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第四十五話 まるで罰ゲームみたいに思えてきた
しおりを挟む俺は念には念を入れて、インヴィジブルマントで姿を消すだけでなく、音や気配を消して慎重に理沙のいる病院へと向かっていた。
その際、やはりというか怪しいやつらが何人か駄菓子屋の周辺で目を光らせていたが、こっちに気付いた様子もなく、実力的にもコージと鬼婆の二人で充分追い返せそうだった。しかし、ここに英雄が絡んでくるとそうもいかなくなるのでなるべく急がないといけない。
まもなくアーケード街を抜けて青空と陽射しの下、車の往来の激しい大通りの脇を走っていくと、総合病院の白い建物が見えてきた。防魔術の発展により昔に比べると病院の数自体は減ったそうだが、それでも原因不明の病であったり精神的に病んだ者の受け入れだったりと、訪れる患者は後を絶たないのだそうだ。
《加速》が一般的になったことで、自分がガキの頃はまだちらほらあった自転車の姿はめっきり見なくなったが、車は相変わらず多いのもそれだけ荷物の持ち運びとかが楽で便利だからだろう。
そんなどうでもいいことをぼんやりと考えてる間に、俺は病院へと到着した。病弱だった母がよく通院していて、見舞いに行くたびに容体が悪くなっていったのであまり良い思い出はないが、仕方ない。
理沙のいる病室がどこにあるかは知っていたし、何度も病院自体は訪れた経験があるということもあって、スムーズに目的の部屋へと辿り着いた。確か、右側奥の窓際のベッドだったか。
仕切りの白いカーテンレース前に立つと、怪しく感じたのか理沙が顔だけを覗かせてきた。
「あっ、不審者さんですね? 今はお着換え中なので、入っちゃメーですよ……?」
「おいおい……帰るぞ」
「ふふ……冗談ですよ、真壁さんっ。でもお着換え中だったのは本当なので、ちょっと待っててくださいねー」
「あ、ああ……」
俺はいつもの理沙の笑顔に安堵しつつ背を向ける。ここに点滴を受けた状態で運ばれてきたときは顔も青白くて呼吸も弱くてどうなることかと心配したもんだが、意外と元気そうだな。しかし、ブラックカードの俺がなんでこんなにも緊張してるんだか……。
「――もういいですよー」
「あ……」
振り返ると、カーテンはすっかり開かれていて白いワンピース姿の理沙がベッドに座って微笑んでいた。
「お隣、どうぞ……!」
「あ、あ、ああ……」
妙だな。俺、なんでこんなにドキドキしてるんだ。
「「……」」
しばらく無言が続いて、まるで罰ゲームみたいに思えてきた。
「「――えっと……」」
お互いに顔を見合わせた際の、台詞もタイミングも同じという奇跡の中、俺たちはやっぱり同時に顔を逸らすことになった。いい加減腹が立ってくる。自分にはもちろん、理沙にも。妙な空気を作りやがって。いっそ一番大事なお宝を奪ってやろうか……と思ったが、心だったな、そういや……。
「ひっく……」
「え……?」
彼女のほうを見ると、口元を押さえながら泣いていた。
「ど、どうした、具合が悪いのか……?」
「い、いえ……ごめんなさい。見苦しいところを見せてしまって……」
「い、いや、気にするなって。辛いときは泣くのが一番だ」
「……いえ、そうじゃなくて、嬉しくて、つい……」
「嬉しくて……?」
「はい……。まさか、真壁さんがお見舞いに来てくださるなんて思わなかったので……」
「おいおい、それじゃ俺がいかにも薄情者みたいじゃないか……」
「そうじゃないんです。だって、手袋とは関係のないことで来てもらえたというのは……心が少しずつ変化していってるってことですから……」
「あ、あんた、心理セラピストかなんかか……?」
「ふふっ……似たようなものかもしれませんね。鑑定士なので、閉ざされた心が開こうとする瞬間を見てしまうと、耐えられなくて泣いちゃうんです……」
「……」
俺、そんなに荒んで見えたのかな……? まあ確かに駄菓子屋へ行くまでの自分とは違うような気もするが……。
「あの……私じゃダメですか……?」
「……え、え……?」
理沙が俺の手を握ったかと思うと、目を瞑ってきた。お、おいおい、おいおい……。
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