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12話 敵愾心
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闇と十字架にまみれたその場所は、中身が上級支援者の僕でも足が震え、たじろいでしまうほどの迫力があった。
ダランの捜索を始めたものの、気分が悪くなったのかしゃがみ込む中級支援者の姿もちらほら見えたし、支援者見習いにはちと荷が重いように思える。実際、彼らのほとんどはまともに足が動いてなくて、まるで沼の中を進んでるみたいだった。
何より感じるのが、後ろから複数の人間に覗かれ、引っ張られているような異質な気配。足に幾つもの手が絡んでくる感覚で、いつ大変なことが起きてもおかしくない空気で充満している。
絶対に覗いてはいけない深淵の闇をひしひしと感じるから、僕はいつでも対処できるようにと、気力や筋力を活発化させる補助術を切らさないようにしていた。
疲労は蓄積しやすくなるが仕方ない。支援術っていうのは、年数による経験も大きいんだ。だから勘は当たりやすくなるし、近いうちに必ず何かが起こるはず――
「――はっ……!?」
茂みの前を通ったときだった。何かが背後に迫ってくるような気がして咄嗟に振り返ると、棒を振り上げた少年――尋ね人のダラン――がいた。
「死ねえええぇぇぇっ……!」
「ぐっ!?」
間一髪で棒をかわすことができたけど、本当にギリギリだったので肝を冷やす。おいおい、一体どうして僕はダランに襲われてるっていうんだ。
「な、何をする!? ダラン、やめろっ!」
「うるせえぇっ! クロム、お前が目障りなんだよっ……! お前なんかがいるから、俺は失敗するんだよおぉっ……!」
「待てよ、ダラン、君とはまともに喋ってもいないのに、一体誰の差し金なんだ……!?」
「うるせえええぇぇっ!」
一切ためらう様子もなく、棒を振り下ろしてくるダラン。本気で殺すつもりなのか。
確かに彼は嫌なやつではあるけど、前の世界線じゃここまで露骨なことはしてこなかった。それに、一人でこんな計画性のあることを実行できるやつじゃない。必ず背後に誰かがいる。一体誰だ? 教官のゴードンか、あるいは補佐官のミハイネか……? いや、この二人だと黒幕にしては小物すぎる――
「――ぐぐっ……!」
僕は小石か何かに躓き、転びかけてヒヤッとしたけど、なんとかバランスを保ちつつダランの攻撃も回避することができた。
「ちっ……!」
「…………」
空振りに終わったダランの舌打ちが耳に届き、僕は自身の体が燃え上がるように熱くなるのがわかった。奇襲された驚きや恐怖心よりも怒りのほうが上回った格好だ。
「ダラン……支援者の卵が人殺しをするつもりなのか……!?」
「う……うるせえっ! さっさと死ねやあぁぁぁっ! 支援の腕では負けても、喧嘩の腕なら負けねえってんだよおおぉっ!」
「それはどうかな」
「何――ぐがっ!?」
ダランが息巻きながら棒を振り下ろしてきた直後、僕は素早く避けると続けざまに顔を殴り飛ばしてやった。
相手が喧嘩の腕に自信を持ってるっていうなら、こっちには30年の経験がある。恨みがあって患者を襲おうとした人物を相手に格闘することだって何度かあった。
「うごっ……な、なんなんだよ……なんなんだよお前……!?」
僕の攻撃に対しダランは驚き、焦りを隠せない様子。それまで攻撃する一方だったのに、こうして反撃されてるわけだからね。
「おごっ……!?」
僕の腰の入ったパンチがダランの腹部にめり込み、彼は棒だけじゃなく膝も落とした。肝臓付近にまともに命中したから、しばらく立つことさえできないはず。
「ダラン、もう諦めたほうがいいよ」
「ぎぎっ……負けねえ。俺は、絶対に、何がなんでも、死んでも負けねえぇぇ……」
「…………」
そのとき、僕は何か言いしれようのない恐怖心に包まれた。違う、今のはダランの声じゃなかった。色んな声が混ざったかのような、そんな不気味な声だった――
「――があああぁぁっ!」
「っ!?」
気が付くと、僕はダランに馬乗りにされ、首を絞められていた。な、なんてスピードとパワーだ。まったく対応できなかった……。
「死ねっ、死ねっ、死ねええぇぇぇっ……」
「ぐぐぐ……」
ダランの目は怪しく光っていて、間違いなく人間のものじゃないとわかった。
これは……そうだ。あのときダランの肩を掴んでいた悪霊が、彼の敵愾心に共鳴したのか憑依したんだ。
「…………」
だ、ダメだ、呼吸が苦しいだけじゃなく、視界が霞んできて意識が朦朧としてくる。力が全然入らなくなってきてるし、僕はもうダメなのか。二度目の人生も失敗に終わってしまうっていうのか……。
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