没落貴族に転生した俺、外れ職【吟遊詩人】が規格外のジョブだったので無双しながら領地開拓を目指す

名無し

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貴族転生

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「……」

 気が付くと、俺は見覚えのない天井を見上げる格好になっていた。

 なんだ、ここは……? 確か俺は警備会社から帰る途中コンビニに寄ったんだが、そこに突っ込んできたトラックに轢かれて死んだはず。

 まさに入り口から出ようとした瞬間だったので、逃げることはできなかった。

 あの状況で助かる確率は相当に低いと思うし、まず無傷では済まないのに自由に手足を動かすことができるはずもない。それに加えて、ギプスも点滴もないしそもそもここは病室には見えない。

 油断すると朦朧とする意識と霞む視界を元に戻すべく、俺はしきりに首を横に振って自分に気合を入れる。

 広々とした西洋風の屋敷といった内装だが、あいにく俺は根っからの貧乏人で、金持ちの知り合いなんていない。

 それに、自分の体なのに自分とは思えない。とすると、俺は異世界に転生したっていうのか……。

「どうか……どうか、お目覚めください、シオン様……」

「っ!?」

 俺のいるベッドの側に椅子があるんだが、そこにメイド服姿の少女が座っていて、目を瞑った状態で呟いていた。

 シオン様って、多分俺のことなんだろう。やたらと頭痛がするし、この子がずっと看病してたっぽいな。屋敷内で様付けされてるってことは、俺が貴族で彼女が女中だろうか。

 よろよろと立ち上がって長細い鏡台の前に立つと、頭に包帯が巻かれた気弱そうな少年が映り込んでいた。

 15歳くらいだろうか。やはり、俺の体じゃない。本来ならばおっさんが見えるはずだからだ。

 つまり、俺はシオンという高貴な人物に転生したんだ。それも、途中から……。

「はっ……!」

 お、メイドが起きた様子で、俺を見上げると仰天した顔で立ち上がってきた。

「シ、シオン様、お目覚めになられたのですね。酒に酔って転倒し、頭を打って気絶した際はどうなるかと思いましたが、よかったです……!」

「うっ……」

 メイドに思いっ切り抱き付かれる。俺の背丈よりも大きいから、豊かな胸に顔が埋まっていた。

「は、放してくれ。苦しい……」

「あ、申し訳ございません……って、いつものように揉まないのですか?」

「え……? 揉むって、何を?」

「そ、その、わたくしめの胸を……」

「……」

 そんなもじもじした様子で言われてもな。俺の体はシオンでも、心はシオンじゃないし。

 てかシオンってやつ、こういう状況で決まって胸を揉んでいたのか。ドスケベなんだな……。

「いや、俺は揉まないし、シオンじゃないし……」

「シ、シオン様じゃない……? 一体何を仰られているのでしょう?」

「あ……」

 しまった、ついシオンじゃないなんて言ってしまった。

「も、もしかして、本格的に頭がおかしくなられたのでしょうか……」

「え……?」

「もしそうなら、亡くなった先代様からシオン様の世話を任されてきた身として一生の不覚ですので、ともに死にます……!」

「ちょっ!?」

 メイドが両手でナイフを構えてきて、俺は慌てて首を左右に振った。

「い、いや、頭はおかしくないって! 俺はシオンだから……!」

「……あ、そうなのですね。よかったです……」

「……」

 あ、危なかった。この子はシオンってやつに忠実すぎるし、中身は別の人とか言わないほうがよさそうだな……。

 それから俺は頭を打ったことで記憶が曖昧になっていると嘘をつき、エリュネシアと名乗ったメイドから色んなことを教わった。

 自分はシオン=ギルバートという名前で、尋常じゃないレベルの臆病者な上、怠け者でひ弱な男だったらしい。

 遊ぶ金欲しさの不良に絡まれ、お小遣いを渡すべく家財だけでなく父の形見まで売りさばき、ジョブも14歳から受けられるが、働きたくないからと1年間もの間ゴロゴロしてばかりいたとのことだ。それで超没落貴族だのダメダメ子息だの散々な評価を受けているとのこと。

 ただ、これでもかと酷評されてるがまだどう見ても子供だからな。ちょっと気の毒ではある。

「シオン様、失った記憶を取り戻したい気持ちはご理解できるのですが、しばらく休まれたほうが……」

「い、いや、大分思い出せたし、今はもう大丈夫だよ、エリュネシア」

「……そうでございますか。ならばよいのですがね。シオン様の一人称は僕で、わたくしめのことは普段からエリュたんと呼んでいたはずですが……」

「……」

 一人称が僕なのはいいとして、エリュたん、か。なんだかシオンという男の人柄が薄らどころかくっきり見えてきたな……って、疑惑の目を向けられてるみたいだし、なんとか回避しなくては。

「あ、あぁ、なんかいつまでもエリュたんだと、ちょっと甘えてるみたいだから僕も少しは大人にならなきゃって。俺の気持ちもわかってくれよ、エリュ……」

 これから彼女のことはエリュと呼ぶことにしよう。たんをつけるのは怪しまれたときくらいでいい。

「ま、まあぁ……! シオン様、その心がけ、ご立派です! きっと、先代様も喜んでおられるかと……! う、ううっ!」

「……」

 たったそれだけのことで、エリュネシアが涙を流して喜んでる。どれくらいふがいなかったんだか、このシオンという男は……。

「あ、そうでした、シオン様が良いことをなさった日は、アレでしたね!」

「あれ……?」

「んもう……意地悪ですねっ」

 おいおい、おいおい。

 何を思ったのか、エリュネシアが恥ずかしそうにエプロンドレスの裾をたくあげて下着を見せつけてきた。咄嗟に目をつぶったが、一瞬見えてしまった……。

 少々頭が混乱してるが、おそらくシオンが鼻の下を伸ばしながらやらせてたことなんだろう。

「ほ、本日は、シオン様が大好きな白でございます……」

「も、もういい。わかったから……」

「え、えぇ? いつもは鼻息がかかるほど顔を近付けるのに……」

「……」

 シオンとかいうやつ、気の毒だと思ってたが撤回するし、むしろ殴りたくなってきたな。

 てか俺が乗っ取った格好なわけで、もう死んでるのか。きっと罰だな。

「シオン様、お目目を瞑って、まだ眠いのですか? でも今日こそ、ジョブを貰ってください!」

「ジョブ……?」

「しらばっくれても無駄です。この没落したギルバート家を再び繁栄させるためにジョブを受け取り、しっかり働いてください!」

「べ、別にいいけど……」

「えっ!?」

 エリュネシアが目をパチパチしてる。俺の承諾がよっぽど意外だったらしい。

「あっ……申し訳ありません。シオン様がついにご決断なされたので、もう一回お見せします!」

「ちょっ……!」

 エリュネシアが当然ようにパンツを見せつけてきたので、俺はまたしても目を瞑る羽目になるのだった。

 俺が良いことをするたびにいちいちこんなことをさせてたら、シオンの評価なんて上がるわけもない。これも俺が本人かどうか怪しまれたときにやらせるくらいでいいな……。
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