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11話 行方不明

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「あれ……なんか一人足りなくね……?」

「えっ、誰かいないっていうわけ?」

「ほら、あいつだよ。なんだっけ? なんかやたらと絡んできて、すげー馴れ馴れしいやつ」

「あー、いたいた、一人だけ妙に浮いてた見習いのやつね。多分そいつだわ!」

「…………」

 休憩時間が終わり、僕たちは墓地の中央にある広場に集合したわけなんだけど、一人だけ姿が見当たらなくて周囲は騒然とし始めていた。

 みんなからまだ名前は出てこないけど、下級支援者たちが確認作業を急いでる最中だし、ここにいないのが支援者見習いの一人、ダランであると判明するのは時間の問題だろう。

 彼は普段から色んな意味で目立つ男だっただけに、いなくなるとすぐにわかってしまうってわけだ。

「どうやら、ダランだけいないみたいね。もしかして道に迷ったのかしら。それか、どこかでまた倒れてるのかもしれないわね……」

 顎に手を置いて冷静に話すミハイネ。なんだかいまいち感情が籠もってないように聞こえるのは僕だけだろうか? 見習い一人が行方不明になるって、かなり急を要する事態だと思うんだけど……。

「こうしちゃいられないわ、みんなで手分けして探しましょう。先生はみんなの目印としてここで待ってるから、何か異変があったらすぐ戻ってきなさい。いいわね?」

「「「「「はいっ……!」」」」」

 そういうわけで、僕を含めてみんな不安そうな様子だったものの、ダランを見つけるべく一斉に散って探し始めた。

 いくらそのほうが効率がいいとはいっても、夜の墓地をバラバラになって捜索するっていうのは心臓に悪いからね。それでも人が一人行方不明になるっていう緊急事態だから仕方ない。

 それにしても、ダランは一体どこへ行ったんだろう。前の世界線じゃ道に迷うなんてことは一切なかったのに。

 今は孤立気味になってるとはいえ、なんせ抜け目のない狡猾な男だからね。迷子になるというより、霊に絡まれて失神してる可能性のほうがまだ高そうだ。

「――うっ……?」

 ダランを探し始めてまもなく、僕はを感じた。

 どこからか、殺気を集めて凝縮したかのような強烈な邪気を感じたんだ。浄化できなかったあの悪霊のこともあるし、より気をつけたほうがよさそうだね……。



 ◆◆◆



「…………」

 そこは墓地にある茂みの中、ダランが息を潜めるようにして広場の様子を窺いつつ、ミハイネから言われたことを思い出していた。

『いいわね? ダラン。この棒でクロムの後頭部を思い切り叩いてやりなさい』

『ミ、ミハイネ先生、本当にあいつをやっちまうんですか……』

 ダランはミハイネから受け取った棒を握りしめ、緊張した表情で目を泳がせる。

『大丈夫、心配はいらないわ。これだけ暗くて視界も悪いから誰かに見られる心配はないし、クロムは行方不明になったあなたを探しているときに転倒して、頭を打って死んだってことにすればいいんだから』

『……た、確かに……』

『いい? 彼があなたの近くに行ったときに合図するから、確実に仕留めるのよ。もしクロムが生きてたらこっちが不利になるんだから、死ななかったらその場で首を絞めてでもとどめを刺してやりなさい』

『りょ、りょ、了解……』

 ダランは血走った眼を、クロムのほうに向ける。

(悪く思うな、クロム……。俺はお前を殺し、成り上がってやるんだ。悪名は無名に勝る。世の中ってやつは、どんな手段であれ結果を出したやつが勝者だ。お前が手に入れたものを、根こそぎ俺が奪い尽くしてやる――)

「――はっ……!?」

 そこで、背後に気配を感じたのか振り返るダラン。誰もいなかったものの、体の震えは増すばかりだった。

(ち、畜生、こええぜ……ま、まあよく考えたら墓地の中だしな……バケモンに纏わりつかれる前に、とっとと終わらてやる……)

 そのときだった。広場の中央にいるミハイネの手元が、一層明るく光った。

(よ、よぉーし、クロムが俺の近くに来たってことの合図だ。やってやる。俺はやってやるぞおぉぉぉ……!)

 それから少し経って茂みの横をクロムが通りかかり、ダランが自らに補助術をかけ、勢いよく立ち上がると一目散に標的の背後へと走った。

(これで終わりだ、クロム。俺がこの手でお前の人生に終止符を打ってやる……!)
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