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31話 再会
しおりを挟む「ぐ、ぐるじい……!」
「じぬううぅっ」
「たずげ、で……」
「……ま、だ、死にたく、ないよぉ……」
「嫌じゃぁぁ……」
「「「「「ぎぎぎっ……」」」」」
「…………」
いつの間にやら、僕は仄暗い湖の前にいて、ガリガリに痩せこけた者たちが周囲を這いずり回っているのが見えた。
血色も異様に悪いし腹は出てるしで、栄養失調の患者たちなのは誰でもわかるんだけど、僕がどれだけ治療を施してみても、一向に成果が出ることがなかった。
こういうときは、自身の気力を僅かとはいえ栄養に変換できる補助術が有効なんだけど、全然効いてくれない。こんな経験は支援者として初めてだ。どういうことなんだ、これ……って!
よく見てみると、自分の手が透けてしまっていた。な、なんだこりゃ……。
「っ!?」
しかも、周りにいたはずの患者たちが一斉に消えてしまった。え、じゃあ今まで見ていたのは幻ってこと……? なんか、体が浮くような感覚もあって、地面を離れた足元は既に消えかかっていた。
僕は……まさか、死にかけているのか。この世の住人じゃなくなろうとしているっていうのか……。
どんどん体が高く浮き上がっていき、湖全体が見下ろせるようになってきた頃だった。
水面に無数の泡が立ち始め、まもなくそこに大きな黒い影が現れた。直感的に、僕はそれが時間を戻してくれたあの魚のものだとわかる。まさか、再会することになるなんてね……。
『私のことをお主は覚えているであろうか』
「……それはもちろんです。あのとき、僕を少年時代に戻してくれた、神様――いや、魚さんですよね?」
『そうだ。お主を過去に戻したのは正解だった。これからも、数多くの難病や難敵と対峙することになるであろうが、どうかそれに打ち勝ってほしい』
「はい……」
僕がそう答えた直後だった。まもなく、体全体がどこかに引っ張られるような感覚がしたかと思うと、次第に自分の意識が回復していくのがわかった。
「――ゴホッ、ゴホッ……こ、ここは……?」
「おぉ、目覚めたかね、クロムよ」
「……バ、バロン先生――イタタッ……!」
目の前にバロン先生いたので起き上がろうとしたら、気絶しそうなほどの痛みが腰に走った。
「こらこら、まだ安静にしていなさい」
「は、はい……」
「とはいえ、もう峠は越えたから大丈夫だ。しかしだね、あんな酷い状態で心芯症を治すなんて、無茶もいいところだぞ。クロム君は本当に、私の若い頃にそっくりだね……」
「……え? 僕が心芯症を治療したって、どこでそのことを知ってたんですか、バロン先生……」
僕が山賊の頭の病を治したってことは、あいつら以外は誰も知らないはずなのに……。
それまでぼんやりとしていた周囲が見渡せるようになってきて、少し離れた場所にゴードンとミハイネもいるのが見えたんだけど、一様にしまったという顔で青ざめていた。まさか、これって……。
「実はな、その山賊の頭を名乗る男から告発の手紙を受け取ったのだ。とある者たちの指示で、愚かにも支援者ギルドの神童を襲ってしまったが、彼は色んなものを治療してくれた。中でもそれは荒んだ己の心であり、今ではクロムを傷つけてしまったことを深く反省していると……」
「…………」
そうか、山賊の頭が全てを打ち明けてくれたんだ……。
「クロムよ……君は自身がもがき苦しむ中、彼らならず者の病だけでなく、心まで浄化してみせたのだ。それに比べて……ゴードン、ミハイネ……お前たちは嫉妬ゆえなのか何か知らんが、なんというおぞましいことをしてくれたのだ……」
バロンが例の二人にこれでもかと厳しい目を向ける。やっぱりゴードンとミハイネの指示だったんだね。
「バッ、ババッ、バロン先生、こ、これはですな、な、何かの間違いかと……!」
「そ、そうですよっ、バロン先生っ、あ、あ、あたしたちは、クロム君をどれだけ心配したことかぁ……!」
「お黙りなさいっ!」
「「っ!?」」
バロン先生の一喝で、二人が震え上がった。なんていう物凄い迫力なんだ。こんなに勇ましい姿、前の世界線でも見たことない。
「この期に及んで、見苦しい言い訳など無用だ。ゴードン、ミハイネ、お前たちを除名処分とする。二度とギルドに姿を見せるな!」
「「……」」
放心した様子で膝から崩れ落ちるゴードンとミハイネ。
「クロムさん!」
「クロムッ!」
「クロム君っ!」
まもなく、アルフィナ、ヴァイス、オルソンの三人も駆けつけてきた。みんな僕が無事だとわかって喜んでるみたいだけど、泣き腫らしたのか目元が赤いのがわかって、こっちまで泣きそうになってしまう。
でも、これで一件落着にはならないと思う。ゴードンとミハイネを陰から操っていた黒幕が必ずいるはずで、本当の戦いはむしろこれからなんだと、僕はそう確信するのだった……。
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