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10.受容

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「――そ、そ、そんな……僕たちのカフェが……」

「ま、まあぁ……なんということでしょう……」

「な、なんなの、これ……!?」

 朝、起きたら僕たちのカフェが灰になっていた。事情を知らない人が聴いたら何を言ってるんだって思われるかもしれないけど、自分でも何を言ってるのかよくわからなかった。

 もうすぐオープンしようとしていた矢先だったのに……。どうしてこうなった? 原因は一体なんだろう? 火が出るようなものなんて置いてなかったはずだし……って!

 中を覗き込んでみたら、椅子やテーブルらしき物が見当たらず、それらが燃えた痕跡もまったく見当たらなかった。ってことは、盗賊かなんかが侵入して、中の物を全部運び出した上、鬱憤晴らしかなんか知らないけど火を放ったってことか……。

 本当に許せない。犯人の証拠かなんかが残ってないかって周囲を探ってみるけど、何も……って、あ、あれは……!

「……」

 見覚えがあるものが落ちていたので拾い上げると、それは毛玉だった。それも、普通の毛玉じゃない。この独特の青白い毛玉は……間違いない、魔狼グルドのものだ。

 しかもあいつは氷や炎のブレスを吐けるし、よく通っていた鉱山がここから近いことを考えると、僕を探しにきたときにここを見つけて、盗みを働いた上に火を放った格好なんだろう。

 僕を生き埋めにしといて、どうせまたカジノかなんかで負けて金に困って、奴隷に適してるってことで僕を連れ戻そうって魂胆なんだろうね。幼馴染だから考えてることがよくわかるんだ。というか、どんどん狂暴になっていってる気がする。どこまで畜生なんだ、ビスケスたちは……。

「司祭様、アリシア……たった今、犯人がわかったよ。僕を生き埋めにした元仲間たちがやったことみたい……」

「「え、えぇっ!?」」

「このままじゃ済まさないよ。絶対あいつらにやり返してやる!」

 興奮していたところで、僕は後ろから両目を手で覆われ、何も見えなくなった。

「セインさん……今、あなたはこういう心理状態ですね……?」

「し、司祭様……?」

「怒りで我を失い、何も見えない……そんな状態では、やり返したところで何も生まれません……」

「で、でも……」

 罪を憎んで人を憎まずなんて、聞こえはいいけど到底そういう心理にはなれそうにもない……。

「よく聞くのですっ……。人を呪わば穴二つ、この言葉は本当で、自分もダメージを受けてしまいます。なので、まずはこの状況を受け入れるのですっ……」

「う、受け入れるって、許すってこと? いくら司祭様の頼みでも、それはできな――」

「――許すのではなく、受け入れるのですっ!」

「う、うわっ!?」

 僕は司祭様の手を通じて、を注入されたような感じになった。エネルギーみたいなものだろうか? 気が遠くなりそうだけど、凄く安らぎを感じる……。

「はぁ、はぁ……セインさん、少しは冷静になれましたか……?」

「は、はい、司祭様……」

「相手を憎む気持ちは、理解できないわけでもありません。わたくしも、楽しみにしていましたし、凄く悔しいです……。でも、その気持ちを、ほんの少しばかりほかの方向へと向けるべきだと思いますよぉ……」

「ほかの方向ですか……?」

「そうです。例えば、自分にも落ち度があったかもしれないと、自分を責めるというよりは、落ち度自体に対して、もっとできることがあったのではって、憤りを分散させるイメージですよぉ……」

「なるほど……」

 確かに、司祭様の言うようにこっちにも落ち度はあった。防犯に関しては何も対策してなかったし、これじゃどうぞ盗んでくださいって言わんばかりだ。もっと気を付けていれば結果は違っていたのかもしれない。これが状況を受け入れるってことなのか……。

「セッ、セイン……」

「アリシア……?」

「ちょっとどころか滅茶苦茶きもいけど、あんたや司祭様がいれば、やり直せるってあたしは思うのよ……!」

「……」

 涙ぐむアリシアの姿を見て僕の胸が熱くなる。そうだね……彼女の言う通り、また【スコップ】で掘って取り返せばいいんだ。そして、次こそは同じことをされないよう、きっちり対策しようと思う。

「そうです、セインさん、アリシアさん、とってもいい表情ですよお、立派です……。これで相手は勝手に墓穴を掘るでしょうし、わたくしたちは幸せを掘ることになるでしょう……」

「「な、なるほど……」」

 相手の不幸より、自分たちが幸せになることを願ったほうがいい気分になりそうだ。なんだか急にやる気が出てきちゃったし、切り替えが早いっていいことだね。また一からカフェ造りを頑張らないと……!
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