外れスキル【釣り】で大物が釣れた件。

名無し

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16話 叫び声

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「おはよう、コレット」
「おはようです、カレルさん!」

 いよいよ約束の日がやってきた。

「どうせ騙すほうの釣りだと思って気楽に待とう」
「そ、そうですね。それがいいです」
「「……」」

 とは言ったものの、気付けば心臓がドクドクと高鳴るのがわかる。コレットもきっと同じ気持ちだろうと思って彼女のほうを見ると目が合ってしまった。

「……こっちは【釣り】スキルで気を紛らわせようか?」
「はいっ!」

 こうして、いつになく緊張感に溢れた釣りが開始される。イベントの日だってここまで緊張したことはなかったし、お喋りなコレットがここまで無口になるのも珍しい。

「――まだ来ないな……」
「ですねえ……」

 それに比べて、【釣り】自体は順調で良さそうなのが色々出てるんだけどな。凹んだやかんとか、穴が開いた帽子とか。ほとんど傷物だが修繕すれば使えるし、よく釣れる食傷気味の貝殻系よりはずっとマシだ。

「「……はあ……」」

 溜息が被るのはこれで何度目だろう。約束の時間だが来ない。時計塔のほうを見ても午後の二時を回っていて、昼間はとっくに過ぎているというのに……。

「……やっぱり釣りだったみたいだな」
「……うぅ。暇なことをしますねぇ」
「釣りだけに……」
「お上手ですねぇ……」
「あはは……」

 俺の乾いた笑い声が虚しく響いてさざ波の中へと消えていく。折角決心したのに、儚い夢だったな……。

「よーし……」
「ん?」

 コレットが急に立ち上がり、裸足になって海辺に立った。

「コレット……?」
「バカヤローですうぅっ!」
「……」
「釣りならこっちが本場で、いつものように釣りしてただけだからざまーみろですううぅっ!」
「……コレット、声が大きいな。さすが鳥人間……」
「……ふっふっふ。でも、どっと疲れちゃいましたぁ……」
「だろうな……」

 今頃コレットの頭はピヨピヨしてそうだ。



 ◇ ◇ ◇



「なんだよ、ここ……。海以外なーんにもないじゃん」
「だねぇ。本当にこんなところにアレがいるのかなぁ?」

 ヨークとラシムの二人が、困惑した様子で王都南東の海岸沿いを歩く途中だった。

「――あ、ラシム、見て! あそこにアレがいる!」
「……あ! 本当だあっ!」

 やがてカレルの姿を見つけたヨークとラシムは、顔を見合わせるとニヤリと笑って手をつないだ。

「僕たちの熱々振り、アレに見せつけちゃおう!」
「もー、ヨークのドスケベ!」
「ラシムだって好きなくせに……」
「そ、そりゃあねぇ……と、とにかく行きましょ!」
「おー!」

 二人がカレルのいる場所に得意顔で近付いてくと、砂浜には彼のほかにもう一人いて、色んなものが沢山並べられていることに気付いた。

「なんだろ、あれ……」
「あいつがスキルで釣ったものじゃないのぉ?」
「……見た感じ、なんか全部ゴミっぽいよね。さすがアレル兄さん」
「「プッ……」」

 二人は今の状況が面白くて仕方なかった。無能だからと自分たちが追い払った哀れな男が、より惨めな姿を晒しているように見えたからだ。

「ラシム……可哀想だし、少しは慰めてやろうか?」
「へ……? 慰める? アレを?」
「いや、客のほうだよ。アレのせいでつまんなそうだし」
「あー、確かにぜーんぜん盛り上がってないみたいだし、ホントかわいそー……」
「アレを僕がボコれば、少しは溜飲が下がるんじゃない?」
「だねぇ」
「「……ん?」」

 その直後だった。客らしき少女が立ち上がったかと思うと、海に向かって何やら叫び出したのだ。

「なんか言ってるね。文句みたいだ」
「あーあ。つまんなすぎて発狂しちゃったのかもね。アレにかかわるから……」
「「ププッ……」」
「さー、充分笑わせてもらったし、とどめを刺しにいこうよ」
「うんっ」
「……あ……」
「どしたの、ヨーク?」
「……あ、あいつは……」

 ヨークが震え声を上げながら指差したのは、カレルたちのほうへ歩み寄っていく一人の男だった。
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