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25話 注視

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「「「「「ごちそうさま!」」」」」
「……」

 終始無言で食べていたマブカを除いて、食事は俺たちの声で幕を閉じた。特にきめ細やかに味付けされた山菜料理は苦味もあるが本当に痺れるほど美味しかった。それに加えて近くに釣り場があるのか新鮮な魚料理もあった。俺が海辺で釣った魚もこれに負けないくらい旨かったんだが、ああいうのはほとんど出ないしガラクタを売った金で硬いパンや干し肉ばかり買って食べてたから、食事が一気に豪華になった感じだ。

「どうだい、カレル君、コレットさん。ここの食事は美味しいだろう?」
「はい、美味しかったです」
「そりゃもう、ほっぺたが落ちそうでしたよ!」
「……もう同じパーティーメンバーなんだし、タメ口でいいよ」
「わかりました」
「はいです!」
「「あっ……」」

 俺とコレットの台詞が受けたのか、クスクスと笑い声が上がった。敬語を急にやめるというのは難しいが努力するとしよう。

「それじゃ、腹も満たしたことだし、僕ら《ゼロスターズ》のこれからについて話し合おう!」

 いつになく真剣な顔つきになったジラルドの言葉で、微笑を崩さないマブカを除いてみんな神妙な顔でうなずいてるのがわかった。

「今、僕たちのパーティーは岐路に立たされている。二十階層まで到達したが、ここからは古代人でさえ誰も突破できてない危険な階層だ。新人の二人を除いて、みんなの意見を聞かせてほしい」

 ジラルドが言ってまもなく、ファリムが手を上げた。

「……私は、急がば回れで地道にAのほうに行くべきだと思う。新階層ってだけでも苦しいのに、トラップが多い上にモンスターが強力なところは避けるべきよ」

 そういえば聞いたことある。上級ダンジョン『勇壮の谷』には各階層に二通りの道があって、マップが広くて攻略時間がかかるけど危険度が低いA面、マップが狭くて攻略時間がかからない代わりに危険度が高いB面があり、階層を攻略するたびにどっちに行くかを選べるとか。

 勉強が苦手だった俺も、ダンジョンについての授業があると齧りつくように聞いたもんだ。お、次に手を上げたのはルーネだ。

「でも、Aじゃあいつらとの賭けに負ける可能性があるじゃないのさ。うちは、危険を承知でBを選ぶべきだと思う……」

 あいつらとの賭け? ルーネの言葉は意味がわからなかったが、それで明らかに場の空気が重くなるのを感じた。

「ルーネ。今その話をするのはやめてほしいかな……」
「ごめん、リーダー、つい……」
「「……」」

 俺は隣に座るコレットと顔を見合わせる。彼女も困惑顔だったが、きっと俺もそんな感じの表情をしていたんだろう。俺たちでもわかることといえば、《ゼロスターズ》は今大事な局面にいて、メンバー内でも意見が分かれているということくらいか……。

「……ねぇ、マブカはどう思うの?」
「こっち側に決まってるじゃないのさ」
「ルーネ、それどーいうこと!?」
「Aなんて選ぶほうがファリムみたいにどうかしてるってことさ!」
「Bこそ無謀だからバカみたいよ!」
「「ぐぬぬ――」」
「――わかりません」

 マブカは手を上げつつはっきりと答えたあと、お茶をぐいっと飲んだ。なんだか妙に堂々としていたな。人見知りというからシャイで奥手なんじゃないかと勝手に思ってたが……違うのかな?

「結論はまだ先になりそうだね。でも、これでいい。僕は思うんだ。今こそ耐えて熟慮するときなんじゃないかって。新メンバーのカレル君を鍛えてから決めても遅くはないはずだ」
「……まぁ、短期間ならいいかな?」
「すぐ終わるならうちも同意するよ」
「……」

 なんか、俺次第みたいな空気になってて急にプレッシャーが押し寄せてきた。みんな俺のほうを注視してるっぽいし……。

「ま、今日は新メンバーを迎えた初日だし、入り組んだ話はここまでにしようか」
「そうね。私もそれがいいと思うわ。というわけで、お風呂!」
「あ! またファリムが一番風呂やる気かい!? 卑怯だよ!」

 ドタドタとファリムとルーネがあっという間に走り去り、食卓には俺とコレット、それにジラルドとマブカの四人が残った。

「んじゃ、僕も疲れたから、少し早いけど休ませてもらうよ。カレル君とコレットさんには、明日の朝食が終わってから今後の予定を話そうと思う」
「「はい」」

 リーダー、色んな意味で頑張ってたもんな。そりゃ疲れるか……。

「あ、そうだ。マブカ、二人に部屋を案内しといて」
「……」

 ジラルドの去り際の一言にコクリとうなずくマブカ。当たり前ではあるが、個室まで用意されてるってことで、改めて自分たちがパーティーの一員になったんだと実感する。

 例のぐるぐる廊下に出てマブカの背中を追っていくと、やがて玄関からまっすぐ歩いた突き当たりのところにある扉の前で止まった。

「おお……」
「わあ……」

 部屋の中はとても綺麗でそこそこ広くて、しかもベッドが二つあった。ちゃんとコレットの分も用意してくれるなんて、至れり尽くせりだな。

「……ジロッ」
「「わっ……」」

 俺たちのすぐ後ろにマブカが静かに立っていて心臓が止まるかと思った。

「もしお風呂に入りたいのでしたら、順番を待ってからどうぞ。それでは一応おやすみなさい、カレル、コレット」

 あ、喋ったと思ったら、偉く流暢に話すんだな、この子……。

「「おやすみ!」」
「……」

 マブカがうなずいて部屋から立ち去っていく。なんだか不思議なオーラをまとった子だ。

「……俺たちも寝ようか? コレット」
「ですねっ!」

 二人きりになったせいか、急に眠気が来た。窓の外はまだそこまで暗いわけじゃないんだが、今日一日で色々ありすぎたからな……。
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