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53話 沸々

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「ふう……」

 俺は食事のあと、湯船の中で一息ついたところだった。

 みんな、なんでなのか揃って一番風呂に入れって言うから入ったんだがどうも落ち着かない。なんせ今までは、遠慮してたっていうより忙しすぎて最後に入ってたからな。

 ――そうだ。なんだか気分が落ち着かないし、スキル拡張のためにも試しに【釣り】スキルを使ってみるか。

「……」

 俺は湯煙越しに、湯に浸かった自分の手に対して釣れろと念じる。最近は本物の釣りばかりしてたので随分久々な気がするな。

 海、湖、洞窟の水溜まりときて、次の釣り場は風呂場ってわけだ。どんどんスケールが小さくなってる気はするが……。

「なんだこりゃ……」

 なんか釣れたと思ったら黒い石が手の平に乗っていた。軽いからリーダーの【投影】ってスキルにはうってつけかもしれないな。

 しばらく、土とかただの石ころとかそういうものばかり出てきて辟易し始めてたんだが、ようやく装備品らしきものが出てきた。

 三角巾……? いや、これは……下着だ。それも女の子の……。なんでこんなものがって思ったけど風呂場だし釣れてもおかしくないのか……。

「珍しいものが釣れましたねえ」
「ああ……って!」

 気が付くと、タオルを巻いた姿のコレットがいた。

「お、お、おい、いつから!?」
「ついさっきですよー?」
「くっ……」

 覗き込もうとしてきたので俺は慌ててあそこを両手で隠した。

「コレット……大人っぽくなったと思ったらこれか……」
「うふふ……私、鳥頭なのでっ!」
「……」

 妙に納得してしまった。欲望に正直なのは仕方ないか。

「とにかく……もうこんなことしたらダメだぞ?」
「「「えー!?」」」
「……」

 なんだ今の黄色い声……? 俺は最初何が起きたかわからなかったが、コレットが小さく舌を出して悪戯っぽい笑顔を見せてきたときに色々察した。

「ごめんなさい、カレルさん。新人に対する洗礼らしくて……」
「ちょっ……」

 入ってきたのは、コレット同様にタオル姿のファリム、ルーネ、マブカの三人だった。

「驚いたあ? 実は結構前から計画してたのお、カレルお兄ちゃあん……」
「ちょいとファリム、あんた幼女の真似するんだったらタオルなんか巻いてんじゃないよ」
「は、はあ? ルーネこそお風呂なんだしナイスバディーとやらを見せてやるべきなんじゃないの!?」
「「ムキー!」」
「……」

 やっぱり風呂の中でも例外なくファリムとルーネの喧嘩が始まってしまったわけだが、マブカは一切気にも留めない様子で近付いてきた。

「お背中を流します、カレル」
「え、え……?」
「洗礼を受けない場合、コンプライアンス――」
「――わ、わかったよ……」

 俺は渋々あそこを隠しつつ湯舟から出て椅子に座る。あー、恥ずかしいけど洗礼ならしょうがないしな……。

「このー、わっ!?」

 あっ……ファリムが滑って転んだと思ったら、マブカのタオルを掴んでしまっていた。当然、彼女の裸が露になるわけで……。

「あっ……」

 とても豊満で美麗な体つきだったせいか、視線を逸らすどころか見惚れてしまった……。

「ま、負けましたぁ……」

 コレットがしょんぼりしてる。なんの勝負なんだか。

「……ぶっ殺して差し上げましょうか?」

 小声だったが、ファリムのほうを向いたマブカの恐ろしい発言を俺は明確に聞き取ることができてしまったのだった……。



 ◇ ◇ ◇



「……ラシム、本当にもういない?」
「もー、ヨークったら、何度も言ってるじゃない、いないって。心配しすぎよ」

 山麓の町グレルリンにて、朝方になって宿舎から恐る恐る出てきたヨークを呆れ顔で見やるラシム。

 壁には卵が投げつけられた痕跡や二人を罵倒する落書きが多数書かれていたが、近辺で頻繁にたむろしていたガラの悪そうな男たちの姿は既になかった。

「あー、よかったあ……」
「だから言ったでしょ? 人の噂話なんて風みたいなもんだからすぐ消えるって」
「うん……もう一生宿舎から出られないかもって思ってたけど……」
「もー……。そんな弱気なことばかり言ってたら、女々しいアレルになっちゃうよ?」
「はは……それにしても、あの貼り紙って絶対アレが犯人だよね」
「……うん、それしか考えられないと思う。《ゼロスターズ》がかかわってるならこんなもんじゃ済まないだろうし」

 ヨークとラシムの表情は、異例の速さで安堵から憤怒の色へ塗り替えられようとしていた。

「正直、アレにやり返さないと気が済まないよね」
「……うん。あの奴隷とかさ、あたしたちに対して幼馴染なのにーみたいなこと言ってたけど、それがなんだって言うのよ。所詮は他人でしょ。気に入らないやつを叩いて何が悪いんだか。ここまで来たら徹底的にやらないと……く、悔しすぎるもん……ひっく……」
「ラシム、泣かないで。僕が絶対に悔しさを晴らしてあげるから……」
「……ぐす。ヨーク、ありがと。んっ……」

 ヨークがラシムの涙を指で拭うと、お互いにうっとりと唇を重ねた。

「……今回の件は確かにむかついたけど、これであいつらが《ゼロスターズ》の補欠以下でメンバーとしては見られてないってわかったんだし、次こそは……最高に痛い目に遭わせることができるって確信してる……」
「ヨーク、どんなことするの?」
「一応、耳打ちで」
「うんっ」

 ヨークの提案を聞いたラシムは一瞬驚いた顔を見せるも、まもなく仄暗い笑みを浮かべるのであった。
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