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22話 競い合い
しおりを挟む僕は石像症を治した翌日、同僚のアルフィナ、オルソン、ヴァイスと一緒に支援者ギルドへ向かっていた。
最近はこの三人でギルドへ通うのが通例みたいになってるんだ。
「本当に、昨日のクロムさんの治療には感動しちゃって、私、あのあと家に帰ってからも思い出して泣いちゃいました……」
「そっかあ」
「僕も、アルフィナさんみたいに家で泣いてしまって、生意気な妹にやーい泣き虫ってバカにされましてね……! いつかクロム君みたいな立派な支援者になって見返してやりたいですよ……」
「あはは……」
「すぐ褒めるやつはすぐに貶すっていうし、正直言うと簡単に褒めたくはないが……昨日の治療には俺も正直痺れた、クロム」
「そりゃよかった……」
みんな石像症のことで盛り上がってて、僕は嬉しい反面照れ臭くてしょうがなかった。
「って、ク、クロムさん、あれ見てください!」
「クロム君、あれ……!」
「あ……」
支援者ギルドの前は、この辺じゃ見慣れない人たちが集まって賑やかになっていた。どうやら、このフローデンの町の新聞記者たちが訪れてるらしい。ってことはまさか――
「「「「「――いた!」」」」」
……やっぱりだ。悪い予感が当たってしまって、記者たちがみんなこっちに駆け寄ってきた。
「君が噂の神童、クロム君だね!」
「まだ見習いなのに石像症を治したって本当ですか!?」
「治したときの心境を聞かせてくださいよ!」
「そこの人は、クロムさんのお友達?」
「ねえねえ、あなたはガールフレンドかなあ? 天才支援者のクロム君について、人柄とか教えてくれないかなあ?」
「「「「……」」」」
僕らは記者たちの怒涛の質問に対して何も答えなかった。支援者ギルドではそういう決まりがあって、僕たち支援者はあくまでも支援をするのが仕事だから、こういう大衆向けの取材は勘違いの元として取材を受けない方針なんだ。
って、あっという間に囲まれてしまった……。
「「「「「せめて一言だけでもっ!」」」」」
「質問には何も答えられないので、すみません――」
「――いい加減にしろ!」
そこで怒声を上げたのはヴァイスだった。
「俺たち支援者は大衆の興味を引くのが仕事じゃない。病を治すのが仕事なんだ! クロムを困らせるような真似をするなら、この俺が絶対に許さない……」
「「「「「……」」」」」
そのあまりの迫力に、記者たちはみんな青ざめた様子で黙り込んでしまった。それでも、彼らは僕たちに対してやったことが礼儀を欠いた行為だとわかってくれたのか、頭を下げて引き上げていった。
そうだ。僕は忘れていた。初対面の人たちが相手であれ、はっきりした態度を取らなきゃダメなんだって。どうしても周りを傷つけたくないと思ってしまうけど、それは臆病なだけであって優しさなどではなく、相手をつけあがらせるだけなんだ。
「ヴァイス、ごめん。こういうことは本来、僕が言わなきゃいけないのに」
「いやクロム、お前が謝る必要なんてない」
「う、うん……そうだよね」
そうだ、謝る必要なんてないんだ。卑屈にならずにもっと堂々と生きればいい。何も悪いことなんてしてないんだから、言いたいことがあるならはっきりと言ってやればいいんだ。
「今度は、私がヴァイスさんの代わりにバシッと言わなきゃですね」
「大丈夫です、僕がヴァイス君に代わって言ってやりますよ……!」
「いや、ダメだ。俺が今まで通り言うから問題ない」
「…………」
なんかみんなで競い合ってるし、僕の出番は当分なさそうだ……。
◆◆◆
「むうぅ、クロムウゥ、しぶといやつめえぇ……!」
「本当にねぇ……」
「うぜえぇ……」
支援者ギルドの教官室の窓辺にて、クロムたちの様子を見下ろす三名――ゴードン教官、ミハイネ補佐官、支援者見習いのダラン――。いずれも苦虫を噛み潰したような表情だった。
クロムを呪いの伝染で死なせるか、あるいは除名に追い込むはずが、逆に名声を高めるきっかけとなり、彼らは悔しさのあまり地団太を踏む格好となってしまったのである。
「やつはギルドマスターからも気に入られているし、目の上のたん瘤とはこのことだ! だがなぁ、私たちにはまだ奥の手があるのだ……」
懐から一枚の手紙を取り出し、ニヤリと笑ってみせるゴードン。
「奥の手? ゴードン、それってなんなの?」
「ほれ、この手紙に書かれてる内容を見てみろ」
「こ、これは……!」
ゴードンの手紙を見たミハイネの顔色が、見る見る青くなっていく。
「がははっ! あのお方らしい残虐なやり口だから、却ってクロムに同情するというものだ」
「確かにねえ。こんな恐ろしい人に目をつけられたんだから、お気の毒としか……」
「あ、あのっ、どんな内容なのか、俺にも見せてもらえないかなあって……」
「「……」」
手紙に興味を示すダランに対し、ゴードンとミハイネはいかにも冷たい視線を投げかける。
「ダランとかいったな? 見習いの分際で勘違いするな。お前みたいな無能はもういらん」
「そうよ、ダラン。目障りだからとっととここから消えてくれないかしら? あと、今までのことは全部忘れなさい。痛い目に遭いたくなければね。無能のあなたがここにいる理由は、それを思い知るためなのよ。わかった?」
「え、そんな――」
「「――いいから消えろっ!」」
「……ぐ、ぐぐっ……」
二人に見捨てられた格好のダランは放心した様子で、項垂れたまま部屋をあとにするのであった……。
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