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18話 重複
しおりを挟む「「……え?」」
一瞬、俺は何が起きたのかまったくわからなかった。隣にいるコレットも目を白黒させている。
気が付いたときには、ジラルドの体に掴まった俺とコレットの体が、彼が石を投げた方向にあった。ちょうど張り出た崖の向こうに移動した格好みたいだ。
「ここだよ、ここ。僕を待ちぼうけさせた罪深い場所は……」
「……い、今のは……?」
「……何が起こったんです……?」
「あぁ、これこそ僕のスキル【投影】さ。Cランクだけどね!」
「「【投影】?」」
「簡単に説明するとだね……今から僕が石を投げるとするだろう? 投げられるものならなんでもいいんだけど、投げたものに対して自分や掴まっている人を瞬間移動させることができるんだ」
「「へえ……」」
「また声が被ってる。仲がいいねえ」
「「……」」
「ははっ。沈黙のタイミングまで同じだなんて、独り身の僕には本当に応える……」
「「あはは……」」
俺たちは笑い合ったあと、お互いにはっとした顔で目を背けた。今日は色んな意味でよく被る日だな……。
「いいなあ、いいなあ! 青春って感じで……」
「「ジラルドさん……」」
「そ、そんなに睨まないで。さ、気を取り直してスキルの説明を続けようか。二人とも、ちょっと離れてて。こんなこともできるんだ」
「「あっ……」」
ジラルドは一人で石を投げたかと思えば、その地点に【投影】スキルで瞬間移動すると同時、投げた石をキャッチして、その繰り返しでどんどん砂浜を移動していった。あっという間に見えなくなり、戻ってくるのも一瞬だった。
「――コツさえ掴めば、これでどんどん移動できるってわけ。戦闘でも、たまに緩く投げれば緩急だってつけられる。ちゃんと投げたものを一発でキャッチできればの話だけどね……あっ……!」
投げた石をジラルドが掴み損ねて落としてしまい、なんとも気まずい空気が流れる。
「……ま、まあこういうこともたまにはあるけど、ミスはつきものだから仕方ない……!」
「「な、なるほど……」」
今日は本当によく重なる。とても不思議な日だ。
「当時は外れスキルだと思ってかなり落ち込んだけどね……」
ジラルドは石を手の平の上で投げたり転がしたりしながらしみじみと語る。
「でも、よく考えたら筋力とか器用さとか、そういうのを鍛えていけば化けるスキルだってわかったんだよ。だから……勘だけど、【釣り】スキルにも何か意外な使い道があるんじゃないかって僕は睨んでる」
「……もし違ったら?」
ようやく俺とコレットの声が被らなくなったが、彼女の不安げな表情から察するに気持ちは同じだったのかもしれない。
「僕の勘はよく当たることで有名なんだ」
「「はあ……」」
「普段はメンバーから小馬鹿にされてるけどね……」
「「なるほど……」」
「そこ! 変なところで納得しない!」
「「あはは……」」
「あとでちゃんと一人ずつ自己紹介してもらうけど、《ゼロスターズ》のメンバーのスキルは全員外れスキル判定されてるんだ。さすがにF判定はカレル君が初めてだけどね……」
「……」
Fランクは俺だけか。まあそりゃそうだろうが、本当にそれで大丈夫なのかと不安になってきた。コレットもそわそわしている様子。
「でも、必ず何かがあるって思ったからこそこうしてスカウトしたんだし、君も僕を信じてくれ。何もなかったときは、もちろん僕が責任を持つ」
「はい!」
「……はい」
俺はコレットと一緒に返事したつもりだったが、少し遅れたことからもわかるように不安が完全になくなったわけじゃなかった。【釣り】スキルというものがこれからどういう風に発展していくのか、持ち主の俺でも想像すらできなかったからだ。それでも、ジラルドのよく当たるという勘を信じるしか今は手立てがなさそうだ。それに関してはきっとコレットも同じ気持ちだろう……。
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