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16.同盟関係

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「フーッ……」

「ゴホッ、ゴホッ、ゴホオォッ……!」

 僕はオーガ子から強烈な煙を顔に吐きかけられ、しばらくまともに息ができないほど咳き込む始末だった。

 それでも悪いことばかりじゃなくて、人間に対する不信感のあまりか荒れてばかりだったオーガ子の表情が、パイプタバコの効果によるものか、大分安らいできてるのがわかったんだ。

 よーし、この調子なら彼女と話くらいはできそうな感じだ。

「お、美味しいかな……?」

「……」

「た、煙草は美味しいのかなあって聞いてるんだけど……」

「あ……?」

「ひっ……!」

「わかりきったことを聞くんじゃないよ、美味しいに決まってんだろうがっ!」

「そ、そそそっ、そりゃよかったぁ……!」

 だ、ダメだ……。確かに話くらいならできるようになったけど、このままじゃ舐められっぱなしになってしまう。よーし、それなら……。

「こ……こっちの話に応じてくれるなら、もっと良い待遇になるよ……?」

「……ほう、そいつは上等じゃないか。んで、どんな話をしようってんだい……?」

「カ……カフェの用心棒をしてもらおうと思って……」

「はあぁぁ? カフェの用心棒だって……? そんなのどこにあるのさ。まさか、そこにあるおんぼろな小屋のことじゃないだろうね?」

「いや、これは違うんだ。カフェは一時的に封印してあるだけだから……」

 そういうわけで、僕は【スコップ】スキルでカフェの封印を解き、オーガ子に見せてやった。

「えっと、カフェっていうのはこれのことなんだけど、近々この辺でオープンするつもりでいるんだ。でも、ゴロツキどもに狙われちゃってるから、できたらオーガ子さんに守ってもらえないかなあって――」

「――フーッ!」

「ゴホッ、ゴホォッ……!?」

 またしても濃厚な灰色に包まれて僕は涙目になる。いくらなんでも吐き出す煙の量が多すぎる……。

「だから嫌いなんだよ。弱いやつっていうのは」

「え……?」

「自分の力で守ることもできないなら、初めから作るんじゃないよ、このトンチキ」

「……」

 オーガに正論を吐かれてしまった……。

「残念だけど、そういうことさ。非力で頭も弱い人間に協力なんてしたくないし、したとしても無駄になるのはわかりきってるから、もう諦めな」

「そ、そんな――」

「――あんたねえぇ、黙って聞いてれば、いくらなんでも失礼すぎでしょ……」

 そこで口を開いたのは、意外にもアリシアだった。

「ん、そこの女、あたいになんか言いたいことがあんのかい……? だったらはっきり言いなっ!」

「セ、セインは確かに世界一きもい男だけど、一度ゴロツキどもにこのカフェを燃やされてるのよ……」

「……で?」

「それでも、まあ挫けることなく作り直すくらいの根性は持ってるし、あたしも認めてるわ。それをあんたも少しは認めてやってもいいんじゃない? きもいけど……」

「はっ、笑わせんじゃないよ。だったら自分らで守ればいいだけの話じゃないのかい? あたいにゃ、なーんの関係もない――」

「――いや、ある!」

 それを言ったのは僕だった。アリシアにばかり言わせるわけにもいかない。

「へ……? 一体どこにあたいと関係があるって言うんだい!? 出鱈目抜かしてんじゃないよ!」

「そ、そもそも、君を復活させたのはこの僕だ。僕がいなきゃ、君はずっと人形の中に封印されたままだった……」

「……」

「それに、このカフェも僕が掘り出したものなんだ。だから関係あるよね……?」

「……そうか。要するに、あたいに恩を売ろうっていうのか……」

「いや、そのことに恩義を感じて仲間になってほしいとか、そういうことを言いたいわけじゃないんだよね」

「じゃあなんだっていうのさ!」

「君がオーガで人間嫌いなのは尊重するよ。だから敵味方の関係を越えて、ここで出会ったのが何かの縁ってことで、同盟関係を結んでもらいたいんだ……」

「同盟関係、ねえ……」

「そうそう。お互いに利益になるような関係……。ただ一方的にカフェを守るだけじゃなく、その分見返りも沢山ある。君が望むものなら、僕たちはほぼなんでも与えることができる……」

「フーッ……」

「ゴホッ、ゴホッ……!」

 思わぬ不意打ちに涙目になるけど、なんか今までと比べると煙の勢いが弱くて、若干遠慮みたいなものを感じた。これは僕たちの思いが通じたんじゃないかな……。

「ま、そこまで言うんだったら用心棒をやってやるよ」

「「おおっ……!」」

 やっぱり、思った通りだった。僕とアリシアの一途な願いがオーガ子の心に届いたんだ……。

「ただし……あたいのことを完全に味方だとは思わないことだね。それでもいいなら力を貸してやる」

「望むところだ。僕たちに愛想が尽きたなら、すぐ裏切ったらいい。こっちも、そっちに失望したらまたすぐ封印してやるから、覚悟しといて」

「覚悟してよねっ!」

「フフフッ……アハハッ……アッハッハッハッハッハ!」

「「……」」

 それからしばらく、狂ったようなオーガ子の笑い声が周囲にこだました。怖いけど、僕はいつでも彼女を封印することができるわけだし、きっとなんとかなるはず……。
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