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17話 変わり者
しおりを挟む――トントントンッ。
「…………」
トントントン、トトンッ、トントントンッ。
「……うるさいなあ、もう……」
朝っぱらから、しつこく玄関のドアをノックされてる。
誰なんだろう……? 眠いしスルーしようかとも思ったけど、ノックが収まる気配は一向になかった。
お、収まったかな……と思ったらまたトントントンとリズムよく叩かれてるし、なんなんだよ、もう……。
「はあ……」
僕は補助術で自身の弱い気を活性化させ、無理矢理眠気を払うとともに起き上がった。
自然に眠気が覚めていくのを待つ感覚と違い、気分がすこぶる悪いのでイライラしてしまう。
「こんな時間に、誰なんだよ、一体……!」
こんな早朝から訪ねて来る人物なんて、どうせまともなやつじゃないと思って僕は声を荒らげながらドアを開けた。
「「あっ……」」
お互いに上擦った声が被ってしまう。なんと、僕の目の前に立っていたのは、自分と同じ支援者見習いの美少女アルフィナだった。
「え、なんで――」
「――ご、ごめんなさい! これ、読んでください……」
アルフィナは僕に手紙を渡したかと思うと、あっという間に立ち去ってしまった。
ま、まさか、告白の手紙……!?
僕はすっかり眠気が吹っ飛んだ状態で、ドキドキしながら手紙を開いてみると、そこにはこう書かれていた。
『大事なお話があるので、今日の正午に近くにカフェでお待ちしてます』
「…………」
その場で言えばいいのに、わざわざ手紙に書くことなんだろうか、これ。アルフィナってちょっと変わってる子なんだな……。
そういうわけで、僕は着替えたあと花畑と支援者ギルドを越えたところにあるカフェへと向かうことに。大きな黒猫のアイアン飾りが目印なんだ。
……お、いるいる。アルフィナはこっちに気付いた様子で、照れ臭そうに少し頭を下げて会釈してきた。
「それで、僕になんの用かな?」
「……あ、あの、えっと……わ、私……」
「う、うん……」
「私を、クロムさんのお嫁さんにしてくださいっ!」
「えっ……」
僕は一瞬、何が起こったのか理解できなかった。え、結婚って……。
「僕たち、まだ付き合ってさえもいないのに、結婚……?」
「えぇっ、付き合うってことが結婚するってことじゃないんですか……!?」
「いやいや……」
冗談かと思ったけど、どうやら本気でそう解釈してたみたいだ。支援者はかなりの変わり者が多いっていうし、アルフィナも例外じゃなかったらしい。
「――お、お恥ずかしい限りです……」
僕が説明すると、アルフィナは耳まで真っ赤にして項垂れていた。
「でも、なんで僕と結婚……いや、付き合おうなんて思ったの?」
「そ、それは、クロムさんの支援術の腕もそうですが、見習いの立場なのに堂々とした立ち振る舞いに惹かれました。私、引っ込み思案なものですから……」
「なるほど……」
そう言われて、ダランが前の世界線で彼女をものにした理由がなんとなくわかった。彼は支援の腕や知識に関してはダメダメだったけど晩年努力してたし、積極性は元々備わってた男だったしね。
「……えっと、お返事は……」
「あ……」
そうだった。どうしよう? そりゃ好意を寄せてもらうのは嬉しいけど、僕はそういう経験をしたことがないから、どうすればいいのかわからないんだ。とはいえ、いつまでもオロオロしてたらダメだと思うし、早くはっきりしないと……。
「クロムさん。もしかして、好きな人がいるんですか?」
「…………」
なるほど、普段積極的だと思われている人間が返事に窮した場合、そういう風に解釈されるのか。これが消極的な人間だったら悪い方向に捉えられそうだけど。
今は恋愛とかしたい気分じゃないし、そういうことにしておいたほうがいいかもしれないな。彼女はあくまでもアイドル的な存在だったから、付き合うとかそういう話になると戸惑ってしまう。
「うん、実はそうなんだ。でも、その人には全然相手にされてなくて」
「そうなんですね……。じゃあ、私にもチャンス大ありですね!」
「え……」
「私、クロムさんに相応しい人になれるように頑張りますね。もっと支援者の勉強をして、クロムさんに近付きたいです。あなたはずっと上の世界にいける人だと思うので」
「ごめんね、アルフィナ。折角告白してくれたのに」
「いえっ! ますます好きになっちゃいましたよ!」
「あはは……あ、そういえば、そういえば、この前アパートに来た?」
「いえ、今回が初めてですよ? 色んな人に聞いて回って、今日ようやくクロムさんの住所がわかったんですから」
「そっか……」
じゃあ、大家さんの言ってた子は誰だったんだろう? ちょっと気になるけど、まあいっか。
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