やつはとんでもないものを盗んでいきました。それは相手の一番大事なものです。

名無し

文字の大きさ
上 下
51 / 52

第五十一話 凡人で悪かったな

しおりを挟む

「あの椅子に仕掛けられてるのは超高性能の爆弾だから、琉璃たちを不快にさせる害虫さんたちは今頃人質ごとバラバラになったはずだよっ。マジ、いい気味ー」

「うへえー。琉璃ちゃんって、可愛い顔して結構えげつねえことするなあ」

 ベッド上、パーソナルカードで煙が充満した工場内の映像をしたり顔で見つめる河波琉璃と、それを隣から唖然とした表情で覗き込む水谷皇樹。

「皇樹君も、そんなこと言ってるけど無差別殺人犯のくせにぃ」

「あはは。まあな。なあ、もう一回やるか? 次は生で頼むぜ……」

「う、うんっ……あ、来たみたいっ」

 ピンポーンとチャイムが鳴り響き、河波が体にタオルを巻いて玄関のドアを開けると、そこには原稿を手にした人物が立っていた。

「どうぞ」

「ご苦労様、よくやったわ。……うん、紛れもなく本物ねっ」

 手渡された原稿を見てニヤリと笑う河波だったが、次の瞬間には攻魔術の《風刃》によってバラバラに刻まれてしまったため、驚いた様子で飛び退くとともに目の前にいる人物を睨む。

「な、何者っ!?」

「あたし、廻神流華っていうの。よろしく!」

「み、みんな、こいつを早く捕まえるのよっ!」

「あれ? 英雄さんのくせに他力本願なんだ?」

「な、なんですって……?」

「お、おい、琉璃ちゃん、どうしたんだ――」

「――ふー、どっこいしょっとな……」

「「あ……」」

 河波と水谷が目にしたのは、屈強な男たちをロープで縛り上げた老婆の姿だった。

「な、なんなの……こ、こうなったら、皇樹君、琉璃と二人で強引に突破するしかないよ!」

「で、でもよ……」

「それで殺しちゃっても、暴漢に襲われたから仕方なくってことにすればいいって!」

「お、おう――」

「――おっと、お前らの相手はこの俺だ」

「「えっ……?」」

 そこに颯爽と現れたのは、工場で爆発に巻き込まれたはずの男で、人質にされていた少女を両手に抱えて立っていた。

「い、生きてた……? 人質ごと爆散したはずなのに、嘘でしょ……」

「寸前でな、爆発力をいなすことに成功した。究極の体術、《浮雲》でな……」

「あ、あなた、一体なんなの……」

「な、なんなんだよ、こいつ……」

「俺の心配をするより、自分たちの心配をしたらどうなんだ?」

「「え……?」」

 そこに取材陣が殺到し、フラッシュの嵐が巻き起こる。

「これでもまだやるのか? 一応中継もされてるが……」

「「そ、そんなあぁ……」」

 がっくりと膝から崩れ落ちるようにして座り込む河波と水谷。

「ちなみに、俺の名前は真壁庸人だ。覚えてるか?」

「「……はぁ?」」

 怪訝そうな顔を浮かべた英雄たちだったが、彼が次に発した台詞によって本物だと知ることになる。

「なあ、凡人で悪かったな? 無差別殺人犯の水谷皇樹。それと、河波琉璃、お前みたいなどうしようもないクズ女、同じクズでも白崎に捨てられるのは当然だし、俺の仲間じゃなくて本当によかったよ」

「「……」」

 水谷と河波はしばらく呆然とした顔をしたのち、人目もはばからずに泣くのだった……。



 ◇◇◇



「ち……畜生どもめ、大人しくしてりゃいいものを、俺の足を引っ張りやがってえぇぇ……!」

 自室の巨大なテレビを前に頭を抱える男、白崎丈瑠。

「しかも、その原因を作ったのが真壁庸人だと……? 言動から察するに本人っぽいが……まさかあんな無能が――」

「――あら、真壁君はとっても有能だと思うわよ?」

「し、姿月……」

 そこにいたのは、これでもかと妖艶さを漂わせる美女だった。

「いつの間に……って、やつはお前の知り合いだっていうのか……?」

「ええ、そうよ。一度しかお話したことはないのだけれど……」

「しかし、奇妙なものだ。あいつはあんな顔じゃなかったし、体格にしても何もかもが以前の真壁とは別人だぞ……」

「真壁君のお父さんね、S級アイテムを持ってたのよ。それはなんでも盗める手袋でね……息子さん、つまりあの子に譲ったらしいの……」

「な、なんだと。じゃあ、あの姿もやつがその手袋で奪ったものだっていうのか……?」

「ええ、そうみたいね。以前話したときとは容姿も大分変わっているもの。ふふっ……。けれど、あの手袋には正気を失うっていうデメリットもあるから、よっぽど気持ちが強い子じゃないと扱えないと思うわ……」

「……」

「いずれは白崎君、あなたの元にも来るでしょうね。英雄パーティーに相当な恨みがあるみたいだし。もしかしたら、その復讐心があの子の異常なまでの精神力の強さの源なのかもしれないけれど……」

「くっ……だからなんだというんだ……」

「あら、あなたはこのままでいいの? 真壁君、順調にパワーアップしてるみたいだし、いくら訓練を怠らないあなたでも負けちゃうかもしれないわよ……?」

「バカを言うな。この俺があんなやつに負けるわけがない。俺は必ず不老不死になり、人類最強の男になってやるんだ……」

 目を怪しく光らせ、猛然と部屋を飛び出していく白崎丈瑠。

(ふふっ……今のところ、全て私の思い通りに事が運んでるわね。この調子で争いなさい。勝ったほうが、次期会長になる予定のお兄様と戦うのよ。お兄様が勝っても嬉しいし、負けても嬉しい……。何も悪いことはないわね……)

 幹根姿月は腕組みをして、微笑みながらテレビ画面を見ていた。そこに映し出されていたのは、視聴者に向かって太々しい面構えで中指を立てる男――遺跡管理委員会の会長の息子、宵山陽炎よいやまかげろう――であった。

『えー、只今この画面を見ている惨めで間抜けな諸君に告ぐっ! 一億回以上の殺害予告を受けたこの私、宵山陽炎はいつでも君たち愚民どもの挑戦を待っている。殺せるものなら早く私を殺してみたまえ! ハッハッハ!』
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

【完結】元婚約者であって家族ではありません。もう赤の他人なんですよ?

つくも茄子
ファンタジー
私、ヘスティア・スタンリー公爵令嬢は今日長年の婚約者であったヴィラン・ヤルコポル伯爵子息と婚約解消をいたしました。理由?相手の不貞行為です。婿入りの分際で愛人を連れ込もうとしたのですから当然です。幼馴染で家族同然だった相手に裏切られてショックだというのに相手は斜め上の思考回路。は!?自分が次期公爵?何の冗談です?家から出て行かない?ここは私の家です!貴男はもう赤の他人なんです! 文句があるなら法廷で決着をつけようではありませんか! 結果は当然、公爵家の圧勝。ヤルコポル伯爵家は御家断絶で一家離散。主犯のヴィランは怪しい研究施設でモルモットとしいて短い生涯を終える……はずでした。なのに何故か薬の副作用で強靭化してしまった。化け物のような『力』を手にしたヴィランは王都を襲い私達一家もそのまま儚く……にはならなかった。 目を覚ましたら幼い自分の姿が……。 何故か十二歳に巻き戻っていたのです。 最悪な未来を回避するためにヴィランとの婚約解消を!と拳を握りしめるものの婚約は継続。仕方なくヴィランの再教育を伯爵家に依頼する事に。 そこから新たな事実が出てくるのですが……本当に婚約は解消できるのでしょうか? 他サイトにも公開中。

【完結】蓬莱の鏡〜若返ったおっさんが異世界転移して狐人に救われてから色々とありまして〜

月城 亜希人
ファンタジー
二〇二一年初夏六月末早朝。 蝉の声で目覚めたカガミ・ユーゴは加齢で衰えた体の痛みに苦しみながら瞼を上げる。待っていたのは虚構のような現実。 呼吸をする度にコポコポとまるで水中にいるかのような泡が生じ、天井へと向かっていく。 泡を追って視線を上げた先には水面らしきものがあった。 ユーゴは逡巡しながらも水面に手を伸ばすのだが――。 おっさん若返り異世界ファンタジーです。

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

処理中です...