上 下
4 / 21

豹変

しおりを挟む

 翌日の朝、俺とエリュネシアは領地内の武具屋『双竜亭』へ向かうことに。

 レベルを上げる前に、自分のジョブに合った装備一式を揃えるためだ。

 とはいえエリュネシアの話によれば、貴族だというのに俺たちはご飯を食べるのがやっとで予算はあまりないらしい。これも失態を犯して男爵まで降格した影響が大きいとのこと。

「なるべく安い武器を探さなきゃな……。やっぱりロングソードとか?」

「いえ、【吟遊詩人】ならば楽器ですね」

「えぇ? 楽器で攻撃するのか……」

「そうなると思いますよ?」

「剣じゃダメなのか?」

「剣も使えますけど、それじゃレベルが上がらないんです。私も回復師ということで、ロッドを使わないと上がらなかったですし」

「なるほどな……」

 レベルはレベルでもジョブレベルだし、それを上げるには自分のジョブに相応しい武器を使う必要があるわけか……。

「あっ!」

「……ん?」

 幼い声がして、その方向を見ると小さな男の子が俺のほうを指差していた。その傍らには母親らしき女性が立っている。

「ママ、見て、ヘタレで怠け者の領主様だぁー!」

「こらっ、あんなのと目を合わせちゃいけません!」

「はーい!」

「……」

 親子から侮辱されてしまった。というか、自分の統治する領地内だというのに、あの親子以外にも通りすがりの人間からやたらと冷たい眼差しを感じる。なるほど、旧シオンが屋敷に引きこもりがちだったっていう話もわかるな、こりゃ……。

「シ、シオン様、悔しいお気持ちはわかりますが、どうか……どうか、現実と向き合ってください。決して逃げてはなりません……」

「ん? 俺なら大丈夫だよ、エリュ。行こう」

「え、えぇ……? シオン様、本当に変わられましたねぇ……」

「ははっ……」

 多分、いつもこういう状況で旧シオンは逃げてたんだろうが、俺は違う。現実世界でも上司に小言を言われながらも真面目に働いてきたんだ。こんなことくらいで逃げ出すものか。

 俺たちはやがて目的地の武具屋に到着し、早速物色を開始する。

 あるかどうか不安だったが、ギターとよく似たリュートや小型ハープ、さらにはオカリナのような形状の楽器も普通に置かれてあった。

 ただ全体的に埃を被っていて、長いこと触れられてもいない様子からも、【吟遊詩人】といういジョブ自体珍しいことがわかる。

「コホッ、コホッ、掃除もしていないなんて……」

「そ、それだけ買う客がいなかったってことだな……ゴホッ、ゴホッ……」

「いやー、悪いねー、お客さん。楽器を見てるってことは、もしかして【吟遊詩人】? 珍しいこともあるもんだねえ。それならお安く……って、ポンコツ領主様じゃねえか!」

「え……」

 店員の態度がガラッと変わってなんとも嫌な感じだ。

「帰れ帰れっ! いくら売れないゴミだろうと、領民を守る気が欠片もない冷血な糞領主様に売るものなんて何もねえ!」

「むうぅっ! あなたに何がわかるっていうんですか! シオン様は変わられたんですよ!?」

「変わっただと? あの怠け者の、恥知らずの領主がか? 笑わせるな! この前目撃したときなんて、この男はパンツ一丁で泣きながら走り回ってたぜ!?」

「……」

 旧シオンは腐っても領主なのに追いはぎにでもあったのか? 一体どういう状況なのやら……。

「じゃあ、ここで証明してみせます! シオン様、この生意気な店主に違いを見せつけてやってください!」

「ち、違いを見せるって、一体何をすれば……?」

「おうおう、それなら、俺の一人娘と戦ってみろ!」

「え……」

「ちなみに、娘のジョブは【剣術士】だ。お互いに木刀で勝負してもらう。どうだ、怖いか?」

「そ、そんな!【剣術士】と勝負するなるなんて、シオン様が死んでしまいます!」

「殺すわけねえだろ! 痛い思いはするだろうがな。勝てなくても善戦すりゃ武器を使う価値があるとして売ってやっても構わねえ。ま、どうせ勝負する度胸もねえんだろ?」

「……」

 噂に聞く【剣術士】か、なるほどな、自信満々なわけだ……。

「シオン様、挑発に乗ってはなりません。ほかにも探せば店があるかもしれませんし、ここで購入するのはやめにしましょう。【剣術士】と戦えば、木刀とはいえ無事では済まないと思います……」

「へっ、やっぱり逃げるのか、ヘタレが……」

「いや、やらせてもらう」

「「えっ!?」」

 エリュネシアと武器屋の店主が驚いた声を同時に発した。

「ここまで言われて引き下がったら、それこそ笑い者だしな。やってやるよ」

 エリュネシアの言う通り危険なのはわかるが、旧シオンの評価を変えるには少しでも戦う姿勢を見せなければダメだと思ったんだ。

 それに相手が【剣術士】とはいえ、俺も剣については自信を持ってるからな……。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

世界最強の勇者は伯爵家の三男に転生し、落ちこぼれと疎まれるが、無自覚に無双する

平山和人
ファンタジー
世界最強の勇者と称えられる勇者アベルは、新たな人生を歩むべく今の人生を捨て、伯爵家の三男に転生する。 しかしアベルは忌み子と疎まれており、優秀な双子の兄たちと比べられ、学校や屋敷の人たちからは落ちこぼれと蔑まれる散々な日々を送っていた。 だが、彼らは知らなかったアベルが最強の勇者であり、自分たちとは遥かにレベルが違うから真の実力がわからないことに。 そんなことも知らずにアベルは自覚なく最強の力を振るい、世界中を驚かせるのであった。

【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。 それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく…… ※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。 ホットランキング最高位2位でした。 カクヨムにも別シナリオで掲載。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

月風レイ
ファンタジー
 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

転生王子の異世界無双

海凪
ファンタジー
 幼い頃から病弱だった俺、柊 悠馬は、ある日神様のミスで死んでしまう。  特別に転生させてもらえることになったんだけど、神様に全部お任せしたら……  魔族とエルフのハーフっていう超ハイスペック王子、エミルとして生まれていた!  それに神様の祝福が凄すぎて俺、強すぎじゃない?どうやら世界に危機が訪れるらしいけど、チートを駆使して俺が救ってみせる!

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

処理中です...