ります

桜井正宗
ファンタジー
 無能の落ちこぼれと認定された『ギルド職員』兼『ぷちドラゴン』使いの『ぷちテイマー』のヘンリーは、職員をクビとなり、国さえも追放されてしまう。  突然、空から女の子が降ってくると、キャッチしきれず女の子を地面へ激突させてしまう。それが聖女との出会いだった。  銀髪の自称聖女から『ギフト』を貰い、ヘンリーは、両手に持てない程の金貨を大量に手に入れた。これで一生遊んで暮らせると思いきや、金貨はどんどん増えていく。増殖が止まらない金貨。どんどん増えていってしまった。  聖女によれば“金貨増殖バグ”だという。幸い、元ギルド職員の権限でアイテムボックス量は無駄に多く持っていたので、そこへ保管しまくった。  大金持ちになったヘンリーは、とりあえず念願だった屋敷を買い……スローライフを始めていく!?

処理中です...