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最終話 唯一無二

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「カレルさん、凄いですっ! 私たち飛んでます!」

 俺の背中に掴まっているコレットが弾んだ声を空に放つ。

【釣り】スキル拡張によって、俺たちは様々な障害物に見えない釣り針を引っ掛けて飛ぶような格好になっていた。

 何度か試してみたところ、効果範囲は凄く広い上、かなり先に見える建物の屋根や木々に引っ掛けるだけで飛ぶように移動できるんだ。これが生き物とかだと、逆にこっちに引き上げる形になるってわけだ。

「ま、負けそう……」

 後方にいるジラルドが弱り顔だ。彼の【投影】による移動速度も凄いんだが、それより俺のほうが余計な動作が少ない分上回っているようだった。

「リーダー、おそーい! もっと速くしてよ!」
「ったく、しっかりするんだよ、リーダー!」
「ちょっ! ファリム、ルーネ! 尻なんか叩かれても速くならないって! 僕は馬かあぁぁ!」
「リーダー、うるさいです」
「マブカ……うるさいのは僕だけなのかあぁっ!」
「はい、特に。なので今、耳を後ろのほうに移動させておきました」
「うぅ……」
「……」

 リーダー、掴まっている三人に文字通り尻に敷かれちゃってるな。それにしてもマブカの耳だけが後ろで浮いてる形になってて不気味だ。

 王都を横断し、冒険者ギルド周辺を見下ろしながら飛んでいたらいつもより賑わってる様子が伝わってきた。あそこで全裸のヨークとラシムが仲良くフラッグに吊るされてるっていうのもあるかもしれないな。ちなみに着ていた服も一緒に風で揺られているはずだ。湖で沢山泳いでぐっしょりと濡れてたから、かわかしてあげないといけないと思ったんだ。

 正直、四肢切断するかあるいは殺すか、それくらいのことをしてもよかったんだが、この程度で済ませるのは幼馴染としての思い出が幾つもあったからだ。あいつらにとってはどうでもいい偽りの記憶でも、俺にとっては大切な記憶だったからな。

 それに、『今度僕たちの大事なメンバーに手を出せば《ゼロスターズ》総出で君たちを叩き潰す!』とジラルドが鼻息荒く宣言してくれたし、あいつらが俺たちに歯向かってくることはもう二度とないだろう。



 まもなく、俺たちは上級ダンジョンである『勇壮の谷』の入り口付近まで到着した。これから本当の戦いが始まるってわけだ。

「み、見てくださいっ! みんな飛び込んでます!」
「あ、ああ。凄いな……」

『勇壮の谷』はまさに深い渓谷にあるダンジョンなんだが、入口がなんとそこから飛び込んだ先にあるのだ。谷底は見えないくらい深いわけだが、下に行けば行くほど光が強くなっているのがわかる。ジラルドによると、あの光に向かって飛び込むとダンジョンへ転送されるため、勇気を試される谷として『勇壮の谷』と名付けられたんだとか。

 悲鳴や歓声とともに次々と冒険者たちが飛び込む様は圧巻だった。

「最初に飛び込むのはルーネねっ!」
「は、はあ!? うちは最後でいいよ! 最初にファリムが飛びなよ! あんたは風呂でもなんでも一番がいいんだろ!」
「だから今回は特別に譲ってあげるっていうのよ!」
「「ムキイイィッ!」」

 こんなときでもやっぱり二人は仲良く喧嘩しちゃうか……。

「こらこら、二人とも――」
「「――リーダーは黙っててっ!」」
「はいぃっ!」

 ジラルドがすっかり萎縮しちゃって、通りすがりの冒険者たちに指をさされて笑われてるが、それでも照れ笑いで返すところは彼らしい。最高クラスのパーティーリーダーなのに、偉ぶるような素振りは一切なかった。

 少し頼りなく見えるが、こういうところが彼の長所でもあるんだ。少しずつわかってきたが、彼は押すところと引くところをちゃんと知っていて自然にそれができている。釣りでの経験もあるだろうが、リーダーとしてパーティー間に血を通わせるという意味では唯一無二の才能なんだと思う。

「それじゃ、カレルさん。一緒に飛びましょうか!」
「……そうだな、そうしよう」

 俺はコレットと手をつないで笑い合った。彼女は見送りにくる形で来ていてこのあと宿舎へ帰る予定なんだが、ダンジョンに飛び込んでも入口までならすぐ外に戻れる仕様だから問題ないんだ。

「じー……」
「「うっ……」」

 ジラルドの情念を籠めた視線が辛い。

「「ヒューヒュー!」」
「「……」」

 今度はファリムとルーネに冷やかされる始末。

「それでは、私が嫉妬を籠めて幸せなお二人の背中を押して差し上げます……」
「「えっ……?」」

 マブカの手に押されたかと思うと、俺たちの体は既に谷底へと向かっていた。

「うわあああぁぁぁぁっ!」
「きゃあああぁぁぁぁっ!」

 最後の最後に俺たちがざまあされちゃったか。とはいえ、悪い気分じゃないからまあいっか。

 周囲はどんどんまぶしくなって、目がまともに開けられなくなってくる。いよいよこれから上級ダンジョンへ突入するんだな。かつて最高に外れ扱いされた、世界で一つしかない【釣り】スキルで、《ゼロスターズ》の誇りを賭けた戦いに必ずや貢献してみせるつもりだ……。
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みんなの感想(8件)

naimed
2022.11.18 naimed

失礼します。
こちらでの初期作拝見致しました。カレルのスキル、某奇妙な冒険の砂浜少年か?アレも使い手が未熟だったから勝てたようなもので能力的には最強でした。

幼馴染の陰惨さがエグイ。後作のハズレスキル二部作で出てくる悪役よりも粘着してるというか。初期作品はかなりヤラレシーンが多くそれが覆された時のざまぁ感は爽快ですな。

コレットの可愛さと健気さに加えて時折見せる肉食系の一面も見逃さずにはいられないww

名無し
2022.11.25 名無し

>初期作品はかなりヤラレシーンが多くそれが覆された時のざまぁ感は爽快ですな。

WEB小説の読者はとにかくストレスに弱いってことに気が付き始めた頃ですね。
彼らに中国ドラマを見せたら卒倒するかもしれませんw

解除
A・l・m
2020.06.07 A・l・m

うむうむ、きっと一番最初に釣り上げたのは天使だったんだね。(もしくは運命の人)

 あとはまあ、書かれてないけど、最終話の頃には鍋とかから魚が釣れるね! 間違い無い!

名無し
2020.06.07 名無し

釣れたのはきっと鯛のようなめでたいものだったでしょうw

解除
伊予二名
2019.09.14 伊予二名

主人公さんとヒロインちゃん幸せそうで何より。そして虫ケラ幼馴染まだ立場の違いも理解できてないって低脳にも程があるよ。主人公さんを雑魚扱いしてるけど手も足も出ないお前らはなんなのやはり虫けらなの?人間以下なの?自覚しろ劣等生物。所業は鬼畜で正しく「人で無し」だから人間以下なのは間違いないかな。

主人公さんは優しいから四肢は残したみたいですが、虫ケラ幼馴染は畜生的に言うとツガイというやつらしく、下衆同士仲がいいのでオスの幼馴染を右手右足右目を落としてメスの幼馴染を左手左足左目を落として比翼鳥みたいに支え合って生きていって貰えばいいんじゃ無いかと思った(๑╹ω╹๑)

名無し
2019.09.14 名無し

主人公によっては幼馴染に対する四肢切断以上の仕打ちもありえたでしょうね
伊予さんを含めてきっとほかの読者の方々もそういう展開もありだと思ったかもしれません

この後二人がとことん不幸になるエピソードも入れようかと悩んだんですが
色々と混みあってまして、ここで終わりとさせていただきました
また次回作でお会いしましょう

解除

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