やつはとんでもないものを盗んでいきました。それは相手の一番大事なものです。

名無し

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第四十八話 平和に見えるときこそ注意しないといけない

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「す、すいません、ボス。駄菓子屋の連中はそりゃもう滅法強くて、素性もわたくしども以上にわけのわからないおかしなやつらばかりでして、まったく隙が見当たらな――」

「――黙れよ、この薄らハゲエエェェッ!」

「ひ、ひいぃっ……!」

 河波琉璃に凄まれて青い顔をする部下の男。

「琉璃はね、言い訳なんて聞きたくないの。客の振りをしてぇ、こっそり盗聴器を仕掛けろって言ったでしょぉ……? これくらいのことすらできないなんて、人間として終わってるよぉ。ねえ、水谷君?」

「……」

「水谷君……?」

「……あ、な、なんだよ?」

「水谷君、ちょっとおかしいよ? 異様なくらいにビクついちゃってぇ、これじゃ昔いた……なんだっけ? あ、そうだ、真壁っていう気色の悪いストーカーさんみたいじゃない……」

「な、懐かしい名前だな! 敵がみんなああいう生きてても意味のねえゴミみてえなやつばかりだといいんだけど、そういうわけにもいかねーしよ……」

「そういえば、水谷君自慢のインヴィジブルマント、盗られちゃったらしいよね?」

「うっ……」

「けど、あんなのそれこそお遊びみたいなもんだと思う。相手が強いなら、真っ向勝負さえ避けちゃえばいいだけだって琉璃は思うの……」

「あ? どういうことだよ……?」

「耳貸してっ」

 河波琉璃が耳打ちすると、水谷の顔に明るい色が見る見る戻っていく。

「どう? 琉璃って情報通でしょおっ」

「し、知らなかった。でもさ、もしそんなことをしたって世間にバレちまったら……」

「もう泥を塗られてるようなものじゃない。それに、この作戦なら逆に失った名誉が回復するかもよぉ?」

「へ……?」

「ほらぁ、もう一回、耳貸してっ」

「……」

 河波に再度耳を貸した水谷の顔には、最早陰鬱さなど欠片もなくなり、その代わりのように嫌らしい笑みが浮かんでいたのである。

「す、すげえな。琉璃ちゃんは。さすが、世界一の攻魔術士。策士じゃーん!」

「うふふ。凄いでしょー。どう? その前にぃ、お楽しみにしない……?」

 胸元を開いて舌をペロリと出す河波琉璃。それを間近で見る水谷の喉仏が、ぐるりと動いた……。



 ◇◇◇



 あれから、驚くほど状況は変わっていた。駄菓子屋周辺を執拗に見張っていた怪しげな男たちは忽然といなくなり、普通の生活が戻っていたのだ。

 ここに忍び込んできて盗聴器を仕掛けてきたっていう連中に、逆に同じ物を仕掛けてやったが、河波琉璃と水谷皇樹が何やら小声でボソボソと俺の悪口を並べてるくらいで肝心なことはわからずじまいだった。

 あいつらがこのままあきらめるとは思えなかったので不気味に感じる。一体何をたくらんでるんだか……。

「真壁兄貴……あの緊迫した時間は、一体なんだったでやんすかねえ……」

「真壁どん、おいどんもそげん思うちょるでごわす。普通にパチンコばできるくらい平和っす……」

「「六さん……」」

「そ、そげん白い目で見らんでも……。も、申し訳なか……」

「六さん、こういうときが一番怖いんだから気を付けてくれ。平和に見えるときこそ注意しないといけないんだ」

「さすが真壁兄貴っ」

「真壁どんはさすがでごわすっ」

「……」

 まずいな、俺の台詞が浮いてしまっている。こういう誰かを諫めるような言葉は、実際に危機が伴わないと説得力が薄くなるんだ。こんな台詞を、効力が小さいとわかってるのに発する時点で俺も平和ボケしちゃってるってことかもな。

 そういえば……これだけ平和が続くと心配になるのが、一週間ほど前に退院した理沙についてだ。しばらく鑑定屋を休むようには言ったが、この分だと再開しかねない。いっそ俺が助手になることでボディガードするべきだろうか――

「――きゃあああぁぁっ!」

「「「っ!?」」」

 こ、この声は……間違いない。理沙のものだ……。
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