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23話 前夜祭
しおりを挟む明日は、いよいよ運命のときだ。6か月に一度行われる、支援者の昇格の是非が決められる日なんだ。
今日はその前夜祭が行われるってことで、支援者ギルドでは朝っぱらから僕たち見習いが準備をしている最中だった。
アーチ状の門や道の脇、窓の枠、木の枝を色とりどりの花や鮮やかな布で飾るのはもちろん、それらを映し出す蝋燭や、仮装用のコスチューム、見物客に振る舞う飲食等の準備をしなきゃいけない。
準備をする見習いたちの表情も実に様々で、今にも踊り出しそうな人からがっくりと項垂れる人までいた。
僕の場合は減点もあるだろうけど、積極的に行動した分、それ以上に加点がついてるのは確かだから大丈夫のはず。
「あっ……」
通りがかったアルフィナと目が合って、僕たちは笑顔で手を振り合うことになった。
「羨ましいですよ、クロム君は……」
僕と一緒に作業していたオルソンが溜め息をつく。
「い、いや、まだアルフィナとは付き合ってるわけじゃないし、オルソンなら彼女くらいすぐにできるって」
「そうじゃなくて、むしろ、僕が女の子だったらなあって思ったんですよ。そしたらクロム君の恋人になれるかもしれなかったし……」
「あはは、オルソンは冗談きついな……」
「冗談じゃないですよ。それくらい憧れてるってことです」
「…………」
あまり深く考えないでおこう。そういえば……誰かいないなと思ったら、ヴァイスを見てなかった。
「そういや、ヴァイスが見当たらないけど、オルソンは知ってる?」
「あ、そういえば僕も見てないですよ」
「そっか……」
支援者ギルドへ向かうときもヴァイスだけいなかったし、今日は具合でも悪くて休んだのかな? 少し心配だけど、支援術に長けてる彼なら大丈夫だろう。
準備作業が佳境を迎える頃、周囲はいつの間にか暗くなってきて、敷地内に散りばめられたキャンドルの灯が目立つことで幻想的な光景が広がり始めた。もうすぐ待ちに待った前夜祭の時間だ。
前の世界線では、僕は独りぼっちでぼんやりと眺めてるだけだったっけ。そうそう、思い出した。
ダランのやつがドヤ顔でアルフィナと手を繋いで歩いてて、みんなから冷やかされてたんだよな。そのときはアルフィナのほうが露骨に嫌がってて可哀想なんて声も上がってたけど、結果的にはダランの奥さんになったわけだから、多少強引なくらいのほうがいいってことだ。
「それじゃ、クロム君、僕はそろそろ失礼しますよ」
「あ、オルソン、お疲れ……って、どうしてニヤニヤしてるんだ?」
「すぐにわかると思いますよ!」
オルソンはそう言って足早に立ち去ってしまった。一体どうしたんだろう?
「――クロムさんっ」
「え、あ……」
振り返っても誰もいないと思ったら、アルフィナが僕の後ろで座り込んでて、舌を少し出しながら見上げていた。
よーし……そういうことなら僕もお返しに悪戯してやろうってことで、しばらく気付かない振りをすることに。
「あれ、アルフィナの声がしたような……?」
「もうっ、気付いてるのバレバレですよぉ?」
「あはは……」
僕はそれからアルフィナと手を繋いで前夜祭に参加することになった。
まさかこの世界線だと僕がダランの代わりになるとは。あいつの姿は今のところ見ないけど、どこかでまた悪巧みを企んでる可能性もあるし気を付けないと。
「はぁぁ、この景色、なんだか支援者の私たちのほうが癒されますね……」
「だね……」
僕はアルフィナの言葉に相槌を打つ。いつも見慣れた支援者ギルドなのに、全然別世界のように感じる。独りぼっちだった以前の世界線も味わっているだけに、僕は余計にそう感じられるのかもしれない。
「「「「「ヒューヒュー!」」」」」
「「……」」
悪魔のお面で仮装した同僚たちから冷やかされてなんとも照れ臭かったけど、アルフィナは嫌がるどころかほんのりと顔を赤らめながらも笑ってくれたのでよかった。
「クロムさん……」
「ん……?」
アルフィナの僕の手を握る力が、ほんの少しだけ強まったのがわかった。
「あのとき、本当に怖かったんですよ……?」
「あのとき……?」
「ほら、石像症を治したときです」
「あぁ、あのときね……」
「私もヴァイスさんみたいにもうやめてくださいって叫びたかったですけど、声すら出ませんでした。クロムさんが死んじゃったらどうしようって思うと、怖くてたまらなくて……ぐすっ……」
「…………」
アルフィナが目元に涙を溜めながら話すので、僕は目のやり場に困った。
「……ごめん、心配させちゃって――はっ……?」
いきなりアルフィナが抱き付いてきた。
「ア、アルフィナ……?」
「私、小さいときから引っ込み思案で、ずっと苦しんできました。だから勇気が欲しいんです」
「…………」
「クロムさん、どうか私に翼をください。これが、今の私が出せる精一杯の勇気です……」
「つ、翼って……?」
「これ以上、言わせないでください」
「…………」
アルフィナは真剣な顔で僕を見上げると、目を瞑った。こ、これって、僕にキスをしてほしいってことだよね……?
僕は普段、言いたいことを言うようにしているっていうのに、こんなところでためらってるようじゃダメだ。ここは男にならねば……。
「「……」」
アルフィナと唇を合わせると、心臓が止まるかと思うくらい緊張した。
「クロムさん、私、幸せです……」
「ぼ、僕も――って!」
「クロムさん……?」
「い、いや、今誰かに見られてたような……」
「えぇっ? 変態さんかもですねえ」
「あはは……」
誰かと思って周囲を見渡すけど、もういないみたいだな。やたらと棘のある視線だった気がする……。
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