没落貴族に転生した俺、外れ職【吟遊詩人】が規格外のジョブだったので無双しながら領地開拓を目指す

名無し

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外れジョブ

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「では、準備はよろしいですかな、シオンさん」

「はい……」

 ギルバート領内のど真ん中にあるという神殿の祭壇前にて、俺は神官の言葉に生唾を飲み込む。

『シオン様、今日のジョブ付与の儀式で全てが決まるといっても過言じゃないです』

「……」

 しかもタイミング悪く、そこでエリュネシアの発言を思い出してさらに重圧を感じる羽目に。

 彼女の説明によると、俺の一族は貴族は貴族でも、強大な力を持っていた父が死んでから没落の一途をたどっているんだそうだ。

 領主が失態を繰り返しているということでどんどん爵位を下げられており、侯爵だったのがたった一年で伯爵、子爵、果ては男爵まで降格したとのこと。これ以上下げられると爵位没収となり、領地も取り上げられて平民にされてしまうらしい。

 この領地は大きな山の麓にあり、山賊やモンスターが襲来するたびに苦しんできたが、それをことごとく退けてきたのも先代様と呼ばれる父親の絶大な力があったからこそだと。

 なので父の血を受け継ぐシオンがどんな凄いジョブを貰うのかと領兵たちから嘱望されていたが、根っからの怠け癖は一向に治る気配がなく、父が亡くなってからもジョブの儀式を拒んでいたとか。

 その間にモンスターの襲来等で、領兵たちが奮闘して撃退したもののかなりの被害が出たらしい。

 それでも彼らが未だに逃げずにいるのは、息子の俺が改心して良いジョブを貰えることに賭けているからだという。それだけの血を持っているってことだ。

 たとえば【剣術士】なら、それまで剣を磨いてきた人間に対しても少し努力すれば勝てるようになるし、さらに上位の【剣聖】なら、父と同じジョブということで一人でモンスターの大群を追い払えるとのこと。

 しかし、ここで外れジョブを引いた場合、すべて終わる可能性が高いそうだ。

 今、少数だがついてきている兵士たちは失望のあまり挙って去るだろうし、領地を守れなくなるのは明白だとか。

 もしそうなったら逃げなければならないが、領地を捨てたということで王様から爵位を取り上げられるだけでなく、政敵が多かった父の子息ということで、ライバルの貴族たちから命を狙われても不思議じゃないらしい。

「あなたのジョブは……ズバリ、【吟遊詩人】と出ました」

「ぎ、【吟遊詩人】……? それはどんなジョブなのかな?」

「歌って踊るジョブ、といったところでしょうかな。まあ、呑気なもんですな」

「の、呑気って……外れってことか?」

「まあ、戦闘には向いてないでしょうな」

「……」

 戦闘には向いてない、か。神官の言葉は、遠回しに外れジョブと言ってるようなものだな。

「「「「「ざわっ……」」」」」

 周りにいる俺の配下たちからどよめきがあがる。

「ぎ、【吟遊詩人】とは、一体なんなのだ?」

「今は歌って踊っている場合ではないというのに……」

「シオン様が改心なされてジョブを受けられたのはよいが、ここまで外れとは、誠に残念だ……!」

「そもそも、先代様のようにトップに立てるような器ではなかったのでは……?」

「……」

 これはまずいぞ。みんな言いたい放題で、今にもここから逃げ出しそうな、そんな不穏な空気が蔓延してしまっている。この空気を変えるには俺が何か言うしかあるまい。

「みんな、これから俺が話すことを聞いてくれ!」

「「「「「……」」」」」

 家来たちが驚いた顔でこっちを振り返ってきた。

「【吟遊詩人】というジョブ、確かにパッとしないように見えるが、まだ外れだと判断するのは早すぎだ! 新領主の俺に大いに不満があるのはわかるが、もう少し長い目で見てはくれないだろうか!?」

 俺の言葉に対してどよめきが上がったあと、一人の凛々しい女騎士が前に出てくるなりひざまずいてきた。確か兵士たちを統率している女で、只者ではないというオーラをこれでもかと醸し出している。

「それがし、正直に申し上げますと、シオン殿を少々みくびっておりました……」

「みくびっていただと?」

「はっ……。普段から、シオン殿はぐうたらしてばかりいるイメージしかなかったのですが、先程の理路整然とした演説を耳にして、非常に驚いている次第であります……」

「ははっ、大袈裟だな……」

 別にそんな凄いことを言ったつもりはないんだけどな。それだけ以前のシオンとは違うってことか。

「しかし、長い目で見るといわれましても、待てるのは今日を含めて七日間までです、シオン殿。いつ最悪の事態になるかもわからない緊迫した状況は続いておりますゆえ、余程のものを見せていただかないと納得はできかねます……」

「あぁ、わかった。それでいい。七日経ってダメだと思ったら容赦なく見捨ててもいいが、見込みがあるなら俺の部下として残ってくれ」

「はっ……! かなり厳しいことを言いましたが、それはシオン殿のことを思えばこそ! このルチアード、よほどのことがない限り、ここから逃げ出すようなことは致しませぬっ……!」

「そうか、心強いぞ」

 よく考えるとルチアードとかいう女騎士、シオンが今まで怠けてジョブを受け取らなくても逃げ出さなかったわけで、よっぽどの醜態を見せない限りは大丈夫そうだな。

 もちろん、俺は前世のときと同様、厚意に甘えることなく真面目にやるつもりだが……。
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