異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる

名無し

文字の大きさ
上 下
31 / 38

第31話

しおりを挟む
 僕たちがクラインの町を発ってからというもの、大分時間が経ったような気がする。

 今はエルフの国へと繋がるっていう森林の中を、ウィングブーツでグイグイ飛行しているところだった。

「……ゴクリッ……」

 僕は思わず唾を飲み込む。この森っていうのがなんとも異様で、自分が小人になったかのような錯覚を味わえる場所なんだ。

 植物も海のように深そうだし、木々自体、普通のものより何十倍もある高さと太さで、今まで体験したことのない圧迫感を覚えるほどだった。

 それに、なんか枝とかツルとか色々うねうねしてるし、比喩でもなんでもなく、本当に森そのものが生きているんだ――

「――ヒャアアアアッ」

「うっ……」

 それに、薄暗い上に悲鳴みたいな不気味な音がこだましてくるから単純に怖い。それと、頻繁にではないものの、靴の踵くらいの植物の種が時々飛んできてヒヤッとする。

 しばらくしてユイが悲鳴を上げたので、種に当たったんじゃないかって思って聞いたら虫だって。虫なんて見かけないけどなあ。

 まあいっか。仮に命中したとしても僕の半径2メートル以内にいれば盾のペンダントがあるから安心だ。

 実際、この森へ来て一度だけ自分の背中に当たったことがあるけど、チクッとする程度でHPが1ポイント減るだけだったしね。

「うあ……」

 それより嫌なのが、下のほうにちらほらと見える白骨死体だ。幹の間から、こっちに手を伸ばした状態で息絶えててなんとも哀れだ。

 俺はここだ、早く見つけてくれ、助けてくれ、そんな恨めしそうな声が今にも聞こえてくるような気がする。

 彼らは腕試しでエルフの国へ行こうとしたものの、力尽きた冒険者だろうか? あるいは、新しい商売を始めようとしたけど志半ばで倒れた商人?

 どんな事情があったのかはもちろん知らないけど、やられ方はなんとなくわかってしまう。

 多分、ツルを伸ばしてくる植物とか木々のモンスターに捕まって、徐々に栄養を吸われて息絶えたんだろうね。

「おえっ……」

 想像するだけで気分が悪くなってきた。わざわざ妙なことを考えるからなんだけど。

「――え……」

 そんな自分に呆れつつ飛んでいると、いつの間にか隣にサクラがいたのでびっくりした。

「サクラ、凄いね」

 っていうか、普通に追いつかれてしまったってのが驚きだ。上達しすぎ。

 ユイとサクラを置き去りにしないためにそこまでスピードを出してないっていうのもあるとはいえ、器用値100の僕とは違うわけだから。

 そう考えると、ウィングブーツでの飛行について何かコツを掴んだか、それだけ頑張ったのかもしれない。

 それについてどうやったのか尋ねると、サクラは照れ臭そうな顔を浮かべながら、僕たちに隠れてこっそり練習してたんだって。へえ、知らなかったなあ。

 そういえば、クラインの町で夜更けにちょくちょく屋根裏部屋の窓から出ていってたから、そのときにやってたんだろうね。

 夜のお散歩くらいにしか思ってなかった僕って一体……。

「――大人をからかったらダメだよ、サクラ……」

「ふふっ」

 サクラとのお喋りはとても楽しいし、自然に笑みが零れちゃうほどだ。

 でも、僕の横顔が見たいだの、格好いいだの、いくらなんでも大人をからかいすぎ! まあ彼女の言葉を信じるなら、半分本当らしいし可愛いからいいけどさあ。

「……」

 そういえば、ユイのほうはどうしてるのかと思ってちらっと後方に目をやると、顔を赤くして一生懸命こっちへ来ようとしててなんか可愛かった。本当に彼女は小動物的だ。いや、小動物そのものかもしれない。

 そういえば、虫に当たったとか、明らかに変だってわかる嘘をついてたけど、なんであんなこと言ったんだろう? もしかして、僕たちに気を使ってる?

 うーん。別にサクラとはまだ恋愛関係ってわけでもないんだし、変な誤解してないといいんだけど。まあそこまで考えてない可能性もあるんだけど……。

 というか、今は恋愛についてどうの、そういうことを悠長に考えるような余裕がなかった。

 こんな厳しい世界じゃいつ死んでもおかしくないってことを考えたら、なるべく早く気持ちを伝えたほうがいいのかもしれないけどね。

 でも、相手どころか自分の気持ちすら、まだ正直なところはわからないや。そういうものだと思うし、真面目に考えるのが怖いっていうのもある。

 それに、自分の気持ちに気づいたところで、僕は小心者だから振られたらどうしようってまた悩みそうだ。

 ただ、失ったときにその大切さに初めて気づくっていうし、僕もそうならないようにしないと。

「――あ……」

 っと、そんな取り留めのないことをぼんやりと考えてたら、前方のほうに何か薄らと見えてきた。

 あれは……一体なんなんだろう。モンスター……?

 何かが徐々に近付いてくるにつれ、それが人型だとわかってきた。それも二人、幹の上に並んで立っている。

 こんなところに、僕たち以外に人がいるなんて思いもしなかった。

 エルフ……じゃないと思うし、高ランクの冒険者かな? それとも、低ランクの冒険者が迷い込んで助けを求めてる? はたまた、森の住人なんだろうか?

 さらに別の可能性を考えようとしたとき、僕はハッとなった。

「……」

 ま、まさか、あれは召喚士ガリュウが差し向けてきた右列の刺客なんじゃ……⁉ だとしたら、僕たちの行動はあいつらに読まれていたってことになる。これはとんでもない事態だ。

 ここからは慎重になろうと思ってスピードを少し落としつつも、あいつらとの距離が大分近くなってきて、顔や性別まではっきりとわかるようになってきた。

 二人組の男女だった。ん……あいつら、クラインの町で何度か見かけたような気がする。

「う……」

「あれ、サクラ。どうしたんだ……?」

 しかも、サクラが連中のほうを見て明らかに動揺していて、目の色が変わっていることに気付いた。ただならぬ気配だ。僕のすぐ隣にいるから、彼女の変化の具合がよくわかるんだ。

 そういえば、確かサクラの話によれば、彼女の兄さんを殺したのは二人組の男女だったはず。

 ってことは……あいつらがその仇だっていうのか……? もしそうなら、絶対に許すわけにはいかない。この森をあいつらの墓場にしてやらないと……。

 とりあえず、僕の【互換】スキルだとこんな遠くからじゃ調べられないので、【互換】スキルでユイから【観察眼】を拝借して、二人組のステータスをチェックしてみることにした。

「お……」

 すると、名前と人柄を見てすぐにそれが右列だとわかった。

 つまり、サクラの兄さんの仇でほぼ間違いないってことだ……って、こいつらのほかのステータスに視線を移したとき、僕は文字通り驚愕した。こ、これは……。
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~

WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
 1~8巻好評発売中です!  ※2022年7月12日に本編は完結しました。  ◇ ◇ ◇  ある日突然、クラスまるごと異世界に勇者召喚された高校生、結城晴人。  ステータスを確認したところ、勇者に与えられる特典のギフトどころか、勇者の称号すらも無いことが判明する。  晴人たちを召喚した王女は「無能がいては足手纏いになる」と、彼のことを追い出してしまった。  しかも街を出て早々、王女が差し向けた騎士によって、晴人は殺されかける。  胸を刺され意識を失った彼は、気がつくと神様の前にいた。  そしてギフトを与え忘れたお詫びとして、望むスキルを作れるスキルをはじめとしたチート能力を手に入れるのであった──  ハードモードな異世界生活も、やりすぎなくらいスキルを作って一発逆転イージーモード!?  前代未聞の難易度激甘ファンタジー、開幕!

タブレット片手に異世界転移!〜元社畜、ダウンロード→インストールでチート強化しつつ温泉巡り始めます〜

夢・風魔
ファンタジー
一か月の平均残業時間130時間。残業代ゼロ。そんなブラック企業で働いていた葉月悠斗は、巨漢上司が眩暈を起こし倒れた所に居たため圧死した。 不真面目な天使のせいでデスルーラを繰り返すハメになった彼は、輪廻の女神によって1001回目にようやくまともな異世界転移を果たす。 その際、便利アイテムとしてタブレットを貰った。検索機能、収納機能を持ったタブレットで『ダウンロード』『インストール』で徐々に強化されていく悠斗。 彼を「勇者殿」と呼び慕うどうみても美少女な男装エルフと共に、彼は社畜時代に夢見た「温泉巡り」を異世界ですることにした。 異世界の温泉事情もあり、温泉地でいろいろな事件に巻き込まれつつも、彼は社畜時代には無かったポジティブ思考で事件を解決していく!? *小説家になろうでも公開しております。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います

しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します

名無し
ファンタジー
 毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

処理中です...