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第17話 様変わり

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「「「おおぉっ……」」」

 我がシードランド家の領地は、文字通りそれまでの姿とは打って変わり、まったくの別物に生まれ変わっていた。

 それはまさに、海面に浮かぶ孤島といっても過言ではなかった。

 俺が【スライド】スキルで海のほうへ大きく移動させた領地は、それまでの陸地から完全に切り離されていたんだ。

 敵兵によって破られていた防壁も、無傷なところをスライドすることで修繕し、とりあえずは一安心だ。これでやつらもますます攻めにくくなったに違いない。

 周囲をぐるっと取り囲む巨大な防壁に加えて、海という最高の地形が敵の侵入を妨げてくれるわけだからな。

 落下したグレゴリスの兵士たちは、這う這うの体で海から脱出していて、滑稽なのもあって見ていて爽快だった。あいつらに今までどれだけ苦しめられたか、それを思うと少しは溜飲下がるというもの。

「「「……」」」

 見晴らしの良い丘から四方を見渡せば、領地が島と化したのは一目瞭然で、その壮大な光景を前に俺たちはしばし言葉を失っていた。

 だが、安心してばかりもいられないのも事実。これによって平和がずっと維持できるのかというと甚だ疑問だからだ。

 確かに以前よりずっと攻められにくくなったとはいえ、領民自体が圧倒的に少ないから、長期的な視野で見た場合いずれ窮地に陥るのは間違いないと思える。

 また、孤島化したといっても、グレゴリスの領地とは50メートルほどしか離れてない。これじゃ相手もまだまだ侵略を諦めないだろう。

 それならばと領地をさらに遠くへスライドさせようにもそう簡単にはいかない。ここまで移動するのに気力を消耗しすぎたため、完全に回復するまでしばらく大きな規模のスライドはできそうにないからだ。

 もっともっとスキルが熟練したあとなら、移動領地として海上を船のように移動できそうだが、それまでに相手も準備を整えてくるだろう。

 やつらが大砲つきの船で襲ってくる可能性もあるし、海や空からモンスターが襲来してくる恐れもある。海賊たちが来襲してくるケースだって大いにありえるんだ。

 また、非常に稀だとは思うが、空からもグリフォン等の強力なボスモンスターがモンスターの群れを携えて襲ってくることも考えられるので警戒は怠れない。

 そのときも父が追い払ってくれて、撃退してからは来なくなったものの、クラーケン同様に仕留めきることができなかった。ほとぼりが冷めた頃にやつらが襲ってくることも想定しておかないといけない。

 今後、陸海空からの脅威に備えないといけないってことだ。それに対応するとなると、俺たち3人のみじゃかなり厳しい。

「……」

 モラッドもモコも領民として十分にやってくれてるとはいえ、だからといって頼ってばかりもいられない。

 今何をするべきなのか決断するのは領主の俺だ。自分がしっかりしないといけない。

「坊ちゃま。あまり一人で思いつめないようにしたほうがよろしいですぞ」

「モラッド、わかるか……」

「そりゃもちろんですとも。坊ちゃまと何年一緒だと思っておいでですか。モコはどう思う?」

「うーん……スランの力は凄いと思うけど、一人より二人、二人より三人の力が合わさると、もっと領地は繁栄するって思うの」

「……確かにな」

 二人の言うことは一理ある。

「よし、それなら早速領民を増やすか」

「おお、それは良い考えですぞ」

「いいね! どうやって増やすの?」

「……すまん。そこまでは考えてなかった」

「「ちょっ……」」

「何かをスライドして仲間を増やす方法も考えたが、まったく思いつかない。それなら、あらかじめ存在するグレゴリスの領民をこっちに移動させればいいんじゃないかな」

「ふむふむ、なるほど。しかし、果たしてこっちに移動してくれるのかどうか……」

「不安……」

「それなら大丈夫。こっちにもちゃんと考えがあるから」

「「おぉっ……」」

 そういうわけで、俺は早速準備に取り掛かり始める。

 といっても、そんなに大がかりなことはしなくていい。俺には【スライド】スキルがあるから、それを活用するだけでいい。

 ってことで、まず虫の羽を千切り、『はね』の頭文字をスライドして『ふね』、すなわち『船』に変えてみる。

 すると、船っていえるほどの規模じゃないが、そこそこいい感じのものができた。見た目は立派な筏といった様相の船だ。

 これなら三人くらいまでは乗れるだろう。

 まあ今の俺のスキルレベルに加え、虫の羽から作るのならこんなもんだろうし、これでも充分だ。

「モコもモラッドも、ここで留守番を頼む」

「坊ちゃま一人で大丈夫でしょうか? わたくしめも一緒にいたほうが……」

「私もスランについてく!」

「いや、二人にはこの領地を守っていてもらいたい。帰ってくるまでそんなに長くはならないはずだから。必ず領民を連れてくる」

「そうでございますか……。それなら、坊ちゃまの言う通り、ここを守り抜きますぞ、モコ!」

「はい!」

 二人ともわかってくれたみたいでよかった。

 俺は筏に乗り込むと、それをスライドさせてライバル貴族のもとへと向かうのだった。もちろん、このままだと目立ちすぎるので、ある程度工夫を凝らすつもりだ。
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