9 / 38
第9話
しおりを挟むあくる日の朝、僕はユイと一緒に冒険者ギルドにいた。お互いに依頼を受けるためだ。
僕の場合は、ちょっと欲張ってゴブリン討伐5匹の依頼を、ユイはスライムと大ネズミの討伐の依頼を受けることにした。
これらを成功させることで、どっちも同じタイミングでEランクに昇格できるからだ。ちなみに、一度に三つまで依頼を受けることができるんだとか。
依頼の貼り紙の予備をカウンターへ持っていくと、受付嬢のスティアさんが声をかけてきた。
「クルス様、おはようございます。今日も精が出ますね……って、その方は恋人ですか?」
「あ、スティアさん、おはよう。この人は……」
「はい、恋人です!」
「や、やっぱり……。意外と隅に置けない人なんですね。クルス様も」
「い、いや、違うし!」
「……はあ。そういうことにしておきます」
なんかスティアさんがいかにも不機嫌そうにプイッと顔を背けてるし。ま、まさか僕に気がある? ただ、僕って人柄はともかく容姿がアレだし、多分演技だろうけど……。
「ユイ、恋人宣言は自重するように」
「はぁーい」
「……」
ユイの間延びした返事を聞くと期待できなさそうだ。悪戯が好きな子なのかな。まあ自分でジョーカーって自称しちゃう子だしね……。
「やっほー!」
「ちょっ……⁉」
草原に着いた途端、ユイが駆け出した。
「ユイ、危ないって!」
「クルスさん、大丈夫ですって! なんたって、私には【糸】がありますからぁー!」
「いや、確かにそうだけど、体のすぐ横に即湧きとかもあるし……って、言ったそばから!」
「あうっ⁉」
ユイの足元にスライムが現れたので、即座に弓矢を放って始末した。スライムは動けなくても、触れた相手を溶かすことができるから要注意だ。
彼女は手でごめんっていう仕草をしつつ舌を出して笑ってる。まったくもう……。
「それじゃ、クルスさん。私の勇姿、しっかり目に焼き付けておいてくださいね。ふわぁ……」
「はい、緊張感なし」
「えへへっ」
ユイは天然なんだろうなあ。本当に小動物タイプだ。
「ふぅ、ふぅ……」
「……」
それから3匹、ユイが【糸】で動けなくなったスライムを棍棒で叩いて倒すのを見届ける。
順調だとは思うんだけど、見ていてなんとももどかしい気分だ。
もっと楽に倒せる手段とかないかな? たとえば、僕が倒しても彼女が倒したことになればいいんだけど。そんな甘い考えは……って、そうだ。
【糸】って、相手の動きを止められるわけだから一応攻撃系のスキルなんだよね。だったら、僕が倒しても討伐数にカウントされてもおかしくない。
「ねえユイ、【糸】でスライムの動きをかたっぱしから止めてみて」
「えぇー? で、でも、そんなにいっぱいすぐには倒せないですよー」
「僕が倒すから」
「ふぇ?」
「いいから、やってみて!」
「あ、はいです!」
ユイが【糸】スキルを使い、スライムたちの動きを封じていく。範囲系なので、一回でも近くにいるスライムをひとまとめにして足止めできるんだ。
なのですぐ10匹分溜まって、僕は弓矢を10本放ってみせた。
「あれ、クルスさんが倒すんですかぁ⁉」
「ユイ、ちょっとギルドカード見て」
「えぇ? あっ……! 10匹討伐終わってます!」
「やっぱり……【糸】で動きを止めたスライムを倒した時点で、パーティーの連携プレイとして捉えられたってことだね」
「な、なるほどぉー……」
「よーし、この調子で大ネズミ討伐にいこっか?」
「はぁーい! あ、でも、SPがなくなったので休憩しましょー」
「あ、そうだった……」
僕たちは岩場に座って、草花の匂いや穏やかな風を感じるのだった。
それから大ネズミを倒すべく、僕たちは森林へ向かう。
「ギリリッ……!」
やつらが群れで向かってきたところをユイに【糸】で丸ごと止めてもらい、矢を放って倒す。
「すごーい! 大ネズミの依頼もすぐに終わっちゃいました!」
森に入ってすぐ大ネズミを10匹仕留めたのではしゃぐユイ。まもなく我に返った様子になった。なんだ?
「どしたの?」
「レベルが3から8まで上がってます……!」
「うわあ……。僕も9まで上がってるし。ってことは、連係プレイで討伐数がカウントされるだけじゃなくて、経験値も普通に稼げるんだね……」
「そうみたいです。クルスさん様様ですね!」
「……さん付けか様付けかどっちかにして」
「じゃあクルスどので!」
「な、なんかそれだと騎士っぽいから却下で……」
まあユイのキャラクター的にはさん付けのほうが合ってるかな。巫女さんだしね。
ユイの依頼が二つ終わって、今度は僕の番だってことで小高い丘にある神殿の廃墟跡に向かう。
ここは思い出のあるところっていうか、僕たちがこの異世界に召喚された因縁の場所だ。
そのせいかユイも緊張した様子で黙り込んでいる。この周囲にゴブリンたちが出るってこともある。
ゴブリンはスライムや大ネズミに比べると狡賢くて強いらしいからね。それでも五匹討伐ならいけると思ったんだ。
「ギギギッ……」
まもなく、例の耳障りな声が聞こえてきた。いた、ゴブリンだ。全部で七匹いて、足並みを揃えるようにしてこっちへ向かってくる。
「来い、ゴブリン……」
前回は逃げるしかできなかったけど、今回は違うぞと気合を入れる。
「ギギギギギイイッ!」
やつらが一斉に駆け出してきた!
「ユイ!」
「は、はい!」
ユイがゴブリンたちを【糸】で足止めしたところで、僕は複数の弓矢を放つ。
「ギギッ⁉」
矢はそれぞれ、ゴブリンたちの額や胸部に命中した。よし、倒したと思ったの束の間、やつらは生きていた。
な、なんでだ? ……って、そうか。命中率は高くても、相手が一つ分ランクの高いゴブリンとなると威力が足りないんだ。
それならとばかり、僕は無限に矢を打てることもあって量で攻めることに。
だが、やつらはそれでも倒れなかった。さらにユイの【糸】の効果が切れたあと、仲間の死骸を盾にして向かってくる。うわあ、どうしよう……って、そのとき、僕はあることを閃いた。
「グゲゲエエエエェェッ!」
矢を浴びたゴブリンたちが、死骸ごとバラバラになって息絶える。凄まじい威力だ。
何をやったかっていうと、矢を放ったあと、腕力値を100に切り替えたんだ。ユイに【糸】を再使用してもらうまでもなく倒せた。よーし、これでゴブリン五匹の討伐完了だ。
お、ゴブリンの魔石が2個落ちてる! スライムと大ネズミの魔石が珍しく1つも落ちなかったので、揺り戻しってやつかな? ホッとした。
あと、これでレベルも念願の10まで上がったと思う。ステータスがどうなってるのか気になるけど、この辺りは危ないからあとで確認しよう。
さて、オルトン村へ戻るか。
107
お気に入りに追加
1,066
あなたにおすすめの小説
異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~
WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
1~8巻好評発売中です!
※2022年7月12日に本編は完結しました。
◇ ◇ ◇
ある日突然、クラスまるごと異世界に勇者召喚された高校生、結城晴人。
ステータスを確認したところ、勇者に与えられる特典のギフトどころか、勇者の称号すらも無いことが判明する。
晴人たちを召喚した王女は「無能がいては足手纏いになる」と、彼のことを追い出してしまった。
しかも街を出て早々、王女が差し向けた騎士によって、晴人は殺されかける。
胸を刺され意識を失った彼は、気がつくと神様の前にいた。
そしてギフトを与え忘れたお詫びとして、望むスキルを作れるスキルをはじめとしたチート能力を手に入れるのであった──
ハードモードな異世界生活も、やりすぎなくらいスキルを作って一発逆転イージーモード!?
前代未聞の難易度激甘ファンタジー、開幕!

固有スキルガチャで最底辺からの大逆転だモ~モンスターのスキルを使えるようになった俺のお気楽ダンジョンライフ~
うみ
ファンタジー
恵まれない固有スキルを持って生まれたクラウディオだったが、一人、ダンジョンの一階層で宝箱を漁ることで生計を立てていた。
いつものように一階層を探索していたところ、弱い癖に探索者を続けている彼の態度が気に入らない探索者によって深層に飛ばされてしまう。
モンスターに襲われ絶体絶命のピンチに機転を利かせて切り抜けるも、ただの雑魚モンスター一匹を倒したに過ぎなかった。
そこで、クラウディオは固有スキルを入れ替えるアイテムを手に入れ、大逆転。
モンスターの力を吸収できるようになった彼は深層から無事帰還することができた。
その後、彼と同じように深層に転移した探索者の手助けをしたり、彼を深層に飛ばした探索者にお灸をすえたり、と彼の生活が一変する。
稼いだ金で郊外で隠居生活を送ることを目標に今日もまたダンジョンに挑むクラウディオなのであった。
『箱を開けるモ』
「餌は待てと言ってるだろうに」
とあるイベントでくっついてくることになった生意気なマーモットと共に。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています

学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します
名無し
ファンタジー
毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!(改訂版)
IXA
ファンタジー
凡そ三十年前、この世界は一変した。
世界各地に次々と現れた天を突く蒼の塔、それとほぼ同時期に発見されたのが、『ダンジョン』と呼ばれる奇妙な空間だ。
不気味で異質、しかしながらダンジョン内で手に入る資源は欲望を刺激し、ダンジョン内で戦い続ける『探索者』と呼ばれる職業すら生まれた。そしていつしか人類は拒否感を拭いきれずも、ダンジョンに依存する生活へ移行していく。
そんなある日、ちっぽけな少女が探索者協会の扉を叩いた。
諸事情により金欠な彼女が探索者となった時、世界の流れは大きく変わっていくこととなる……
人との出会い、無数に折り重なる悪意、そして隠された真実と絶望。
夢見る少女の戦いの果て、ちっぽけな彼女は一体何を選ぶ?
絶望に、立ち向かえ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる