支援者ギルドを辞めた支援術士の男、少年の頃に戻って人生をやり直す

名無し

文字の大きさ
上 下
23 / 31

23話 前夜祭

しおりを挟む

 明日は、いよいよ運命のときだ。6か月に一度行われる、支援者の昇格の是非が決められる日なんだ。

 今日はその前夜祭が行われるってことで、支援者ギルドでは朝っぱらから僕たち見習いが準備をしている最中だった。

 アーチ状の門や道の脇、窓の枠、木の枝を色とりどりの花や鮮やかな布で飾るのはもちろん、それらを映し出す蝋燭や、仮装用のコスチューム、見物客に振る舞う飲食等の準備をしなきゃいけない。

 準備をする見習いたちの表情も実に様々で、今にも踊り出しそうな人からがっくりと項垂れる人までいた。

 僕の場合は減点もあるだろうけど、積極的に行動した分、それ以上に加点がついてるのは確かだから大丈夫のはず。

「あっ……」

 通りがかったアルフィナと目が合って、僕たちは笑顔で手を振り合うことになった。

「羨ましいですよ、クロム君は……」

 僕と一緒に作業していたオルソンが溜め息をつく。

「い、いや、まだアルフィナとは付き合ってるわけじゃないし、オルソンなら彼女くらいすぐにできるって」

「そうじゃなくて、むしろ、僕が女の子だったらなあって思ったんですよ。そしたらクロム君の恋人になれるかもしれなかったし……」

「あはは、オルソンは冗談きついな……」

「冗談じゃないですよ。それくらい憧れてるってことです」

「…………」

 あまり深く考えないでおこう。そういえば……誰かいないなと思ったら、ヴァイスを見てなかった。

「そういや、ヴァイスが見当たらないけど、オルソンは知ってる?」

「あ、そういえば僕も見てないですよ」

「そっか……」

 支援者ギルドへ向かうときもヴァイスだけいなかったし、今日は具合でも悪くて休んだのかな? 少し心配だけど、支援術に長けてる彼なら大丈夫だろう。



 準備作業が佳境を迎える頃、周囲はいつの間にか暗くなってきて、敷地内に散りばめられたキャンドルの灯が目立つことで幻想的な光景が広がり始めた。もうすぐ待ちに待った前夜祭の時間だ。

 前の世界線では、僕は独りぼっちでぼんやりと眺めてるだけだったっけ。そうそう、思い出した。

 ダランのやつがドヤ顔でアルフィナと手を繋いで歩いてて、みんなから冷やかされてたんだよな。そのときはアルフィナのほうが露骨に嫌がってて可哀想なんて声も上がってたけど、結果的にはダランの奥さんになったわけだから、多少強引なくらいのほうがいいってことだ。

「それじゃ、クロム君、僕はそろそろ失礼しますよ」

「あ、オルソン、お疲れ……って、どうしてニヤニヤしてるんだ?」

「すぐにわかると思いますよ!」

 オルソンはそう言って足早に立ち去ってしまった。一体どうしたんだろう?

「――クロムさんっ」

「え、あ……」

 振り返っても誰もいないと思ったら、アルフィナが僕の後ろで座り込んでて、舌を少し出しながら見上げていた。

 よーし……そういうことなら僕もお返しに悪戯してやろうってことで、しばらく気付かない振りをすることに。

「あれ、アルフィナの声がしたような……?」

「もうっ、気付いてるのバレバレですよぉ?」

「あはは……」

 僕はそれからアルフィナと手を繋いで前夜祭に参加することになった。

 まさかこの世界線だと僕がダランの代わりになるとは。あいつの姿は今のところ見ないけど、どこかでまた悪巧みを企んでる可能性もあるし気を付けないと。

「はぁぁ、この景色、なんだか支援者の私たちのほうが癒されますね……」

「だね……」

 僕はアルフィナの言葉に相槌を打つ。いつも見慣れた支援者ギルドなのに、全然別世界のように感じる。独りぼっちだった以前の世界線も味わっているだけに、僕は余計にそう感じられるのかもしれない。

「「「「「ヒューヒュー!」」」」」

「「……」」

 悪魔のお面で仮装した同僚たちから冷やかされてなんとも照れ臭かったけど、アルフィナは嫌がるどころかほんのりと顔を赤らめながらも笑ってくれたのでよかった。

「クロムさん……」

「ん……?」

 アルフィナの僕の手を握る力が、ほんの少しだけ強まったのがわかった。

「あのとき、本当に怖かったんですよ……?」

「あのとき……?」

「ほら、石像症を治したときです」

「あぁ、あのときね……」

「私もヴァイスさんみたいにもうやめてくださいって叫びたかったですけど、声すら出ませんでした。クロムさんが死んじゃったらどうしようって思うと、怖くてたまらなくて……ぐすっ……」

「…………」

 アルフィナが目元に涙を溜めながら話すので、僕は目のやり場に困った。

「……ごめん、心配させちゃって――はっ……?」

 いきなりアルフィナが抱き付いてきた。

「ア、アルフィナ……?」

「私、小さいときから引っ込み思案で、ずっと苦しんできました。だから勇気が欲しいんです」

「…………」

「クロムさん、どうか私に翼をください。これが、今の私が出せる精一杯の勇気です……」

「つ、翼って……?」

「これ以上、言わせないでください」

「…………」

 アルフィナは真剣な顔で僕を見上げると、目を瞑った。こ、これって、僕にキスをしてほしいってことだよね……?

 僕は普段、言いたいことを言うようにしているっていうのに、こんなところでためらってるようじゃダメだ。ここは男にならねば……。

「「……」」

 アルフィナと唇を合わせると、心臓が止まるかと思うくらい緊張した。

「クロムさん、私、幸せです……」

「ぼ、僕も――って!」

「クロムさん……?」

「い、いや、今に見られてたような……」

「えぇっ? 変態さんかもですねえ」

「あはは……」

 誰かと思って周囲を見渡すけど、もういないみたいだな。やたらと棘のある視線だった気がする……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

元勇者パーティーの雑用係だけど、実は最強だった〜無能と罵られ追放されたので、真の実力を隠してスローライフします〜

一ノ瀬 彩音
ファンタジー
元勇者パーティーで雑用係をしていたが、追放されてしまった。 しかし彼は本当は最強でしかも、真の実力を隠していた! 今は辺境の小さな村でひっそりと暮らしている。 そうしていると……? ※第3回HJ小説大賞一次通過作品です!

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

42歳メジャーリーガー、異世界に転生。チートは無いけど、魔法と元日本最高級の豪速球で無双したいと思います。

町島航太
ファンタジー
 かつて日本最強投手と持て囃され、MLBでも大活躍した佐久間隼人。  しかし、老化による衰えと3度の靭帯損傷により、引退を余儀なくされてしまう。  失意の中、歩いていると球団の熱狂的ファンからポストシーズンに行けなかった理由と決めつけられ、刺し殺されてしまう。  だが、目を再び開くと、魔法が存在する世界『異世界』に転生していた。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

外れスキル【削除&復元】が実は最強でした~色んなものを消して相手に押し付けたり自分のものにしたりする能力を得た少年の成り上がり~

名無し
ファンタジー
 突如パーティーから追放されてしまった主人公のカイン。彼のスキルは【削除&復元】といって、荷物係しかできない無能だと思われていたのだ。独りぼっちとなったカインは、ギルドで仲間を募るも意地悪な男にバカにされてしまうが、それがきっかけで頭痛や相手のスキルさえも削除できる力があると知る。カインは一流冒険者として名を馳せるという夢をかなえるべく、色んなものを削除、復元して自分ものにしていき、またたく間に最強の冒険者へと駆け上がっていくのだった……。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

処理中です...