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8.腰掛け
しおりを挟む僕たちはパンとスープを食べて軽く朝食を済ませたあと、司祭様がいつものように山へ薪を取りにいく間に、アリシアと二人でカフェ造りを始めることに。
「さあアリシア、今日も一日、カフェのオープンを目指して頑張ろう!」
「うん……って、セイン、別にあんたなんかのためにやってるんじゃないわよ! 仕方なくよ、仕方なくっ!」
「はいはい」
アリシアがそう言いながらも協力してくれるので、なんとも清々しい。ちょっと前までは土の中に生きたまま埋められてたっていうのに、今じゃ司祭様の庇護のもと、こうして可愛い騎士子まで従えてるわけだから僕は幸せだ。
ちなみに彼女には、馬に関連掘りすることによって出てきた厩舎で寝てもらってるわけなんだけど、いずれはちゃんとした場所で暮らしてもらおうと思ってる。
さて、とっととカフェ造りを始めるとしようか。まず、昨日掘ったボロ椅子にクオリティ掘りを使い、質の高い椅子を発掘しようとする。やっぱりお客さんにはなるべく良い椅子に座ってもらいたいしね。
「――はぁ、はぁ……」
つ、疲れたあ……。ホント、掘り下げって確率が滅茶苦茶低い。三百回くらいやり続けてるのに、全然びくともしないんだ。上手くいかなくなると脳みそが楽になりたがるのか、凄く眠たくなる。しばらく休みたいなあ。
「なんなの、セイン。全然掘れないじゃない。本当にあたしを掘った……いや、発掘したの?」
「……」
「な、何よ、黙っちゃって。そんなに疲れてるなら、ちょっと休んだらいいんじゃないの?」
「……」
「げっ……な、何トロンとした目で見つめてきてるのよ。キモッ! どうせあんたのことだから膝枕的なことを考えてたんだろうけど、そんなふざけたことをあたしがやらせてあげるとでも……!?」
「……」
「……んもう! わかったわよ! やればいいんでしょ、やればっ!」
僕は何も言ってないわけなんだけど、してくれるならありがたい……。
「よーし、それじゃお言葉に甘えて……」
うん、悪くない……というか素晴らしい。一気に眠気が来ちゃった……。
「は、早く寝なさいよねっ! こっちを見上げるんじゃないわよ、キモッ!」
「……」
アリシアの罵声と至福の安らぎに包まれる中、僕はいつしか少し高い場所から草原を見下ろしていて、自分自身が彼女の膝を枕にして寝ているのを確認することができた。とても不思議な現象だけど、気分はすこぶるいい。まるで幽体離脱でもしてるみたいだ。枕は枕でも、人間の枕ほど良いものはないのかもしれない――
「――はっ!」
「セ、セイン……?」
そ、そうだ……その手があった。僕は今、信じられないくらい凄いアイディアを思い付いてしまった……。
「アリシア、ちょっとそこのボロ椅子に座ってくれないかな?」
「え? は、はあ……? どうしてよ?」
「いいからいいから」
「ちょっと! 変なことしたら殺すわよ!?」
「はいはい」
なんせ今にも崩れそうな椅子なので、壊れないように祈りつつ、今度はアリシアの上に僕が座る。
「ちょっ……!?」
「重い?」
「べっ、別に重くないけど、椅子のほうが軋んでるから怖いんだけど……!」
「すぐ終わるから大丈夫」
「な、何かやりたいことがあるなら早く終わらせなさいよねっ!」
僕は、人間椅子状態のアリシアに関連掘りを試してみる。
「「――あっ……!」」
僕たちの声が被る。すぐ目の前に、いかにも高価そうな肘掛け付きの椅子が出てきたんだ。
「こ、この高そうな椅子をセインが……? や、やるじゃない。少しは……」
素直じゃないアリシアもこれには脱帽した様子。関連掘りなら、生き物でない限りは関連した物が出やすいわけだからね。人間椅子の関連物であれば、上等な物が出るに違いないって寸法だ。本当に自分でも神がかったナイスアイディアだったと思う。これは世紀の大発見だ。
それから、僕は同じ要領で一気に上等な椅子やテーブルを量産することに。これなら近いうちにカフェをオープンできそうな勢いだ。今のところおんなじものばっかりだけど、余ったものは売って別の必要なものを買えばいいだけだしね。
正直言うと、もっと人員を増やしたいところなんだけど、今のところは司祭様とアリシアだけでいいやって思ってる。
椅子を売ったお金で人員を雇うっていう手もあるんだけど、幼馴染たちに生き埋めにされた僕から言わせてもらうと、助けてくれた司祭様はともかく、もう【スコップ】で掘ったものじゃないと信用できないっていうのが本音なんだ……。
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