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第五十一話 凡人で悪かったな
しおりを挟む「あの椅子に仕掛けられてるのは超高性能の爆弾だから、琉璃たちを不快にさせる害虫さんたちは今頃人質ごとバラバラになったはずだよっ。マジ、いい気味ー」
「うへえー。琉璃ちゃんって、可愛い顔して結構えげつねえことするなあ」
ベッド上、パーソナルカードで煙が充満した工場内の映像をしたり顔で見つめる河波琉璃と、それを隣から唖然とした表情で覗き込む水谷皇樹。
「皇樹君も、そんなこと言ってるけど無差別殺人犯のくせにぃ」
「あはは。まあな。なあ、もう一回やるか? 次は生で頼むぜ……」
「う、うんっ……あ、来たみたいっ」
ピンポーンとチャイムが鳴り響き、河波が体にタオルを巻いて玄関のドアを開けると、そこには原稿を手にした人物が立っていた。
「どうぞ」
「ご苦労様、よくやったわ。……うん、紛れもなく本物ねっ」
手渡された原稿を見てニヤリと笑う河波だったが、次の瞬間には攻魔術の《風刃》によってバラバラに刻まれてしまったため、驚いた様子で飛び退くとともに目の前にいる人物を睨む。
「な、何者っ!?」
「あたし、廻神流華っていうの。よろしく!」
「み、みんな、こいつを早く捕まえるのよっ!」
「あれ? 英雄さんのくせに他力本願なんだ?」
「な、なんですって……?」
「お、おい、琉璃ちゃん、どうしたんだ――」
「――ふー、どっこいしょっとな……」
「「あ……」」
河波と水谷が目にしたのは、屈強な男たちをロープで縛り上げた老婆の姿だった。
「な、なんなの……こ、こうなったら、皇樹君、琉璃と二人で強引に突破するしかないよ!」
「で、でもよ……」
「それで殺しちゃっても、暴漢に襲われたから仕方なくってことにすればいいって!」
「お、おう――」
「――おっと、お前らの相手はこの俺だ」
「「えっ……?」」
そこに颯爽と現れたのは、工場で爆発に巻き込まれたはずの男で、人質にされていた少女を両手に抱えて立っていた。
「い、生きてた……? 人質ごと爆散したはずなのに、嘘でしょ……」
「寸前でな、爆発力をいなすことに成功した。究極の体術、《浮雲》でな……」
「あ、あなた、一体なんなの……」
「な、なんなんだよ、こいつ……」
「俺の心配をするより、自分たちの心配をしたらどうなんだ?」
「「え……?」」
そこに取材陣が殺到し、フラッシュの嵐が巻き起こる。
「これでもまだやるのか? 一応中継もされてるが……」
「「そ、そんなあぁ……」」
がっくりと膝から崩れ落ちるようにして座り込む河波と水谷。
「ちなみに、俺の名前は真壁庸人だ。覚えてるか?」
「「……はぁ?」」
怪訝そうな顔を浮かべた英雄たちだったが、彼が次に発した台詞によって本物だと知ることになる。
「なあ、凡人で悪かったな? 無差別殺人犯の水谷皇樹。それと、河波琉璃、お前みたいなどうしようもないクズ女、同じクズでも白崎に捨てられるのは当然だし、俺の仲間じゃなくて本当によかったよ」
「「……」」
水谷と河波はしばらく呆然とした顔をしたのち、人目もはばからずに泣くのだった……。
◇◇◇
「ち……畜生どもめ、大人しくしてりゃいいものを、俺の足を引っ張りやがってえぇぇ……!」
自室の巨大なテレビを前に頭を抱える男、白崎丈瑠。
「しかも、その原因を作ったのが真壁庸人だと……? 言動から察するに本人っぽいが……まさかあんな無能が――」
「――あら、真壁君はとっても有能だと思うわよ?」
「し、姿月……」
そこにいたのは、これでもかと妖艶さを漂わせる美女だった。
「いつの間に……って、やつはお前の知り合いだっていうのか……?」
「ええ、そうよ。一度しかお話したことはないのだけれど……」
「しかし、奇妙なものだ。あいつはあんな顔じゃなかったし、体格にしても何もかもが以前の真壁とは別人だぞ……」
「真壁君のお父さんね、S級アイテムを持ってたのよ。それはなんでも盗める手袋でね……息子さん、つまりあの子に譲ったらしいの……」
「な、なんだと。じゃあ、あの姿もやつがその手袋で奪ったものだっていうのか……?」
「ええ、そうみたいね。以前話したときとは容姿も大分変わっているもの。ふふっ……。けれど、あの手袋には正気を失うっていうデメリットもあるから、よっぽど気持ちが強い子じゃないと扱えないと思うわ……」
「……」
「いずれは白崎君、あなたの元にも来るでしょうね。英雄パーティーに相当な恨みがあるみたいだし。もしかしたら、その復讐心があの子の異常なまでの精神力の強さの源なのかもしれないけれど……」
「くっ……だからなんだというんだ……」
「あら、あなたはこのままでいいの? 真壁君、順調にパワーアップしてるみたいだし、いくら訓練を怠らないあなたでも負けちゃうかもしれないわよ……?」
「バカを言うな。この俺があんなやつに負けるわけがない。俺は必ず不老不死になり、人類最強の男になってやるんだ……」
目を怪しく光らせ、猛然と部屋を飛び出していく白崎丈瑠。
(ふふっ……今のところ、全て私の思い通りに事が運んでるわね。この調子で争いなさい。勝ったほうが、次期会長になる予定のお兄様と戦うのよ。お兄様が勝っても嬉しいし、負けても嬉しい……。何も悪いことはないわね……)
幹根姿月は腕組みをして、微笑みながらテレビ画面を見ていた。そこに映し出されていたのは、視聴者に向かって太々しい面構えで中指を立てる男――遺跡管理委員会の会長の息子、宵山陽炎――であった。
『えー、只今この画面を見ている惨めで間抜けな諸君に告ぐっ! 一億回以上の殺害予告を受けたこの私、宵山陽炎はいつでも君たち愚民どもの挑戦を待っている。殺せるものなら早く私を殺してみたまえ! ハッハッハ!』
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