53 / 58
53話 沸々
しおりを挟む「ふう……」
俺は食事のあと、湯船の中で一息ついたところだった。
みんな、なんでなのか揃って一番風呂に入れって言うから入ったんだがどうも落ち着かない。なんせ今までは、遠慮してたっていうより忙しすぎて最後に入ってたからな。
――そうだ。なんだか気分が落ち着かないし、スキル拡張のためにも試しに【釣り】スキルを使ってみるか。
「……」
俺は湯煙越しに、湯に浸かった自分の手に対して釣れろと念じる。最近は本物の釣りばかりしてたので随分久々な気がするな。
海、湖、洞窟の水溜まりときて、次の釣り場は風呂場ってわけだ。どんどんスケールが小さくなってる気はするが……。
「なんだこりゃ……」
なんか釣れたと思ったら黒い石が手の平に乗っていた。軽いからリーダーの【投影】ってスキルにはうってつけかもしれないな。
しばらく、土とかただの石ころとかそういうものばかり出てきて辟易し始めてたんだが、ようやく装備品らしきものが出てきた。
三角巾……? いや、これは……下着だ。それも女の子の……。なんでこんなものがって思ったけど風呂場だし釣れてもおかしくないのか……。
「珍しいものが釣れましたねえ」
「ああ……って!」
気が付くと、タオルを巻いた姿のコレットがいた。
「お、お、おい、いつから!?」
「ついさっきですよー?」
「くっ……」
覗き込もうとしてきたので俺は慌ててあそこを両手で隠した。
「コレット……大人っぽくなったと思ったらこれか……」
「うふふ……私、鳥頭なのでっ!」
「……」
妙に納得してしまった。欲望に正直なのは仕方ないか。
「とにかく……もうこんなことしたらダメだぞ?」
「「「えー!?」」」
「……」
なんだ今の黄色い声……? 俺は最初何が起きたかわからなかったが、コレットが小さく舌を出して悪戯っぽい笑顔を見せてきたときに色々察した。
「ごめんなさい、カレルさん。新人に対する洗礼らしくて……」
「ちょっ……」
入ってきたのは、コレット同様にタオル姿のファリム、ルーネ、マブカの三人だった。
「驚いたあ? 実は結構前から計画してたのお、カレルお兄ちゃあん……」
「ちょいとファリム、あんた幼女の真似するんだったらタオルなんか巻いてんじゃないよ」
「は、はあ? ルーネこそお風呂なんだしナイスバディーとやらを見せてやるべきなんじゃないの!?」
「「ムキー!」」
「……」
やっぱり風呂の中でも例外なくファリムとルーネの喧嘩が始まってしまったわけだが、マブカは一切気にも留めない様子で近付いてきた。
「お背中を流します、カレル」
「え、え……?」
「洗礼を受けない場合、コンプライアンス――」
「――わ、わかったよ……」
俺は渋々あそこを隠しつつ湯舟から出て椅子に座る。あー、恥ずかしいけど洗礼ならしょうがないしな……。
「このー、わっ!?」
あっ……ファリムが滑って転んだと思ったら、マブカのタオルを掴んでしまっていた。当然、彼女の裸が露になるわけで……。
「あっ……」
とても豊満で美麗な体つきだったせいか、視線を逸らすどころか見惚れてしまった……。
「ま、負けましたぁ……」
コレットがしょんぼりしてる。なんの勝負なんだか。
「……ぶっ殺して差し上げましょうか?」
小声だったが、ファリムのほうを向いたマブカの恐ろしい発言を俺は明確に聞き取ることができてしまったのだった……。
◇ ◇ ◇
「……ラシム、本当にもういない?」
「もー、ヨークったら、何度も言ってるじゃない、いないって。心配しすぎよ」
山麓の町グレルリンにて、朝方になって宿舎から恐る恐る出てきたヨークを呆れ顔で見やるラシム。
壁には卵が投げつけられた痕跡や二人を罵倒する落書きが多数書かれていたが、近辺で頻繁にたむろしていたガラの悪そうな男たちの姿は既になかった。
「あー、よかったあ……」
「だから言ったでしょ? 人の噂話なんて風みたいなもんだからすぐ消えるって」
「うん……もう一生宿舎から出られないかもって思ってたけど……」
「もー……。そんな弱気なことばかり言ってたら、女々しいアレルになっちゃうよ?」
「はは……それにしても、あの貼り紙って絶対アレが犯人だよね」
「……うん、それしか考えられないと思う。《ゼロスターズ》がかかわってるならこんなもんじゃ済まないだろうし」
ヨークとラシムの表情は、異例の速さで安堵から憤怒の色へ塗り替えられようとしていた。
「正直、アレにやり返さないと気が済まないよね」
「……うん。あの奴隷とかさ、あたしたちに対して幼馴染なのにーみたいなこと言ってたけど、それがなんだって言うのよ。所詮は他人でしょ。気に入らないやつを叩いて何が悪いんだか。ここまで来たら徹底的にやらないと……く、悔しすぎるもん……ひっく……」
「ラシム、泣かないで。僕が絶対に悔しさを晴らしてあげるから……」
「……ぐす。ヨーク、ありがと。んっ……」
ヨークがラシムの涙を指で拭うと、お互いにうっとりと唇を重ねた。
「……今回の件は確かにむかついたけど、これであいつらが《ゼロスターズ》の補欠以下でメンバーとしては見られてないってわかったんだし、次こそは……最高に痛い目に遭わせることができるって確信してる……」
「ヨーク、どんなことするの?」
「一応、耳打ちで」
「うんっ」
ヨークの提案を聞いたラシムは一瞬驚いた顔を見せるも、まもなく仄暗い笑みを浮かべるのであった。
0
お気に入りに追加
268
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
道具屋のおっさんが勇者パーティーにリンチされた結果、一日を繰り返すようになった件。
名無し
ファンタジー
道具屋の店主モルネトは、ある日訪れてきた勇者パーティーから一方的に因縁をつけられた挙句、理不尽なリンチを受ける。さらに道具屋を燃やされ、何もかも失ったモルネトだったが、神様から同じ一日を無限に繰り返すカードを授かったことで開き直り、善人から悪人へと変貌を遂げる。最早怖い者知らずとなったモルネトは、どうしようもない人生を最高にハッピーなものに変えていく。綺麗事一切なしの底辺道具屋成り上がり物語。
素材ガチャで【合成マスター】スキルを獲得したので、世界最強の探索者を目指します。
名無し
ファンタジー
学園『ホライズン』でいじめられっ子の生徒、G級探索者の白石優也。いつものように不良たちに虐げられていたが、勇気を出してやり返すことに成功する。その勢いで、近隣に出没したモンスター討伐に立候補した優也。その選択が彼の運命を大きく変えていくことになるのであった。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
全てを極めた最強の俺が次に目指したのは、最弱でした。
水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
生まれながらにして圧倒的な力を持ち、「最強」と称される少年・天城悠斗(あまぎゆうと)。彼はどんな試練も容易に乗り越え、誰もが羨む英雄の道を歩んでいた。しかし、ある日出会った少女・霧島緋奈(きりしまひな)の一言が彼の運命を大きく変える。
「弱さは、誰かを頼る理由になるの。それが、私の生きる強さだから」
――その問いに答えを見つけられない悠斗は、強さとは無縁の「最弱」な生き方を目指すと決意する。果たして、最強の男が目指す「最弱」とは何なのか?そして、その先に待つ真実とは?
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。
幼馴染パーティーを追放された錬金術師、実は敵が強ければ強いほどダメージを与える劇薬を開発した天才だった
名無し
ファンタジー
主人公である錬金術師のリューイは、ダンジョンタワーの100階層に到達してまもなく、エリート揃いの幼馴染パーティーから追放を命じられる。
彼のパーティーは『ボスキラー』と異名がつくほどボスを倒すスピードが速いことで有名であり、1000階を越えるダンジョンタワーの制覇を目指す冒険者たちから人気があったため、お荷物と見られていたリューイを追い出すことでさらなる高みを目指そうとしたのだ。
片思いの子も寝取られてしまい、途方に暮れながらタワーの一階まで降りたリューイだったが、有名人の一人だったこともあって初心者パーティーのリーダーに声をかけられる。追放されたことを伝えると仰天した様子で、その圧倒的な才能に惚れ込んでいたからだという。
リーダーには威力をも数値化できる優れた鑑定眼があり、リューイの投げている劇薬に関して敵が強ければ強いほど威力が上がっているということを見抜いていた。
実は元パーティーが『ボスキラー』と呼ばれていたのはリューイのおかげであったのだ。
リューイを迎え入れたパーティーが村づくりをしながら余裕かつ最速でダンジョンタワーを攻略していく一方、彼を追放したパーティーは徐々に行き詰まり、崩壊していくことになるのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる