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8話 見る目
しおりを挟むあれから休日を挟んだ三日後のことだった。
二回目の研修が行われるってことで、僕ら支援者見習いたちは早朝から支援者ギルドに招集されることになった。
不思議なのが、一回目の研修からあまり間を置かなかったということ。以前の世界線では、ダンジョンでの研修が終わってから一週間後だったのに。
二回目の研修場所は郊外にあり、そこへ行くにはかなり時間がかかるため、僕たちはまだ薄暗いうちから列をなして向かっていた。馬車を使えばいいと思うんだけど、体を鍛えるのも支援者の務めらしいからね。
研修場所がどこなのかは着いてからのお楽しみだとゴードン教官が唾を飛ばしながら上機嫌に語っていたが、僕は経験済みなので当然それについては知っていた。
郊外の、それも同じ方向へ行くわけだから未来が変わってるとは思えないし、例の墓地で確定だろう。
そこで、中級支援者による成仏できてない幽霊たちの浄化を見学するんだ。浄化術自体、基本的にそこまで難易度は高くないけど、霊の力次第ではグッと除霊が難しくなる。
墓地にはその墓に関係する亡霊だけじゃなく、引き寄せられてフラリとやってくる霊もいるんだとか。タイミングによっては強い力を持つ悪霊も出現するみたいだし注意が必要だ。
「あ、あの……!」
「ん?」
誰かに話しかけられたと思ったら、あの気弱な少年のオルソンだった。なんだか、痛いくらいの熱い眼差しを感じる。
「え、えっと、ぼぼぼっ、僕、オルソンっていいます! そそ、その、クロム君、ダンジョンでの治療、凄く格好良かったです。同じ見習いとは思えなくて、憧れてます……」
「あ、そうなんだね。格好つけたつもりはなかったけど……」
「いやもう、滅茶苦茶格好良かったです! 正直、見習いじゃなくて上級者じゃないかって疑うくらいでした……」
「あはは……」
僕の中身は上級支援者だし、あながち間違いじゃない。
もしや、狡賢いダランのやつに紹介しろとでも言われたのかと思って彼のほうを見たら、今度は別のやつに一方的に話しかけていて、露骨に迷惑そうな顔をされていた。
「あ、ダランって人のことが気になるなら、僕はもう彼とは一切関係ないので心配しなくていいですよ。迷惑だからあなたとは付き合いたくないですってはっきり言ったので」
「そっか……」
オルソンって気弱に見えたけど、結構気の強いところがあるんだな。なるほど、だから前の世界線でダランは僕のほうを選んで寄生してきたってわけか。見る目がある。
今じゃオルソンに見限られ、新たなターゲットにも相手にされてなくて気の毒にすら感じるけどね。ただ、あの男はそういう同情心にすらつけこんでくるから油断は禁物だ。
それから僕はオルソンとしばらく会話することになり、質問されたときは色々と教えてやることに。そのたびに熱心にメモを取っていたので、きっと伸びるだろうな。
実は彼、とある事件に巻き込まれて死ぬことになるんだけど、それはまだ先の話だから大丈夫だろう。
それから1時間くらい歩いたあと、僕たちの前に十字架が沢山並んだ場所――郊外にある墓地――が姿を現し始めた。それで察したのか、一回目の研修のようにみんなの口数が少なくなり、その反応に大いに満足した様子でゴードンが下品な笑い声を上げた。
「ククッ……も、もう察しただろうが、見習いどもっ、次にお前らが向かうのは、あの墓地だっ! ど、どうだ、怖いか、チビりそうか!? がははははっ!」
自分はまったく怖くないとでも言いたげな様子。声が震えてるのはバレバレだ。
まだ明るい時間帯だというのに雰囲気たっぷりだからしょうがないけどね。確かあの墓地の前でキャンプをする予定だったはず。
そうそう、今思い出した。夜になってから本格的に霊の浄化作業が始まるんだった。そういえば、失神する子とかも普通にいたな。当然減点対象になってしまうわけだけど、そういう子は大抵下級支援者にもなれなかったから、かなりの減点になるんだと思う。
いかにも意地悪なゴードンが研修場所として選びそうなところだけど、彼だけは体の調子が悪いとかいってテントからずっと出てこなかったんだよね。
それでも、あの墓地は印象的な場所として、今でも心に強く残ってるから、僕にとっては怖さもあるけど凄く楽しみだった。
そうか、またあの子と会えるんだな……。
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