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第4話

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 さあ、いよいよスライム狩りの開始だ。っていきたいところなんだけど、僕はこう見えて割りと慎重なタイプなんだ。

 本当にステータス通りに命中するのかどうか、まずは石ころを拾って試すことにした。

 オルトン村を出たところで、手ごろな石を幾つか拾ってから、それを遠くに見えるコケまみれの緑色の岩に当ててみることに。

 お、命中してコケが剥がれた。何度か試してみたところ、全部目当ての岩に命中させることができた。

 しかも、ことごとく狙い通りコケが剥がれた個所に石が当たってて、ほかのコケは無事だったのでその精度に驚く。よしよし、これならいけそうだ。

 自信がついたので早速狩場へ出発することに。スライムが発生する場所は、ここから近場にある見晴らしのいい草原なんだとか。

 村の入り口から数分くらい歩いて目的地へ辿り着いた。その向こうには巨大な湖もある。

 モンスターはいきなり即湧きすることもあるそうなので、僕は草原には入らずに岩陰からスライムが発生するのを待つことに。これこそ弓使いの特権だからね。

 お、何もないところにスライムが出現した。青くてプルプルした、想像通りの生き物だ。ここから20メートルくらい先にいる。僕は気付かれないように慎重に岩陰から弓を構えて狙いを定める。

「おい、。お前、そこをどけ!」

「あっ……」

 剣を持った男が僕の前方に割り込んできた。あのスライムを倒そうとしてるみたいだ。

 くそっ、横取りされてたまるかと思ってスライムを狙おうとしたけど、ダメだ。今スライムに矢を放ったらあの人に当たる可能性も出てくる。

 というか、あの人むきになってブンブンと剣を振り回してるけど、スライムに軽々と躱されてる。……大丈夫なんだろうか?

「ぐああああぁぁっ!」

「……」

 ジャンプしたスライムが男の顔にべちゃっと張り付く。やがて窒息死したのか、男は倒れて動かなくなった。見る見る溶かされてる。

 うわあ……あれは僕が想像していた弱いほうのスライムじゃない。怖すぎ。仇討ちじゃないけど、今のうちにやっつけてやろうと矢を放つ。

「えっ……⁉」

 すると、スライムがたった一発で砕け散った。あまりにもあっけなく倒せたのでしばらく呆然としたのち、驚きや喜びがあとから込み上げてきた。

 おおおっ……! 本当に僕が倒したのかどうか、念のためにギルドカードを確認すると、討伐対象のスライム:1/10となっていた。

 でも、腕力値が1しかないのにどうして……? って、そうか。器用値が100もあるから、急所を的確に叩けるんだ。それで一発で倒せたんだ。

 そう考えると、この世界では100っていう数値は物凄いのかもしれない。

 僕はその調子でスライムを10匹あっさりと倒し、スライムの魔石を三つ獲得することができた。スライムの形をした青い小石だ。

 そういえば、レベルが上がったんじゃないかと思ってステータスを確認してみたら、レベルが1から3まで上がっていた。あれ? レベルが上がっても表示されないし、ステータスポイントも貰えないのか。

 そう考えると、ステータスポイントを貰えるのはもっとレベルが上がってからで、100っていう数値は途方もない数字なのかもね。

 この推測が正しい場合、【互換】と【HP100】の組み合わせは悪くないスキルどころか、とんでもないチートスキルだったってことになる。

 というかもしかしたら、を持っていることだってありえる。【互換】スキルには何か得体の知れない底力のようなものを感じるんだ。

 っと、HPが1の状態でずっといるのは危険なので、オルトン村へ戻る前に100に戻しておく。1のままで転んで死亡なんて笑えないからね。

 出発したのが遅かったのもあって、僕が戻る頃にはもう村の中は黄昏色に染まっていた。美しい景色に目をやりつつ、軽い足取りで冒険者ギルドへ辿り着く。

「あ……クルス様、どうされましたか? 忘れ物でしょうか?」

「いや、忘れ物じゃなくて、依頼を完了したことを伝えようと思って……」

「え?」

「……」

 あれれ? なんだ、受付嬢のスティアさんの様子が変だ。

「あの、もう一度よろしいですか?」

「えっと、依頼を完了したんだけど……」

「またまた、ご冗談をっ。依頼を受けてからまだ30分くらいですよ?」

「冗談じゃなくて本当だよ。ほらこれ、証拠のギルドカード。あと、魔石も」

「……」

 僕のギルドカードとスライムの魔石を見たスティアさんが、唖然とした顔で黙り込んでる。

「……す、凄いです。本当にクリアしてますね。というか、早すぎです。ここまで早く依頼をこなした人、見たことありません……」

「で、でも相手はたかだかスライムだし……」

「私はそうは思いません。スライムって結構強いんですよ? 被害者も多く出てますからね」

「そ、そうなんだ……」

 そういや、スライムに殺されたあと溶かされてる人もいたしなあ。ああ見えて結構厄介なタイプなのかもね。どうしてもスライムって最弱モンスターってイメージがあるけど。

「ちなみに、スライム10匹の討伐をこなすには、どれくらいかかるのが普通なんですか?」

「スライムは防御力が低いモンスターですが、攻撃力と回避力に優れています。ですので、慎重に倒さないといけません。また、遠くから狙おうにも常に動いているので急所に命中させるのは困難だといわれています。パーティーを組んだと仮定しても、討伐には数時間かかるでしょう」

「……」

 へえぇ、パーティーですら数時間もかかるのか……。F級の冒険者基準だろうけど、自分で想像していたよりもずっと凄いことをやってのけたみたいだ。

 ギルドにいた右列の連中も僕のほうに注目してきたけど、みんな信じられないって顔をしてたので滅茶苦茶気分がよかった。パーティーでも数時間かかるのにソロで30分足らずで倒してきたんだから驚愕するのも当然か。

「クルス様って、お一人で狩りをしていらっしゃるのに凄いですね!」

「た、たまたまですよー」

 僕が照れ笑いを浮かべていると、右列のやつらの怒りが爆発したのか、口々に『まぐれだ』とか『左列のくせに』とか『調子に乗るな』とか小声で文句を言い始めるのがわかって愉快だった。

「あの、クルス様、こちらでスライムの魔石3つを一つ銅貨5枚で買い取らせてもらってもよろしいですか? これは大体一つ銅貨4枚から6枚くらいで取引されているもので、平均値は5枚なので悪くないかと思います」

「あ、じゃあそれでもいいですよ」

「ありがとうございます。それでは、成功報酬の銅貨10枚と合わせて、銅貨25枚です。ご苦労様でした。次もよろしくお願いしますね!」

「はい、こちらこそ!」

 これで元々持ってるのと合わせると銅貨30枚になった。

 大きな報酬に加えて、スティアさんからウィンクまで貰ってもうホクホクだ。異世界生活も悪くないっていうか、今のところ凄くいい感じかもしれない。
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