13 / 38
第13話
しおりを挟む「こ、こんなにいっぱい……⁉」
受付嬢のスティアさんが、カウンターに乗った大量の魔石を前に固まってしまった。
「ついつい、調子に乗っていっぱい倒しちゃって……」
「モグラ叩き、いっぱいしちゃいました……」
「が、頑張りすぎです、お二人とも……。デ、デビルモール30体討伐の報酬銅貨30枚と、モグラの魔石73個×銅貨7枚で、合わせて銅貨541枚となります……」
「そ、そんなに……⁉」
今度は僕たちのほうが驚く番だ。これで所持金の銅貨49枚と合わせたら590枚だ。
これじゃ重くなりすぎるので、銀貨5枚と銅貨90枚に分けてもらうことに。あんまり貯まるようなら魔法の袋に入れてもいいんだけど、いずれにそうするにしてもすっきりしてたほうがいいしね。
モーラさんが雨漏りする部屋があるって言ってたから、これで少しは修繕の足しになるんじゃないかな? この異世界では、銀貨5枚あれば小さな家が建てられるっていうし。
そのときだった。ギルドの職員らしき男が深刻そうな顔つきで現れたと思うと、スティアさんに耳打ちした。
「……あの……すみませんが、クルス様、少々お待ちください」
スティアさんはそう言い残して、奥にある個室の中へ引っ込んでいった。なんだか妙な空気だな。一体何が起きたんだろう……?
それから少し経って彼女は戻ってきた。
「……お待たせしました。ギルドマスターがあなた方とお話したいそうです」
「えぇ?」
「どうぞ、奥のほうへ」
「……」
戻ってきたスティアさんの言葉に対し、僕とユイは驚いた顔を見合わせる。ギルドマスターが僕たちにどんな用事があるっていうんだ……?
「やあ、ようこそ。ここに座ってくれたまえ」
「なっ……⁉」
僕たちは唖然とするしかなかった。そこにいたのは、紛れもなくあの召喚士の男だったからだ……。
「どうした? 二人とも、座らないのか?」
「あ、は、はい……」
僕たちは用意された椅子に恐る恐る腰かけることに。罠とか仕掛けられてないよね? それにしても、まさか彼がオルトン村のギルドマスターだったなんて……。
「この間は、実に申し訳ないことをした。お前たちが外れスキルだからと冷遇してしまっていたが、驚異的なスピードで依頼をこなす様子を見てそれは間違いだとわかった」
召喚士の男は、本心かどうかはわからないけど謝罪までしてきた。あまりにも意外な展開だ。あれだけ高圧的だった人が。彼はどんな意図があってこんなことを言ってくるんだろう?
「それより、僕たちを召喚した理由は、一体なんなんですか?」
「私もそれを知りたいです」
「……まあそう慌てるな。それについてはこれから話すつもりだ。自己紹介が遅れたが、俺の名はガリュウだ。この村のギルドマスターも兼ねているが、国のために働ける者を探す、いわゆるスカウトの役目もある召喚士でね」
「国のために働ける者?」
「そうだ。この国は強大な力を持つとある国から圧力を受け、脅威に曝されている。その国から自分たちの国を守るために、俺はあれだけの大掛かりな召喚を実行して、お前たちを含めた多くの転移者にスキルを付与させた。とある国というのは、エルフたちの国のことだ」
「エルフたちの国?」
「そうだ。やつらは人間と違ってスキルを持つことができない。いや、持つ必要がないくらい強い。いずれ、この国を滅ぼすだろう。だからこそ、希望が欲しかった。エルフの国を滅亡させるためには、手段を選ばないくらいの狡猾さと、強力なスキル持ちが必要なのだ……」
「なるほど。それで人柄が良い、一見外れスキル持ちの僕たちを冷遇したってことですね」
「……まあ確かにその通りだが、あのときは急いでいたんでな。ただ、当たりスキル持ちならば人柄など関係なく歓迎するぞ。で、どうする? 今からでも遅くない。その素晴らしい能力を活かして俺たちの仲間になってくれ。そうすれば、この国の精鋭部隊である右列の一員として優遇してやるぞ。どうだ?」
「……お断りします」
僕はきっぱりと断った。エルフの国っていうのがどういう国なのかもよくわからない上、このガリュウという召喚士の男に対しては今までの不信感もあったからだ。
「私も、クルスさんと同じです。ガリュウさんでしたか? あなたは信用できません」
「……そうか。それならばいい。すぐに後悔することになるだろうが」
「……」
僕たちは召喚士ガリュウの傍を離れ、その場をあとにした。
すぐに後悔することになる、だって? 不気味なことを言ってたな。
ん、周囲が騒がしくなってきた。火事だとか逃げろとか。なんだ?
急いで外へ出てみると、建物の一部が燃えているのがわかった。って、あの辺って、もしかして……。
俊敏値を100にした僕は、ユイの手を引っ張って現場へと急ぐ。
「……な、な……」
騒ぎの中で僕たちは呆然とするしかなかった。燃えていた。あの『モーラ亭』が、真っ赤に炎上していたんだ……。
ち、畜生……! あいつらがやったんだとすぐにわかった。僕らが従わなかった見せしめとして、召喚士が右列の配下に指示したんだ。
「こんなの、酷い……」
ユイもがっくりと膝を落とし、項垂れていた。彼女も僕と同じように、異世界での故郷を失った気分なんだろう。本当に許せない……。っていうか、モーラさんが無事だといいけど……。
「クルス様っ!」
「あ……」
誰かと思ったら受付嬢のスティアさんが声をかけてきて、手紙を渡してきた。
「これを預かっていたのでお渡しします」
「僕たちに?」
「はい。変な男たちが来て、これを渡してくれって……」
「……」
僕はユイと顔を見合わせると、一緒に手紙を読むことに。
『モーラ亭の主人を預かっている。やつの命が惜しいと思うなら、村の外れにある水車小屋近くまで来い』
宿を燃やした挙句、モーラさんまで人質に取るなんて、こりゃ許せないね。久々に無茶苦茶頭に来ちゃったよ……。
僕たちが約束の場所へ駆けつけると、水車小屋の影から右列の連中がうようよと出てきた。そのうちの一人が、エプロン姿の女性の首にナイフをつきつけてるのがわかる。
「モーラさん!」
「く、クルス、ユイ……なんで来たんだい。あたしなんかほっといてもいいのに……」
「……」
人柄がSのモーラさんらしい台詞だ。
「てめぇ、余計なこと言うな。人質の癖に自分の立場わかってんのか⁉ おい小僧、その弓を下ろしてこっちへ来い! そしたらこの女を解放してやる!」
男たちが怒鳴っても、モーラさんは顔色一つ変えなかった。本当に優しくて強い人だ……。
「モーラさん、見苦しい姿は見せたくないから、しばらく目を瞑ってて」
「あい、わかったよ。あたしは、どうなってもいいから、早く逃げな……。こいつらの言うことなんか絶対に聞くんじゃないよ」
モーラさんは死を覚悟したのか目を瞑るけど、それでもやっぱり怖いのか少し体が震えてるのはわかる。
「あぁ⁉ この女、てめえ、本気で死にたいのか⁉ おい、小僧。もし逃げたり妙な動きをしたりしたら、本当に殺すからな。このクソ女の喉を掻っ切って、美しいバラを見せてやるぜ。それにな、俺たちのスキルは最高にクレイジーな効果でなあ――」
べらべらと喋ってた男を筆頭に、連中の額に矢が突き刺さる。大したことのないスキルだってわかってたから、調べる必要もなくあっさり終わった……。
70
お気に入りに追加
1,058
あなたにおすすめの小説
異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します
名無し
ファンタジー
毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。
異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~
夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。
しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。
とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。
エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。
スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。
*小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜
月風レイ
ファンタジー
グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。
それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。
と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。
洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。
カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。
超時空スキルを貰って、幼馴染の女の子と一緒に冒険者します。
烏帽子 博
ファンタジー
クリスは、孤児院で同い年のララと、院長のシスター メリジェーンと祝福の儀に臨んだ。
その瞬間クリスは、真っ白な空間に召喚されていた。
「クリス、あなたに超時空スキルを授けます。
あなたの思うように過ごしていいのよ」
真っ白なベールを纏って後光に包まれたその人は、それだけ言って消えていった。
その日クリスに司祭から告げられたスキルは「マジックポーチ」だった。
ダンジョン菌にまみれた、様々なクエストが提示されるこの現実世界で、【クエスト簡略化】スキルを手にした俺は最強のスレイヤーを目指す
名無し
ファンタジー
ダンジョン菌が人間や物をダンジョン化させてしまう世界。ワクチンを打てば誰もがスレイヤーになる権利を与えられ、強化用のクエストを受けられるようになる。
しかし、ワクチン接種で稀に発生する、最初から能力の高いエリート種でなければクエストの攻略は難しく、一般人の佐嶋康介はスレイヤーになることを諦めていたが、仕事の帰りにコンビニエンスストアに立ち寄ったことで運命が変わることになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる