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第12話
しおりを挟む「ふう……」
鉱山の一階層。僕の深い溜め息がユイと重なって、お互いに苦笑し合う。気づけば僕はレベルが3つ上がって15になり、ユイはレベル14まで上がった。
200匹くらいのデビルモールを倒したのもあって、レベル10以上だと上がり辛くてもここまで上げることができた。まさに力業だ。
デビルモールの魔石についてはあれから25個も落ちて、合計30個まで達していた。
モグラたちは僕が落とし穴を踏もうとするタイミングで一度に沢山出現してくるのでスキルを無駄に使わなくて済むのがいい。
「あ、袋が破れちゃいました……!」
「ありゃ……」
ユイの持つ皮の袋の底から魔石が零れ落ちる。鉱山に出発する前に彼女が購入したものなんだけど、魔石って結構重いからね、仕方ないね。
袋を売るほうも、まさかこんなに一度に魔石を収納するとは思ってなかっただろうし……って、何か名案が浮かびそうなんだけど、浮かばない。そうだ。【互換】で知力を100にしてみよう。
これだ、これこれ。体中がゾワッとなって、精神がナイフのように研ぎ澄まされていく感覚。なんか癖になりそう。頭の中も驚くほどクリアになっていったかと思うと、すぐにアイディアが浮かんできた。
「村へ戻って買い換えないとですね……」
「いや、その必要はないよ、ユイ」
「えぇっ? って、な、なんだか聡明な眼差し……」
「ふむ? 気のせいだよ」
実際は気のせいでもなんでもなく、ユイの言う通り僕はまさにスーパー賢者タイムになっていた。人格まで変わりそうだ。
「ユイ、その袋を貸してごらん」
「え、これもうボロボロですよ?」
「いいから貸しなさい」
「は、はい……」
僕は怪訝そうなユイから破れた袋を受け取ると、早速【互換】スキルで鑑定する。
皮の袋:アイテムを入れるための革製の袋。底が破れている。
「……」
ふむふむ。予想通りの説明だが、これを【互換】で入れ替えたらどうなるか? 底が破れているということは、つまりこういうことだ。
皮の袋:アイテムを入れるための革製の袋。【サイズさえ合えば無限に入る】
よし、いいぞ。底に穴が開いているのだから、サイズさえ合えば無限に入ると同義。ただ、このままだと入れても底から抜けるのでここからが肝心だ。
「ユイ、【糸】スキルって裁縫の効果もある?」
「えぇ? その発想はありませんでした。やってみます!」
ユイが【糸】スキルを使うと、袋の底は見る見る修繕されていった。へえ、これはちゃんと実際に糸が出てくるんだ。まあ見えない糸のほうだと時間制限で消えちゃいそうだしね。さあ、改めて説明を見てみよう。
皮の袋:【サイズさえ合えばなんでも無限に入る袋】
よーし、遂に完成した。これで次からは魔法の袋として使えるようになる。
「さ、魔石を全部入れようか」
「え、そんなことしたら、また破れちゃいますよ?」
「いいから、大丈夫」
僕が魔石を全部中に収めるのを見て、ユイは不思議そうに目を丸くしていた。
「ほ、本当に全部入っちゃいました……。お、重くないんですか?」
「全然」
「ふぇー……」
無限に入る魔法の袋なんだし、普通に考えたら別次元に収納しているはずだからね。
「あ、本当だ。何も入れてないみたいに軽いです!」
「しかも、必要なものを取り出そうと思えば取れるよ。ほら」
「……す、すご……」
ふむ。ユイのやつ、興味深そうに魔法の袋の中を覗き込んでいて、実に微笑ましいものだな。ははっ……って、なんか自分のキャラクターが微妙に違ってるってことで、知力100から本来の状態であるHP100に入れ替えておいた。
「……」
うぁっ、急速に脳が縮むような感覚……。でも、なんだかいつもの場所に戻ってきたみたいで落ち着くし悪くないね。
それから僕たちは鉱山の一階層を隅々まで歩き回り、モグラたちをひたすら狩り続けた。その結果がこれだ。
変動ステータス
名前:来栖 海翔
性別:男
レベル:20
HP:100/100
SP:5/15
腕力:1
俊敏:1
器用:11
知力:1
魔力:1
固定ステータス
才能:B
人柄:A
容姿:C
運勢:B
因果:C
スキル:【互換】【HP100】
装備:皮の服 皮の靴 弓 魔法の矢筒(∞)
変動ステータス
名前:赤理 結
性別:女
レベル:20
HP:16/20
SP:5/15
腕力:6
俊敏:1
器用:6
知力:1
魔力:1
固定ステータス
才能:B
人柄:A
容姿:A
運勢:C
因果:A
スキル:【糸】【観察眼】
装備:皮の服 皮の靴 棍棒 魔法の袋(∞)
僕とユイはお互いにレベル20になった。ユイのほうは【糸】スキルだけ使ってた影響か、器用値が上がってる。僕の場合はほぼ弓だけで戦ってるから当然の結果だ。
デビルモールの魔石を沢山ゲットして、73個にもなった。ここまで狩ったせいか、モグラの姿をあんまり見かけなくなる。
これ以上倒した場合、ほかの冒険者が依頼をこなせなくなりそうだし、今日はもうこの辺で狩りを切り上げてもいいかな。
「ユイ、そろそろ帰ろうか?」
「ですね。私、張り切りすぎてお腹空いちゃいました……」
「ははっ、僕もだよ」
和やかなムードに包まれながら、来た道を引き返そうとしていた矢先、僕は妙な音がするのがわかった。
これは……ゴゴゴッていう何かが転がる音だ。それも、徐々に近くなってくるのがわかる。ま、まさか……。
「ユ、ユイ、僕の背後に隠れて!」
「えっ⁉」
「いいから早く!」
「は、はい!」
それからまもなく、二メートルほどの大きな岩が現れ、勢いよくこっちへ転がってくるのがわかった。
おそらく、追跡してきたやつが【落石】スキルで出した岩だ。完全に殺しにきてる。むかつくから殺してやろうってか? 酷すぎるな……。
坑道は盛り上がったり下ったりと微妙に傾斜があるのを利用したんだろう。また、岩による攻撃であれば故意じゃなく偶然ってことにもできる。さすが、ガラの悪いやつらの考えそうなことだ。
そうはいくかってことで、僕は【互換】で腕力値を100にすると、それを指一本で受け止めてやった。
「ひあっ……⁉ く、クルスさん……指一本で受け止めちゃうなんて、いくらなんでも超人すぎますって!」
「まだまだ、こっからが本番だよ」
僕はそれを、軽く押してやった。すると、岩が逆方向へ転がっていき、緩やかに斜坑を上っていく。それから少し経って、向こうのほうから複数の悲鳴がこだまするのだった。
ちゃんと逃げる猶予は与えてやったんだし、死んだとしてもこっちを殺そうとしたんだからそれはしょうがない。どっちにしろ、死ぬほど怖い思いはするだろうけど……。
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