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第五十話 この機会を逃すわけにはいかない
しおりを挟む「真壁兄貴、お話がありやす……」
「なんだ、コージ?」
俺は以前行ったラーメン屋で、弟子のコージと向き合っていた。師弟水入らずで飯でも食べやせんかって言われたから、これは多分食ったあとに何かあるんじゃないかとは予感してたが、やはり的中した形だ。一体なんの話なんだろう。
「例のオルゴールの件、覚えてるでやんすか……?」
「ん、ああ、コージの一番のお宝で、せがれの形見だったな。あれがどうかしたのか……?」
「兄貴の手袋って、ああいう風になんでも盗めるんでありやすよね。相手の一番のお宝なら」
「ああ、可能だ……て、まさか……」
コージが言わんとしてることが、俺にはわかった気がした。
「さすが兄貴、察しがいいでありやすね。その手袋を鬼婆に使えば、理沙っちを今すぐにでも助けられると思ったんでやんす」
「なるほどな。確かに、鬼婆が命に代えてでもって言ってたし、普段から溺愛してる様子を見たらありえると思う。実際には奪うわけじゃなく、取り戻す格好になるわけだから裏技的な使い方だが」
「じゃ、じゃあ試しに――」
「――いや、それだけはできないんだよ、コージ」
「えっ……?」
さも意外そうに目をぱちくりさせるコージ。
「コージ……俺だってな、できることなら今すぐにでも助けたいよ、理沙を……。でも、これはチャンスでもあるんだ」
「チャンス……?」
「ああ、英雄どもにとどめを刺すチャンスだ。この機会を逃すわけにはいかない」
「で、でも、もしその間に理沙ちゃんに何かあったら……」
「大丈夫だ。理沙は絶対に死なない。これだけはお前の師匠として必ず守る。だから安心しろ」
「へ、へい……」
俺の自信ありげな言葉に何かを察したのかコージがうなずいた。ずっと一緒にいるので、伝わるものはあるはずだ。何か深い考えがあるんだと……。
「――ここか……」
翌日の夕方六時を少し回った頃、俺とコージと六さんの三人でアーケード街の近くにある缶詰工場までやってきた。
「来たか。ついてこい」
そこで俺たちは、帽子を深く被った怪しげなスーツ姿の男に迎えられ、工場の内部へと案内される。ここはダンジョンじゃないし、モンスターが飛び出してくる可能性は限りなく低いわけだが、それがありえそうなほど緊張感みたいなものが充満していた。
「「「……っ!?」」」
唐突に工場のシャッターが下ろされ、真っ暗になったもんだからさらに緊迫感が増すが、まもなく案内人がライターで煙草に火をつけたことで周囲がぼんやりと照らされることになった。
「安心しろ。終わったら帰してやる。無事に終わったら、な……」
「「「……」」」
最初から無事に帰すつもりなんて毛頭ないくせにな。なあに、既に手は打ってあるので問題ない。俺たちは怪しげな案内人の背中を追うようにして足早に歩いていく。
「――止まれ」
「「「あっ……」」」
パッと照明が灯ったかと思うと、その真下に背もたれのある椅子があり、目隠しと猿轡をつけられた理沙がロープで縛られた状態で座っているのがわかった。
「理沙……」
「理沙ちゃん……」
「理沙っち……」
俺たちの呼びかけにも応答がない。どうやら薬か何かで眠らされているようだ。
「理沙に何もしてないだろうな……?」
「安心しろ。眠っているだけだ。おっと、動くなよ? あの椅子には強力な爆弾が仕掛けられている。迂闊に飛び込めば、人質ごと木っ端微塵だ。さあ、例の原稿を渡してもらおう」
「六さん」
「了解でごわす」
六さんが鞄から封筒を取り出し、案内人の男に手渡した。
「――よしよし、これで間違いないな」
「確認できたなら早く理沙を自由にしてやってくれ」
「ちょっと待て」
案内人が口笛を鳴らすと、誰かがそっと寄ってきて原稿を受け取り、そのまま立ち去っていった。
「爆弾は解除した。あとは好きにしろ」
男が煙草を捨て、足で踏み潰すと闇に溶け込むようにして行方をくらました。
「兄貴、大丈夫でやんすかね……?」
「不安でごわす……」
「なあに、大丈夫だ。ただ一応、トラップを仕掛けられてた場合に備えてコージと六さんは少し離れたところから様子を見ててくれ」
「「了解」」
そういうわけで俺だけ理沙の元へと近づき、ロープを外して彼女を椅子から立ち上がらせた瞬間だった。
「――っ!?」
閃光とともに爆音が鳴り響いた。
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