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 自分のジョブレベルが3になり、エリュネシアとともに屋敷へ戻る頃にはもう夕方になっていた。

 楽しいと思っていると時間があっという間に過ぎるというのは本当だな。現実世界じゃ仕事場での時間が異様に長く感じたもんだ。

 さらに、忠実なメイドが夕食まで当たり前のように作ってくれるからありがたい。以前は一人寂しくカップラーメンか弁当を買うか、あるいはたまに外食か自分で何か作って食べるだけだったから。

「すみません、シオン様、節約のためですけど、いつもこんな質素な食事で……」

「え、いや、美味しいよ」

「ふふっ。シオン様のそういうところは、本当にお変わりがなくて好きです!」

「……」

 へえ、旧シオンもいいところはあったんだな。

「お野菜とかは全部残されていましたけどね……」

「あっ……」

 俺が普通に野菜を食べているところを不審気に見られてしまった。

「おかしいですよねえ。以前は間違って口にしようものなら、苦い顔で吐き出すほどでしたのに……」

「あ、アレだよ、エリュたん」

「アレ……?」

「ほら、あれだけ運動したおかげなのか、いつの間にか野菜も美味しく感じちゃって、普通に食べちゃってたんだ……」

「あー、それででしたか! シオン様がジョブを授かってからというもの、良い連鎖が続いてますねえ……」

「う、うん……」

 なんとかごまかせたみたいだな。

 さて、食べ終わったし食器を洗うか。

「シオン様、それはメイドであるわたくしめの仕事ですっ!」

「あ……」

 ついつい、いつもの癖で普通にやってしまっていた。これじゃ彼女の立場がない。

 さあ、エリュネシアが家事をしてくれているその間に、俺は自室に戻って音を調和させる作業に入るか……。

「……」

 部屋に入ったあと、俺は重要なことに気が付いてしまった。

 どうすれば風の音と怒声を調和できるんだ?

《二つの音をイメージしながら同時に鳴らしてください》

 心の声が聞こえてくる。同時に、か。なるほど……。

 そういうわけで、風の音と怒声をイメージしつつ例の剣型楽器の弦を爪弾いてやった。

《咆哮の歌を習得しました》

 咆哮の歌だって? なんか本格的だな。どんな効果なのか見てみるか。

 名称:咆哮の歌
 習得可能レベル:3
 効果:演奏者自身、および味方だと思っている者を除く、この音を聞いた者に対し、自分よりレベルの低い相手を麻痺させる。
 副作用:体力と気力の消耗・小
 調和:不可

 これは……逃げ惑うゴブリン相手に使えるし、今の状況にはうってつけの技だな。明日が楽しみになってきた……。



『『『『『グギャアアアアッ!』』』』』

 あくる日のゴブリンエリアにて、やつらの断末魔の悲鳴が響き渡る。

 思った通り、フォレストゴブリンたちは俺を見て一斉に逃げようとしたが、咆哮の音によって身動きが取れなくなり、俺のソードギター(本日命名)により、同時に首が飛んだ。

 至高の瞬間だが、俺はゴブリン狩りを始めて早々、エリュネシアの元へと引き上げていった。

「あれれ、シオン様、もう帰られるのですか? もしかして、どこか具合でも悪いのでしょうか……」

「いや、違う、ほかに理由がある」

「あ、わかりました、おパンツの時間ですね!」

「いや、違う」

 そんな時間があってたまるか。

「そ、それでは、胸をお揉みなる時間……?」

「いや、それも違う!」

「で、では、一体……はっ、もしや、いかがわしい行為をなさる時間ではっ……で、ですが、わたくしめはまだ処女でして……そ、それでもよければ、屋敷内で真っ暗にして……」

「いや、だから勘違いするなって! レベルを上げさせようと思ってな」

「えぇ? レベルを上げさせるということは、まさか、わたくしめの……?」

「ああ、ヒールをするたびにきつそうだしな。エリュは俺よりずっと前にジョブを貰ったのにまだレベル3だし、今のままじゃ上がらないんじゃないか?」

「た、確かにそうですが……」

「とにかく来るんだ」

「シ、シオン様っ!? わたくしめは、まだ心の準備がっ……!」



 ◆ ◆ ◆



『グギャアアァッ!』

「「「「「……」」」」」

 動かなくなったゴブリンに対し、エリュネシアが杖で殴りつける場面を見つめるルチアードと、その配下たち。

「見たか、ゲラード。シオン殿は、獣の遠吠えのような演奏でゴブリンどもを動けなくしたのだ。これは凄いぞ……」

「ふわぁ……一応見ましたよ。しかし、領主様はなんでまたメイドなんかに殴らせてるんですかねえ」

「わからぬのか、ゲラード? あれはおそらく仲間を守るためでもある。エリュネシア殿は女中という身分ではあるが、先代様からシオン様の世話を任されてきたのだ。自分だけでなく、仲間のレベルを上げようとなさるとは、なんと思慮深い方なのだろうか……」

「いささか、大袈裟な解釈じゃないですかねえ?」

「ゲラード……」

「そ、そんなに睨まないでくださいよお。てか、もう領主様の力を認めちゃってもいいんですかい? ルチアード様が個人的に気に入ってるのはわかりますが、それなら尚更、力量が先代様クラスでなければ、領主という重荷を下ろしてやるべきですよ」

「そんなことは百も承知。それがしを舐めるな。その件に関しては私情を捨てて結論を出すつもりでいる。今日を入れてあと四日後にな……」

 シオンたちがいる前方を食い入るように見つめるルチアード。その鋭い眼差しが途絶える気配は一向になかった。
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