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第四十七話 どいつもこいつもなんで泣くんだ
しおりを挟む「真壁もわかったみたいね。もし理沙の記憶が戻ったら、大惨事になってしまう。だから……」
「殺せるのか? 不老不死なのに……って、ま、まさか……」
俺は気付いた。気付いてしまった。
「多分、あんたの想像通りよ。そう、暴走した場合あの子を止めるには、もうその手袋しかないの……」
「……なるほどな。これで理沙の不老不死自体を奪おうってわけか」
「記憶が戻れば、不老不死というのはあの子にとってかなり上位のお宝になるはずだしね」
「……」
ようやく理解が追いついてきた。元々流華は不老不死なわけで、そのデメリットも嫌というほど知ってるからこそ、俺じゃなく自身の手で理沙から不老不死を盗み、悪魔との戦いに終止符を打とうとしてたってわけだ……。
「流華、それなら俺の手でやらせてくれ」
「……え?」
「別に不老不死が欲しいわけじゃない。流華の手を赤く染めるより、もう汚れてしまってる俺の手でやらせてほしい――」
「――違う、あんたは違う……」
「はあ? 何が違うんだよ」
「……まだ、あんたはあたしにとっては昔の子供のままなの。だから、汚れてない……」
「……」
流華は泣いていた。なんだよ、どいつもこいつもなんで泣くんだ……。
「――あのぉ……」
「「はっ……」」
いつの間にか、理沙が俺たちのすぐ近くにいた。
「やっぱりここにいたんですねっ。流華さんの声がしたのに見当たらなくて、もしかしたらこの見晴らしのいい場所かもって……」
「「……」」
一瞬ドキッとしたがいつもの明るい顔だし、話を聞かれたわけじゃなさそうで安心した。それにしても、気配を完全に消してたんじゃないかと思えるレベルだ。さすが、かつてインヴィジブルデビルと呼ばれていただけはある。今や本人にその自覚はないだろうが……。
「あ、そうだ。理沙、もう歩いて大丈夫なのか……?」
「大丈夫ですっ。もういつでも退院していいよってお医者さんに言われているので……」
「な、なるほど……いてっ……」
流華に尻をつねられていた。
「何すんだよ」
「お姫様の護衛、任せたわよ。あたしは先に帰るから」
「お、おい……」
流華は俺の返事も聞かずに小走りに駆けて行った。あいつ、まさか俺と理沙に気を使ったのか。余計なことしやがって……。
◇◇◇
「「はぁ、はぁ……」」
荒い息遣いと熱気が充満する駄菓子屋内は、時折パシャパシャとフラッシュが焚かれていた。
肩で息をするコージと鬼婆の足元には気絶した怪しげな男たちの姿があり、六さんが様々な角度から写真を撮っているところだった。
「お、鬼婆、褒めたくねえでやんすが、さすがでありやす……」
「コ、コージもまあ、中々やるじゃないか……。あたいだけならもう歳だし不覚を取るかもしれないところだったよ。神聖なお菓子に盗聴器なんぞ仕込もうとしたふざけた連中に対して、ね……」
「鬼婆、これも真壁兄貴のおかげでやんすよ」
「そういや、真壁君が師匠だったか。あの浮気者も中々やるもんだねえ……」
「いやー、まさに芸術でごわす……」
「「……」」
二人が会話中、六さんはひたすら気絶した男たちを撮っていた。
「六さん、あんたもある意味凄いねえ」
「あっしも同感でやんす。あ、そういえば真壁兄貴はまだ病院におりやすんかね?」
「当然だろ、コージ。あたいには女の勘ってやつですぐにわかるんだよ。あの二人はできてるってね。それより、あんたらに一つ大事なことを話しておかないとねぇ……」
「「えっ……?」」
鬼婆は箒を置くと、段ボール箱に座って煙草を吹かしながらしんみりと語り始めた。
それは、かつて理沙がこの駄菓子屋で万引きをして、鬼婆が捕まえたことがきっかけで仲良くなり、それ以降常連客としてよく会話をするようになったという話だった。
「――あ、あの理沙ちゃんが……今じゃ考えられねえことで……」
「おいどんも。理沙っちが万引き犯だなんて……」
「ま、あの子が万引きするなんて信じられないだろうけどねぇ、今と違って不良っていうタイプだったのさ。あたいもかつてはスケバンって言われてて、そのあと立ち直ったからわかるんだよ。誰だってやんちゃな頃があるもんさ。久しぶりに会ったときなんて、ライバルとの取っ組み合いの喧嘩が原因なんだろうけど、すっかり良い子ちゃんに――」
「「――ただいまー」」
「「「……っ!?」」」
仰天した表情になる鬼婆たち。真壁と理沙が帰ってきたところだった。
「ま、真壁君、理沙ちゃん、いつからいたんだい……?」
「ついさっきだけど……」
「ごめんなさい、偶然聞いちゃいました。おばあさんがスケバンって呼ばれてたとか……」
「そ、そうだよ。あたいはね、こう見えてスケバンだったのさ。スケバンだよスケバンッ! がははっ!」
引き攣ったような顔の鬼婆のしわがれた笑い声が、しばらく駄菓子屋内に響き渡るのだった……。
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