9 / 21
強者
しおりを挟む「おい、シオンちゃん。その木刀はなんなんだよ。まさかお前、【吟遊詩人】のくせに、そんなちゃちなもんで俺たちと勝負しようってんのかぁ?」
「こいつさー、気でも狂ったんじゃね? あ、元から頭おかしいか」
「「ププッ――」」
「来いよ」
「「へ……?」」
「早く来い。俺が相手になってやる……」
「シ、シオン様っ、格好いいですぅー」
「「こ、こいつっ……!」」
顔を真っ赤にして、見るからに激昂した様子で二人組の男――ランガスとロビン――が襲い掛かってきた。
なるほど、二人ともそこそこ鋭い攻撃だが、踏み込みが甘いので余裕でかわすことができたし、すぐに大体の力量を把握した。彼らよりジョブレベルが低い【剣術士】のロゼリアにすら劣っているのだ。
才能とは残酷なものだと痛感するが、こいつらに同情するつもりはない。
「ぐがっ!?」
「おげっ!?」
俺の一撃を立て続けに食らい、ランガスとロビンが痛そうに頭を抱えて座り込む。手加減したとはいえ、相当に苦しいはずだ。
「もっとやるか?」
「ぐぐっ……シ、シオンちゃん……よっぽど死にてえようだなあああ!?」
「ぎぎっ……も、もうこいつさあ、殺しちまってもいいんじゃねえぇ!?」
「……」
予想通りの反応。この下種どもには簡単に失神させずに、もっと痛い目に遭わせてやりたかったからこれでよかった。
「ロビン、こうなったらアレを頼む!」
「オッケー、ランガス」
「っ!?」
その直後だった。ランガスに何かを促された【槍使い】のロビンが、槍を片手で激しく回転させ始めたんだ。
「へへっ……!」
この尋常じゃない回転スピード……おそらくロビンの習得技のローリングスピアとかいうやつだろう。
下手に突っ込めばこっちがやられそうだ――って、こっちに突っ込んでくる。
「チャンス到来っ!」
「はっ……」
ロビンの技に気を取られている間に、【剣使い】のランガスが迫ってくるとともに大きく剣を振りかぶってきた。
「シ、シオン様あぁっ!」
「……」
リュートを手放したことで、素早くなる風の音の効果は切れてるとはいえ、俺の剣道七段の腕を舐めちゃいけない。
剣道とは、体や技術だけではなく、心も大いに鍛えるものだ。
磨かれた精神のおかげで俺は一切焦ることもなく、目前まで迫ったランガスの剣を木刀で受け流すことができたし、ロビンの槍も回らなくなった。
おそらく、技を出し続ける力も残ってないほど消耗したというより、効果が切れたから使えなくなった感じだな。となると、次に技を出すまで時間がかかりそうだ。
「「へへっ……」」
「え……」
やつらがニタッと嫌な笑みを見せてきたと思ったら、俺の木刀が中央からポッキリと折れてしまっていた。
なるほど、これがランガスの習得技のバッシュってやつか。ちょっと受け流しただけで、まともに受けてもいないのにこうも綺麗に折れるなんてな……。
「武器が折れたらもう戦えないだろ? おいシオンちゃん、降参しろよ」
「そうそう。シオン、今ならお仕置きするくらいで、命だけは取らないぜー?」
「降参だと? バカ言うな。確かに武器は折れたが、使えないわけじゃない」
「「へっ……?」」
俺は折れた木刀を両手に持った。剣道の世界で二刀流をやる人間は少ないが確かに存在していて、俺も専門ではないが修行したことのある一人なんだ。
こいつらの特徴に関しては習得技も含めて理解できたし、とっとと終わらせてやる……。
「「――がはっ……」」
すっかり腫れあがった顔で倒れ込む二人組の男。最早どっちがランガスでロビンなのかも区別がつかないほどボコボコにしてやったから、しばらくは俺に遭遇しても目を合わせようとすらしないだろう。
「ヒールッ……! シオン様、とっても素敵でした……!」
エリュネシアに後ろから抱き付かれる。
「お、おいおいエリュ、背中に胸が当たってるって……」
「ふふっ。お気になさらず、しばらくこのままにさせてください、シオン様……」
「……」
ランガスとロビンの不良コンビなんかよりよっぽど強敵だな、彼女は……。
◆ ◆ ◆
「な、なんという変わり様なのだ……」
スライムが出現するフィールドの片隅にて、領主シオンとならず者たちの戦いを、微かに震える女騎士を筆頭に見つめる者たちがいた。
「ギルバート家の恥、史上最低の貴族とまで言われたあのシオン殿が……」
「ルチアード様、そう簡単にあの男……いえ、領主様を信用なさるんですかい……? まぐれかもしれないのに……」
ルチアードの耳元に向かって囁く、ローブを着込んだ顎鬚の目立つ男。
誰もが驚いた様子で戦況を見つめる中、彼だけは怪訝そうな表情を崩すことはなかった。
「ゲラード、お前もあのならず者との戦いを見ただろう。あれは決してまぐれなどではない。シオン殿は普段怠けているようで、いつの間にか剣術を鍛えておられたのだ……」
「しかし、いくら剣術に長けているとしても、所詮は戦闘に向いてないといわれる【吟遊詩人】ですぜ?」
「……何が言いたい?」
「あんな外れ職の領主様は早めに見捨てたほうがいいのではと。王様も病弱ですし、跡継ぎもおられないこの群雄割拠の匂いが漂う世の中、ほかの有力な貴族に乗り換えたほうがいい気がしますがねえ……」
ゲラードという男の言葉に対し、露骨に顔を歪ませるルチアード。
「少しは口を慎むのだ、ゲラード!」
「み、耳元で怒鳴らないでくださいよ……」
「お前が変なことを言うからだ。確かにシオン殿には物足りないところがあるが、それがしは約束通りもう少し様子を見ようと思う。あの方があそこまで成長しているのに外れ職だからと見捨ててしまったら、それこそ領兵たちを統率する身として先代様に申し訳が立たぬではないか……」
「んなこといって、ルチアード様の目がさっきから女の目になってますぜ?」
「ゲ、ゲラードォ……」
「し、失敬失敬……そんなに睨まないでくださいよ。ルチアード様がそこまで言うなら、あっしもしばらくは様子を見させていただきますぜ」
「相変わらず狡賢い性格だな、お前は……」
「へへっ……素直なやつばっかりより、あっしみたいに捻くれたのもちょっとはいたほうが、組織ってのは上手く回るもんですぜえ……」
呆れ顔のルチアードに向かって、ゲラードは白い歯を出してニヤリと笑ってみせた。
1
お気に入りに追加
231
あなたにおすすめの小説
俺だけ成長限界を突破して強くなる~『成長率鈍化』は外れスキルだと馬鹿にされてきたけど、実は成長限界を突破できるチートスキルでした~
つくも
ファンタジー
Fランク冒険者エルクは外れスキルと言われる固有スキル『成長率鈍化』を持っていた。
このスキルはレベルもスキルレベルも成長効率が鈍化してしまう、ただの外れスキルだと馬鹿にされてきた。
しかし、このスキルには可能性があったのだ。成長効率が悪い代わりに、上限とされてきたレベル『99』スキルレベル『50』の上限を超える事ができた。
地道に剣技のスキルを鍛え続けてきたエルクが、上限である『50』を突破した時。
今まで馬鹿にされてきたエルクの快進撃が始まるのであった。
スキルスティール〜悪い奴から根こそぎ奪って何が悪い!能無しと追放されるも実はチート持ちだった!
KeyBow
ファンタジー
日常のありふれた生活が一変!古本屋で何気に手に取り開けた本のタイトルは【猿でも分かるスキルスティール取得法】
変な本だと感じつい見てしまう。そこにはこう有った。
【アホが見ーる馬のけーつ♪
スキルスティールをやるから魔王を倒してこい!まお頑張れや 】
はっ!?と思うとお城の中に。城の誰かに召喚されたが、無能者として暗殺者をけしかけられたりする。
出会った猫耳ツインズがぺったんこだけど可愛すぎるんですが!エルフの美女が恋人に?何故かヒューマンの恋人ができません!
行き当たりばったりで異世界ライフを満喫していく。自重って何?という物語。
悪人からは遠慮なくスキルをいただきまーーーす!ざまぁっす!
一癖も二癖もある仲間と歩む珍道中!
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編
ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。
yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。
子供の頃、僕は奴隷として売られていた。
そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。
だから、僕は自分に誓ったんだ。
ギルドのメンバーのために、生きるんだって。
でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。
「クビ」
その言葉で、僕はギルドから追放された。
一人。
その日からギルドの崩壊が始まった。
僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。
だけど、もう遅いよ。
僕は僕なりの旅を始めたから。
Sランクパーティーから追放されたけど、ガチャ【レア確定】スキルが覚醒したので好き勝手に生きます!
遥 かずら
ファンタジー
ガチャスキルを持つアック・イスティは、倉庫番として生活をしていた。
しかし突如クビにされたうえ、町に訪れていたSランクパーティーたちによって、無理やり荷物持ちにされダンジョンへと連れて行かれてしまう。
勇者たちはガチャに必要な魔石を手に入れるため、ダンジョン最奥のワイバーンを倒し、ドロップした魔石でアックにガチャを引かせる。
しかしゴミアイテムばかりを出してしまったアックは、役立たずと罵倒され、勇者たちによって状態異常魔法をかけられた。
さらにはワイバーンを蘇生させ、アックを置き去りにしてしまう。
窮地に追い込まれたアックだったが、覚醒し、新たなガチャスキル【レア確定】を手に入れる。
ガチャで約束されたレアアイテム、武器、仲間を手に入れ、アックは富と力を得たことで好き勝手に生きて行くのだった。
【本編完結】【後日譚公開中】
※ドリコムメディア大賞中間通過作品※
復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜
サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」
孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。
淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。
だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。
1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。
スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。
それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。
それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。
増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。
一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。
冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。
これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。
乙女ゲーのモブに転生した俺、なぜかヒロインの攻略対象になってしまう。えっ? 俺はモブだよ?
水間ノボル🐳
ファンタジー
↑ お気に入り登録をお願いします!
※ 5/15 男性向けホットランキング1位★
目覚めたら、妹に無理やりプレイさせられた乙女ゲーム、「ルーナ・クロニクル」のモブに転生した俺。
名前は、シド・フォン・グランディ。
準男爵の三男。典型的な底辺貴族だ。
「アリシア、平民のゴミはさっさと退学しなさい!」
「おいっ! 人をゴミ扱いするんじゃねぇ!」
ヒロインのアリシアを、悪役令嬢のファルネーゼがいじめていたシーンにちょうど転生する。
前日、会社の上司にパワハラされていた俺は、ついむしゃくしゃしてファルネーゼにブチキレてしまい……
「助けてくれてありがとうございます。その……明日の午後、空いてますか?」
「えっ? 俺に言ってる?」
イケメンの攻略対象を差し置いて、ヒロインが俺に迫ってきて……
「グランディ、決闘だ。俺たちが勝ったら、二度とアリシア近づくな……っ!」
「おいおい。なんでそうなるんだよ……」
攻略対象の王子殿下に、決闘を挑まれて。
「クソ……っ! 準男爵ごときに負けるわけにはいかない……」
「かなり手加減してるんだが……」
モブの俺が決闘に勝ってしまって——
※2024/3/20 カクヨム様にて、異世界ファンタジーランキング2位!週間総合ランキング4位!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる