外れスキル【釣り】で大物が釣れた件。

名無し

文字の大きさ
上 下
18 / 58

18話 重複

しおりを挟む

「「……え?」」

 一瞬、俺は何が起きたのかまったくわからなかった。隣にいるコレットも目を白黒させている。

 気が付いたときには、ジラルドの体に掴まった俺とコレットの体が、彼が石を投げた方向にあった。ちょうど張り出た崖の向こうに移動した格好みたいだ。

「ここだよ、ここ。僕を待ちぼうけさせた罪深い場所は……」
「……い、今のは……?」
「……何が起こったんです……?」
「あぁ、これこそ僕のスキル【投影】さ。Cランクだけどね!」
「「【投影】?」」
「簡単に説明するとだね……今から僕が石を投げるとするだろう? 投げられるものならなんでもいいんだけど、投げたものに対して自分や掴まっている人を瞬間移動させることができるんだ」
「「へえ……」」
「また声が被ってる。仲がいいねえ」
「「……」」
「ははっ。沈黙のタイミングまで同じだなんて、独り身の僕には本当に応える……」
「「あはは……」」

 俺たちは笑い合ったあと、お互いにはっとした顔で目を背けた。今日は色んな意味でよく被る日だな……。

「いいなあ、いいなあ! 青春って感じで……」
「「ジラルドさん……」」
「そ、そんなに睨まないで。さ、気を取り直してスキルの説明を続けようか。二人とも、ちょっと離れてて。こんなこともできるんだ」
「「あっ……」」

 ジラルドは一人で石を投げたかと思えば、その地点に【投影】スキルで瞬間移動すると同時、投げた石をキャッチして、その繰り返しでどんどん砂浜を移動していった。あっという間に見えなくなり、戻ってくるのも一瞬だった。

「――コツさえ掴めば、これでどんどん移動できるってわけ。戦闘でも、たまに緩く投げれば緩急だってつけられる。ちゃんと投げたものを一発でキャッチできればの話だけどね……あっ……!」

 投げた石をジラルドが掴み損ねて落としてしまい、なんとも気まずい空気が流れる。

「……ま、まあこういうこともたまにはあるけど、ミスはつきものだから仕方ない……!」
「「な、なるほど……」」

 今日は本当によく重なる。とても不思議な日だ。

「当時は外れスキルだと思ってかなり落ち込んだけどね……」

 ジラルドは石を手の平の上で投げたり転がしたりしながらしみじみと語る。

「でも、よく考えたら筋力とか器用さとか、そういうのを鍛えていけば化けるスキルだってわかったんだよ。だから……勘だけど、【釣り】スキルにも何か意外な使い道があるんじゃないかって僕は睨んでる」
「……もし違ったら?」

 ようやく俺とコレットの声が被らなくなったが、彼女の不安げな表情から察するに気持ちは同じだったのかもしれない。

「僕の勘はよく当たることで有名なんだ」
「「はあ……」」
「普段はメンバーから小馬鹿にされてるけどね……」
「「なるほど……」」
「そこ! 変なところで納得しない!」
「「あはは……」」
「あとでちゃんと一人ずつ自己紹介してもらうけど、《ゼロスターズ》のメンバーのスキルは全員外れスキル判定されてるんだ。さすがにF判定はカレル君が初めてだけどね……」
「……」

 Fランクは俺だけか。まあそりゃそうだろうが、本当にそれで大丈夫なのかと不安になってきた。コレットもそわそわしている様子。

「でも、必ず何かがあるって思ったからこそこうしてスカウトしたんだし、君も僕を信じてくれ。何もなかったときは、もちろん僕が責任を持つ」
「はい!」
「……はい」

 俺はコレットと一緒に返事したつもりだったが、少し遅れたことからもわかるように不安が完全になくなったわけじゃなかった。【釣り】スキルというものがこれからどういう風に発展していくのか、持ち主の俺でも想像すらできなかったからだ。それでも、ジラルドのよく当たるという勘を信じるしか今は手立てがなさそうだ。それに関してはきっとコレットも同じ気持ちだろう……。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

異世界で世界樹の精霊と呼ばれてます

空色蜻蛉
ファンタジー
普通の高校生の樹(いつき)は、勇者召喚された友人達に巻き込まれ、異世界へ。 勇者ではない一般人の樹は元の世界に返してくれと訴えるが。 事態は段々怪しい雲行きとなっていく。 実は、樹には自分自身も知らない秘密があった。 異世界の中心である世界樹、その世界樹を守護する、最高位の八枚の翅を持つ精霊だという秘密が。 【重要なお知らせ】 ※書籍2018/6/25発売。書籍化記念に第三部<過去編>を掲載しました。 ※本編第一部・第二部、2017年10月8日に完結済み。 ◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。

転移術士の成り上がり

名無し
ファンタジー
 ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

ギルドを追放された俺、傭兵ギルドのエリートに拾われる〜元ギルドは崩壊したらしい〜

ネリムZ
ファンタジー
 唐突にギルドマスターから宣言される言葉。 「今すぐにこのギルドから去れ。俺の前に二度と顔を出さないように国も出て行け」  理解出来ない言葉だったが有無を言わせぬマスターに従った。  様々な気力を失って森の中を彷徨うと、賞金首にカツアゲされてしまった。  そこに助けようとする傭兵ギルドのA級、自称エリートのフィリア。  モヤモヤとした気持ちに駆られ、賞金首を気絶させる。  行く場所が無い事を素直に伝えるとフィリアは自分のギルドに招待してくれた。  俺は仕事が必要だったのでありがたく、その提案を受けた。  そして後に知る、元所属ギルドが⋯⋯。  新たな目標、新たな仲間と環境。  信念を持って行動する、一人の男の物語。

外れスキル【転送】が最強だった件

名無し
ファンタジー
三十路になってようやくダンジョン入場試験に合格したケイス。 意気揚々と冒険者登録所に向かうが、そこで貰ったのは【転送】という外れスキル。 失意の中で故郷へ帰ろうとしていた彼のもとに、超有名ギルドのマスターが訪れる。 そこからケイスの人生は目覚ましく変わっていくのだった……。

スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜

東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。 ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。 「おい雑魚、これを持っていけ」 ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。 ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。  怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。 いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。  だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。 ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。 勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。 自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。 今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。 だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。 その時だった。 目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。 その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。 ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。 そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。 これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。 ※小説家になろうにて掲載中

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。 父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。 そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。 彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。 その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。 「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」 そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。 これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。

幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』 電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。 龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。 そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。 盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。 当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。 今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。 ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。 ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ 「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」 全員の目と口が弧を描いたのが見えた。 一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。 作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌() 15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

処理中です...