上 下
22 / 27

第22話

しおりを挟む

「けけっ……優也兄貴ぃ、こっからよぉ、俺たちでをおっぱじめようぜぇ」

 Fクラスの教室へ向かう途中、タクヤが下卑た笑みを向けてきた。

「タクヤ、新たな伝説ってなんのこと? っていうか、なんでいきなり兄貴呼び?」

「喧嘩伝説だよ喧嘩伝説うぅ。今日からFクラスでデビューすんだからよぉ、優也ちゃんなんて呼ばずに、格的に兄貴って呼びてえんだよぉ」

「ま、まあ、別にいいけど……」

「そんでよぉ、兄貴に見せてぇもんがあんだぁ」

「……ん、僕に見せたいもの?」

「これなんだけどよぉ」

 ん、端末を操作したタクヤの額に赤い布が現れた。

「お、結構似合ってるね」

「ぐへへっ、だろおぉっ!」

「俺も俺もっ! これどうよ、優也さん?」

「えっ……」

 タクヤと同様、急に僕の呼称が変わったマサルがドヤ顔で見せつけてきたのは、大きな髑髏を模した盾だ。これって、まさか……。

「ぶははっ! わしも白石のあんちゃんに見せつけるときじゃなっ!」

「……」

 さらに、青野さんまでバカでかい棘付きの棍棒を手元に出してきた。うわ、凄く重そうだし痛そう……って、みんな僕が知らない間に独自の防具や武器を手に入れたっぽいね。

「まさか、みんなで素材合成やったの?」

「んーや。それがよぉ、例の竹林で見つけたってわけよぉ」

「な、なるほど……」

 あそこはサバイバルゲームをやるには最適の場所で、探索者の死体が幾つも転がってるところだし、何かありそうだとは思ってたけど本当にあったんだ……。

「優也兄貴ぃ、これは情熱のバンダナっていってよぉ、命中率が10も上がるんだぜぇ。いいだろおぉ~」

「……うん、確かにいい効果だね。異次元の弓が武器のタクヤにとっては最高の防具かも」

「だろぉおっ。けけっ」

「マジ、タクヤのバンダナには特殊効果があっていいよな。俺のスカルシールドなんて、強そうな見た目だけどなんの効果もねえし、相手をビビらせるだけのゴミみてえな盾だぜ」

「ははっ……ま、まあ素材で作られたものなら頑丈だろうし。それにマサルの場合、異次元の長剣と髑髏の盾のセットになるから悪くないんじゃ?」

「それなっ! さすが、俺たちの優也さん。よく見てるぜっ!」

「……」

 もうタクヤもマサルも、僕をいじめていいのは俺たちだとか言わないのか……。何故か寂しさもあるけど、まあ当時とは状況が全然違うからね。二人とも僕に対して呼び方が変わっただけでなく、例のいじめられっ子っていう称号もとっくに消えてるわけだし。

「ふぅ、ふぅ……し、白石のあんちゃん……わしの一物――鬼の棍棒はどんなもんじゃっ……⁉」

「す、凄く、おっきいです……」

「ぶははっ! ふぅ、ふぅう……」

 本当にやたらと大きいと思ったら、鬼の棍棒っていうのか。でも青野さん、腕力値が足りないのか持つのが精一杯っぽい。ただ、これも対人限定なら持ってるだけで相手をビビらせる効果がありそう。

「でも……それって遺品だよね……」

「「「……」」」

 汐音の一言で青野さんたちが揃って気まずい表情になる。

「く、黒崎さん、そこは内緒にしといてくれんか⁉ もちろん、遺品を持っていた白骨死体はわしらで丁重に埋葬した上、ちゃんとお礼も言ったから大丈夫じゃ!」

「そう……。でも、それだけだと泥棒みたいだし呪われそう……」

「「「うっ……」」」

 汐音の呟きでみんな苦しそうに呻いてるし、精神的にかなりのダメージが出てそう。

「あ、そういえば……私の持ってる呪いの赤い糸も、茜が竹林で見つけたものかも……」

「「「「えっ……⁉」」」」

 これには僕も含めて驚いた。

「な、なんで汐音はそう思うの?」

「だって……疎遠になる前に、茜は言ったの。『外でいいものを見つけたんだ』って。多分、竹林以外だと誰かが先に見つけそうだから、そこで拾ったんじゃないかなって……」

「「「「ヒエッ……」」」」

 怖すぎ。なんで僕まで青ざめなきゃいけないんだ……。でも、恐怖のあまりか逆に緊張も紛れてきた。なんせ、これから新しいクラスでの自己紹介っていう、定番の心臓に悪いイベントが待ってるわけだから。

 それにしても、校舎二階は一階と違ってとても静かだ。一階だと廊下を走る生徒が何人かいたのに、そういうのをまったく見かけない。

 以前は走ってきた不良に肩が当たって、オルァ喧嘩売ってんのかコルァって因縁をつけられることもよくあったけど、今後はそういう理不尽な出来事もなさそうだ。

 お、着いたみたい。寮の部屋、食堂、職員室、休憩室、トレーニング施設、レジャー施設等、それらの向こう側にFクラスと書かれた教室があって、その前で僕たちは足を止めた。

 先頭の僕が恐る恐るドアを開けると、みんな席に着いてるところだった。一人だけ出席してないのかもあるけど、お喋りしてる様子もないしみんな真面目っぽい。こういうところだけ見ても、最底辺のG級とは大違いだ……。

「みなさぁーん! さぁさぁ、ご注目だよぉーっ!」

「……」

 あれ? やたらと背の低い私服の女子生徒が一人いて、教壇に立って飛び跳ねてる。あれかな、子供が紛れ込んじゃったんだろうか?

「あ、あのぉっ、そこの新人の方々っ、そんな可哀想なものを見るかのような目で見下ろさないでくださいよう! 私、一応ここの教師なんですからぁー!」

「「「「「えぇっ……⁉」」」」」

 それは想定外だった。この子……じゃなくて、彼女はFクラスの先生だったのか……。

「私は桜井桜子《さくらいさくらこ》と申しますっ! これから、あなたたちの先生として、精一杯頑張っていきますから、どうかよろしくお願いしますねぇーっ!」

「「「「「は、はい……」」」」」

 猪川先生とはちょっと違ったベクトルで頼りなさそうだ。とはいえ、荒れに荒れてたGクラスの担任じゃないし、ここなら彼女のような先生でも問題ないってことなのかな。

「あのあのっ。それじゃー、一人ずつ、自己紹介お願いしますよぉー」

「おうっ、任せとけぇ。そんじゃぁ、俺からいくぜぇ」

 長髪を掻き分けたタクヤがニヤリと笑って前に出る。

「俺ん名はよぉ、赤間卓也ってんだぁ。生意気なやつは、俺とマブダチのマサル、それに優也兄貴がたっぷりいじめてやっからよぉ、覚悟しやがれぇ……」

「……」

 いかにも不良のタクヤらしい自己紹介だね。次はマサルの番だ。

「んじゃ、次は俺な。そんなに名前が知りてえなら教えてやる。紫藤将ってんだ。ま、俺らと喧嘩してえならいつでもやってやんぜっ。ビビッてないでかかってこいや、オイコラッ!」

「は、ははっ……」

 僕は思わず笑ってしまった。これじゃもう、自己紹介っていうよりただの挑発じゃないか……。まあ二人とも僕をいじめなくなったってだけで、本質的には不良のままだからしょうがないか。

「つ、次はわしじゃな。ぶ……ぶははっ! わしの名は青野弥助! 年寄りに見えるかもしれんが、こう見えてまだまだ現役じゃっ! つーわけじゃからのう、舐めておると痛い目を見ることになるぞい! 首を洗って覚悟しておくことじゃあぁっ!」

「ちょっ……」

 青野さんまで挑発してるし、変な流れに引っ張られちゃってる。

 あ、そうだ。祖父の自己紹介ってことで、孫の小鳥ちゃんはどうしてるのかと思ったら、恥ずかしそうに顔を赤くして下を向いてた。

 まあ、周りから好奇の目でジロジロ見られてるし、そりゃこんな感じにもなるか。青野さんの孫っていう事実はGクラスの同級生も知ってたくらいだからね。

「じゃあ、次は私……」

 お、次は汐音の番だ……と思ったら、悪魔の翼と黒猫のシャト、死神の大鎌を出した彼女が教壇で浮かび上がった。

「……堕天使、黒崎汐音、只今参上……夜の露、死の苦しみ……」

「「「ウププッ……」」」

「……」

 青野さんたちが口を押えて押し殺すようにして笑ってるし、どうやら僕に黙ってとんでもないことを汐音に吹き込んだみたいだ。夜露死苦《よろしく》ってか……。これにはさすがに驚いたのか、Fクラスがざわめていた。

「み、みみっ、みなさーん、落ち着いてくださぁーい! 不良さんたちがこのクラスにやってきましたけど、仲良くしましょうねぇーっ!」

「「「「「はーいっ!」」」」」

「って、先生。僕の自己紹介がまだ終わってないし!」

「あっ……! ご、ごめんなさーい!」

 ……はあ、こんな空気じゃやりづらいなあ。

「やあ、どうも。Fクラスのみなさん。僕は白石優也っていいます。よろしくお願いします。連れはこんな感じだけど、こう見えて普通にいいやつらなんで、仲良くしてやってください」

「「「「「はいっ……!」」」」」

 ん、あれ? なんかみんなちょっとビビッてる感じだったね。普通に挨拶したつもりなのになんでだろうと思ったら、そっか。なんかわかった気がする。

 どう見ても不良たちの仲間だって疑われてる状況で、僕だけ普通の自己紹介すぎて、逆にボスかなんかかと思われて怖がられてるっぽい。僕はアレか。闇の帝王かなんかか……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

回復力が低いからと追放された回復術師、規格外の回復能力を持っていた。

名無し
ファンタジー
回復術師ピッケルは、20歳の誕生日、パーティーリーダーの部屋に呼び出されると追放を言い渡された。みぐるみを剥がされ、泣く泣く部屋をあとにするピッケル。しかし、この時点では仲間はもちろん本人さえも知らなかった。ピッケルの回復術師としての能力は、想像を遥かに超えるものだと。

貴族に転生してユニークスキル【迷宮】を獲得した俺は、次の人生こそ誰よりも幸せになることを目指す

名無し
ファンタジー
両親に愛されなかったことの不満を抱えながら交通事故で亡くなった主人公。気が付いたとき、彼は貴族の長男ルーフ・ベルシュタインとして転生しており、家族から愛されて育っていた。ルーフはこの幸せを手放したくなくて、前世で両親を憎んで自堕落な生き方をしてきたことを悔い改め、この異世界では後悔しないように高みを目指して生きようと誓うのだった。

パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す

名無し
ファンタジー
 パーティー内で逆境に立たされていたセクトは、固有能力取得による逆転劇を信じていたが、信頼していた仲間に裏切られた上に崖から突き落とされてしまう。近隣で活動していたパーティーのおかげで奇跡的に一命をとりとめたセクトは、かつての仲間たちへの復讐とともに、助けてくれた者たちへの恩返しを誓うのだった。

異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。 異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。 せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。 そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。 これは天啓か。 俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

外れスキル【転送】が最強だった件

名無し
ファンタジー
三十路になってようやくダンジョン入場試験に合格したケイス。 意気揚々と冒険者登録所に向かうが、そこで貰ったのは【転送】という外れスキル。 失意の中で故郷へ帰ろうとしていた彼のもとに、超有名ギルドのマスターが訪れる。 そこからケイスの人生は目覚ましく変わっていくのだった……。

ダンジョン菌にまみれた、様々なクエストが提示されるこの現実世界で、【クエスト簡略化】スキルを手にした俺は最強のスレイヤーを目指す

名無し
ファンタジー
 ダンジョン菌が人間や物をダンジョン化させてしまう世界。ワクチンを打てば誰もがスレイヤーになる権利を与えられ、強化用のクエストを受けられるようになる。  しかし、ワクチン接種で稀に発生する、最初から能力の高いエリート種でなければクエストの攻略は難しく、一般人の佐嶋康介はスレイヤーになることを諦めていたが、仕事の帰りにコンビニエンスストアに立ち寄ったことで運命が変わることになる。

処理中です...