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第27話

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 ――いたいた。見るからに凶悪そうなスキンヘッドの厳つい男。

 やつの人柄はEで、名前は尾賀レイジ。右列の一人で間違いない。真昼間から冒険者ギルドの一角で酒を呷っている。

 その所持スキルは【致命傷】だ。掠り傷一つでも与えることができれば、相手を死に至らしめられるんだとか。

 そう考えると恐ろしいスキルだし、当たりスキルだと思われて右列になったのも頷ける。

 それでもやつのレベルは12でステータスも大したことがない。スキルにしても、傷をつけられない限り大したことはない。

 というわけで、僕は彼から召喚士ガリュウについて聞き出すべく、単身で近づくことにした。

 ユイとサクラについては、それを近くも遠くもない、会話内容は聞こえる程度の距離から見守る格好だ。

 二人にも僕らの会話を聞いてもらうためだけど、すぐ近くにいると手を出される可能性もあるからね。

 特にサクラの場合、違う意味で逆に手を出しそうな気配さえあるし……。

 さて、人が集まらないうちにそろそろ声をかけるか。

「よう、そこの兄ちゃん」

「……あ? なんだてめえ、馴れ馴れしい野郎だな?」

「うるせえな。ちょっとくらいいいだろ。悪党同士なんだからよ」

 僕は男に対してニヤリと笑った。知力値100にして考え出した作戦なんだ。

 それは、悪党同士なら分かり合えるんじゃないかっていう、【類友作戦】だ。

「けっ。ガキみてえな面のくせに、やけにイキってんじゃねえか。まあ、そういうの嫌いじゃねえけどよ」

「へへっ、そりゃどうも……」

 これが鑑定スキル持ちの人の場合、人柄を見られちゃうからアウトだけど、それがない上に酔っぱらってる状態だから大丈夫なはず。

「おま、そりゃどうもって、なんだよ。無意味にお礼なんか言ってんじゃねえよ。気持ちわりい」

「……ま、まあいいじゃん。なんかたまには善人っぽく振舞うっていうのも悪くねえだろ」

 ついつい、いつもの癖でそりゃどうもなんて言ってしまった。悪党って単純そうに見えるのに、演じるのは意外と難しいや。

「……変な野郎だな。てめえの名前、知ってるぞ。スカイとかいうやつだな」

「あ、そ、そうだけど、なんで知ってんだ?」

 意外な展開だったので、僕は無意識にユイやサクラのほうを思わず見てしまった。

 この男、本当になんで僕のことを知ってるんだろう?

「そりゃ、短期間でEランクからBランクまで上がった凄腕の冒険者ってことで話題になってたからな。どうせ不正でもやったんだろうが」

「お……おう、よくわかったな」

「やっぱりか。見くびるな。んなことくらいお見通しなんだよ。みーんな隠れて悪いことをやってるに決まってんだからよ。なのに、自分はいかにも良い人ですよって面してるやつを見ると反吐が出るがなあ……」

 スキンヘッドの男の目つきが鋭くなる。悪いやつらの思考って多分こんな感じなんだろうね。みんな悪いことをしてるんだから自分もやっていいんだって。

 確かに、人柄がよくても悪いことをする人はいるんだと思う。

 ただ、人柄が固定ステータスなのにはそれなりに意味があって、善人でも間違った行動をすることはあっても、性質っていうのは昔から変わらないんじゃないかな。それこそ、血みたいなもので。

「どうした? なんで黙ってんだ?」

「あ……いや、良いこと言いやがるなあって思って。僕……いや、俺も、そういうやつら見たら、問答無用でぶん殴りたいぜ!」

「ブッ……てめえ、結構おもしれーこと言うじゃねえか。ほら、てめえも飲めよ」

「あ、ど、どうも……じゃなくて、俺も酒を飲みたかったんだからそういうことは早く言えってんだよ!」

「へっ。偉そうに言いやがって。嫌なやつとは飲みたくねえから見定めてんだよ。ひっく……っと、大分酔いが回ってきたみてえだ……」

「……」

 この男、目つきが怪しくなってきたし、酔っぱらってきたならいい感じだ。聞き出すには絶好のタイミングかもしれないけど、もうちょっと慎重に攻めるつもりだ。

 というわけで、僕は魔力値を100にして、グラスに注がれた酒を一気に飲み干してみせた。

「あー、酒がうめえよ。タダの酒は特に最高だ。俺も、最近右列に入ったんだけどよ、あんたは気が合いそうだから嬉しいぜ」

「けっ。悪ガキがよ。次に奢るのはてめえのほうだからな。つけあがるんじゃねえぞ。にしても、こっちに入ったのは最近なのか。道理で見ねえ顔だと思った。で、何やったんだ?」

「何って?」

「しらばっくれるな。不正だよ」

「……」

 ああ、そうだ。そういう話をしてたんだった。

「あ、えっと……偽装とか色々やってさ。詳しくは言えねえんだよ」

「けっ、そんなことだろうって思ったぜ。Bランクならそこら辺の女をナンパし放題だし、なんならたっぷり楽しんだあとで殺してもバレねえからいいよな。高ランクの知り合いがいるんだけどよ、やつと一緒に善良そうな女や男を捕まえてバラすのは最高だった……」

「あ、そ、そうだな!」

 やっぱり最悪だな、右列は。もしやと思ったら、ユイが必死にサクラを止めようとしていた。案の定……。

 攻略を速めたほうがよさそうだってことで、僕はニヤッと薄笑いを浮かべてみせた。

「お、なんだよ、何か企んでそうな気色わりい顔しやがって」

「どうだ? 不正の方法を教える代わりに、いいことを教えてくれよ」

「いいことだあ? そんなものねえよ。俺らは右列の中でも下っ端だからなあ。いいよなあ、上のやつらは、優遇されて」

「どんな風に優遇を?」

「まあ最近右列に入った新参なら知らねえか。特に使えそうなスキル持ちは優遇され、エリート的な教育を施されるんだよ。俺たちはそこから命令されたら動かなきゃいけねえ、都合のいい兵士的な役割ってわけよ」

「へえ……。ガリュウってのはどんな人なんだ?」

「あの召喚士についてはわけがわからん。急に感情的になったかと思えば優しくなる。怒ったら何をされるかわからんから逆らえねえ。各地の有力者たちに右列のエリートたちを送り込み、国を混乱させようとしているように見える」

「各地の有力者たちにエリートを送り込むって、それはどういうこと……?」

「国の力が弱まり、各地の貴族たちによる反乱が続々と起き始めているんだとよ。あの召喚士は国にエリートを売るだけじゃなく、反乱軍にまでエリートを売っている。最終的にどこが勝ってもいいように恩を売って、唾つけてるんじゃねえかって」

「なるほど……」

 そうか、ようやく召喚士ガリュウの狙いがわかってきた。どこが勝ってもいいように右列を色んなところに配属させ、ゲーム感覚で高みの見物をしてやろうってわけか。

「だが……唯一売ってないのもいる。エルフの国だ。そこもこっちの王家の血筋を受け継ぐ一人がいるから、反乱に勝てば王になれるんだが、これがまたでな……」

「妙って……?」

「その跡継ぎってのがエルフの血を受け継いでいるためか、幼少の頃にいじめられて酷く人間不信になってるんだとか。能力は高い上に国としても強いから、やつが名乗りを上げれば面白いと思うが、下手すりゃ人間を滅ぼしかねないってガリュウはそう睨んだんだろう。ここに恩を売っても良いことはないってな」

「そ、そうなんだな……」

 なるほど。それでガリュウはエルフの国を滅ぼそうとか言ってたんだな。

「なあ、スカイ。てめえが知りたいことだったどうかはともかくよ、俺はちゃんと教えたぜ。さあ、不正の方法をとっとと教えやがれてってんだよ」

「……」

「どうした? 早く教えろ――ごがっ⁉」

 俊敏値100→器用値100の切り替えで、僕の神速の拳が男の顎にクリーンヒットする。

 これで何が起きたのかもわからずに気絶するってわけだ。

 ユイとサクラのほうを見ると、笑顔で親指をこっちへ向けていた。喜んでくれたみたいでよかった。
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