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第16話
しおりを挟む「――ひゃ……」
「ユイ?」
険しい山道を登り始めた矢先のこと。ユイが小さな悲鳴を漏らしたので僕は振り返った。ちなみに、人気のない山中にいるってことで今の僕たちは元の姿に戻っている。
「……な、なんか、この先にいっぱい罠があります。蜘蛛の巣みたい……」
「え、罠?」
「です……。クルスさんには見えないですか?」
「うん。ユイの【観察眼】スキル、貸してくれる?」
「あ、はい。見たらきっと驚きますよ」
ユイが許可してくれたのもあって、僕は同じ鑑定系スキルである【互換】と【観察眼】を交換することに。さあ、どうなっているのか見てみよう。
「――うあっ……」
こ、こりゃ凄いや……。ユイの言う通り、僕たちの進んでいる山道には、至るところに罠が仕掛けられていた。
半透明の球体で、【バルーントラップ】っていうものだ。
それに少しでも触れると、動けなくなるうえに宙に浮かんでしまうらしい。つまり、これを仕掛けた側からは格好の標的になるってことだ。
っと、入れ替わる効果が切れたのか視界が元の状態に戻った。
「クルスさん、どうでした?」
「う、うん。本当に罠がいっぱいあったよ。っていうか、一体誰がこんなのを仕掛けたんだろうね」
「誰なんでしょう? も、もしかして、右列の人たちとか……」
「その可能性だけは考えたくないけど……。僕たちがこっちへ向かってるってことを関所の兵士が既に知ってたわけだし、その可能性も充分にあるかな。あとは山賊とか」
「あ、そういえば山賊さんもいるっておばあさんが言ってましたね」
「うん。このトラップの山を見たら危険って言ってたのもわかるね。今更引き返すつもりなんてないけど」
「でも、どうしましょうか。罠は至るところにあって、このままじゃ先に進めそうにないです」
「確かに……って、そうだ。知力を100にしよう」
「賢者モードで打開策を考えるんですね!」
「そ、そうそう、それ」
なんかユイに賢者モードとか言われると照れるなあ。あっちのことを想像しちゃうせいかな?
っと、それどころじゃなかった。【互換】スキルで知力を100に置き換えた途端、名案がパッと浮かんできた。
このトラップは矢でも発動するとのこと。そんなわけで、僕はバルーントラップに向かって知力→器用100にして矢を放ってから先へ進むことに。
罠に矢が命中した途端、宙にどんどん浮かび上がっていく様は壮観だった。矢はしばらく動かないので落ちてくる心配もない。
「す、凄いです、クルスさん。もう【観察眼】スキルは私のほうに戻ってるのに、全部命中してます! 見えなくても当てられるんですか?」
「知力100のときに罠の位置は全部記憶したからね」
「なるほど……さすが賢者タイムさん!」
「えぇ……」
賢者さんじゃなくて賢者タイムさんなのか……。ま、まあ確かに賢者といっても一時的だから正解ではあるんだけど。
「クルスさん、例の罠がまた見えてきました!」
「オッケー」
ある程度進んだら、僕はユイの声に応じて立ち止まる。
そして、彼女から【観察眼】を借りて罠に矢を放つ。これの繰り返しだ。いくら器用値100にしても、ただ無暗に矢を放ったところで目標が見えないと当たらないからね。
「――あ、な、何かいます……!」
「え?」
順調に進んでいたときだった。ユイがびっくりした様子で脇に広がる木々のほうを指差した。道なき道でいわゆる獣道ってやつだ。罠も張られてないのが納得できるくらい鬱蒼としている。
「あっちのほうから、誰かがこっちへ少しずつ近づいてきます」
「どんな連中?」
「えっと……木々や岩の後ろに隠れたりして。【観察眼】でもよく見えないですけど、凄く小柄な人たちっぽいです」
「……」
まさか、右列の連中なのか? それとも、やたらと小柄なことからゴブリン? あるいは、それ以外の何かだろうか……? 僕は緊張しつつ、その瞬間を待った。
「来ます……!」
「なっ……⁉」
遂に出てきた……と思ったら、ゴブリンよりも小柄な年寄り三人組だった。みんな山賊っぽい荒々しい服装だけど、立派な白い顎髭を生やしている。
なんかこういうのって、どっかで見たことあるぞ。もしかして……。
「多分、この人たちはドワーフさんです……」
「や、やっぱりそうだよね……」
ドワーフらしき三人組は、僕たちの前までやってくると揃ってワイワイ騒ぎ始めた。
「ドワーフじゃと……? それは種族のことであって、わしらは山賊じゃわい!」
「そうだそうだ! 痛い目に遭いたくなければ、有り金全部くれっ!」
「いや、全部は可哀想だから、半分でいいから置いていきなさい!」
「うむ、そうじゃな。半分でいいから欲しいんじゃ!」
「半分でいいから寄越せっ!」
「半分でいいから渡しなさい!」
「……」
ナイフ、弓、棍棒を手に喚き散らかす三人の老人たち。なんていうか、みんな根が明るい感じで敵愾心をまったく感じない。
【互換】スキルでステータスを調べようとすると、三人組には通じないことがわかる。
ユイの【観察眼】スキルを借りて調べたけど、それでもダメだった。ってことは、彼らは人間でもないしモンスターでもないってことだ。
「はい、ドワーフさん、お小遣いどうぞ!」
「おーっ!」
ユイから銅貨1枚ずつもらったドワーフ三人組は、目を輝かせて喜んでいた。僕も1枚ずつあげると、今度は三人で歌いながら踊り出す始末。こんな緊張感のない山賊は初めて見た……。
「おぬしら、ありがとうじゃ!」
「助かったぞ!」
「またよろしく頼みます!」
「またねっ!」
僕たちは笑顔で手を振り合って別れることに。
それにしても、あのドワーフたち、なんで山賊なんかやってるんだろう? あれじゃ、バルーントラップにかからなかったら返り討ちにされそうだけど……。
「――そこのお前たち……」
「え?」
それからほどなくして、僕たちの前に一人の女性が現れた。裾に切り込みが入ったマントを羽織っていて、射貫くような目つきをしている。
ドワーフたちのように山賊っぽい衣装だけど、見た目的には異世界人じゃない。僕らと同じ世界から来ているのがわかる。なのにどう見ても喧嘩腰だ。まさか、右列?
「だ、誰かな?」
「誰なんです?」
「ふん、私が誰かだと? 知っているだろうに、白々しい。この世から退場する前にお前たちに聞いておきたいことがある。外道の集まりである右列の癖に、何故ドワーフたちに手を出さなかった? 良い人を演じているだけか?」
「え……僕たちが右列だって? それを外道扱いしてるってことは、君は左列の生き残りなんだよね? それなら左列の仲間同士なんだけど……」
「そうですよ。私たちだって左列なんですからあなたは味方です!」
「黙れ、嘘つきどもめが! 大体そこの女は、右列の一味としてオルトン村で見たことがあるぞ! 私がこの手で兄さんの仇を取ってやる!」
「ちょっ……⁉」
そういえば、ユイは短期間だけど誘われて右列に入ってたんだった。こりゃ、どうしたって戦うしかなさそうだ……。
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