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第四十四話 得体の知れない何かを感じた
しおりを挟む「真壁兄貴……?」
「真壁どん……?」
怪訝そうなコージと六さんに向かって、俺は無理のない笑みを浮かべてみせた。
「コージ、六さん、本当に大丈夫なんだって。意図せずしてこっちの思う通りになったんだからな」
「「一体……」」
「やつらにしてみたら、今回の件で慎重になって表に出辛くなるわけで、このまま風化してしまう恐れだってあったが、やっぱり俺の思った通りプライドが許さなくて尻尾を出してきた。そこでちょうどよく六さんが相手の罠に嵌って居場所がバレたわけだが、そのおかげで却ってやりやすくなった。こうなったら慎重になるどころかどんどん表に出てくるはずだ」
「な、なるほどでやんす。真壁兄貴、さすがでありやすね……」
「おいどんが天然の囮になっちょったでごわすか。さすが真壁どん……」
「そうそう。向こうが仕掛けてきた罠に対してカウンターみたいな格好になったわけだが、こっちが意図しない天然の罠になったから気付かれにくい」
そうと決まったら、一気にやつらを追い詰めてやる。なんせ、根城を突き止められたといってもここの連中は強いやつらばかりだからな。コージ、鬼婆、流華、それに六さんも度胸は充分だ。
唯一心配なのが、今入院中の館花理沙くらいだ。六さんが気付くくらいだから俺ならとっくに追手の気配を察知できるはずだし、病院に仲間がいることまではまだ勘付かれてないと思うが、調べられると時間の問題かもしれない。
「……」
そう考えると妙に焦りが出始めてきた。なんでだろう? 彼女の中に得体の知れない何かを感じたからだろうか? とにかくこのままじっとしてられないし様子を見に行くか。
「コージ、六さん、しばらくここを頼む」
「「えっ……?」」
コージと六さんの顔、凄く不安そうだ。まあ追手の黒幕はどう考えても英雄たちだからしょうがないんだが、ここには鬼婆もいるしな。それに、流華も今はいないがいざとなれば駆けつけてくるだろう。
「鬼婆と一緒にここを死守してくれ。それに、俺がいないからこそ修行にもなる。六さんもカメラを持ってるわけだし、相手も迂闊には手を出せないはずだ」
「へ、へい」
「わかりもうした」
というわけで、俺はインヴィジブルマントを被り、《加速》をかけた上で窓から飛び出していった。
◇◇◇
『――であります、ボス』
河波琉璃のパーソナルカードにボイスメールが送信される。それは元新聞記者を尾行した末に辿り着いた駄菓子屋と、その住人についての情報だった。
『素性がよくわからない連中ね。当分の間見張ってて頂戴』
『了解、ボス』
部下とのやり取りが終わり、カードを仕舞い込む河波。
「何か掴んだん? 琉璃ちゃん」
「うん。やつらの根城」
「おおっ……やるじゃん。で、どこなんだ? ぶっ潰してやりてえよ。俺ら英雄に嫉妬してる糞どもをよ……」
「それが、なんか意外なことに、今にも潰れそうな小汚い駄菓子屋だって」
「へえ……って、まさかそこって、アーケード街のシャッター通りにあるところか……?」
「水谷君、知ってるの?」
「し、知ってるも何も、そこ……調べたことあっから……」
「じゃあ、怪しいって睨んでた場所?」
「ほら……あったじゃん、例の師匠殺しでさ、犯人の般木道真がよく通ってた店だから……」
「あー、なるほど……って、水谷君、凄い汗だけど、大丈夫なの? ってか、般木ってもう倒したんじゃ……?」
「それが、生きてやがったんだよ……。あんだけ斬ったのに……倒れるところも見たのに、バ……バケモンだ、や、やつは……」
呼吸が乱れるほど水谷の怯えようは酷く、河波が言葉に窮するほどであった。
「し、心配しすぎよ。駄菓子屋に通ってたっていうけど、ただの客みたいなもんでしょ? 今回はスルーして関わらなきゃいいだけよ」
「……そ……そそそっ、そうだといいけど、よ……」
水谷の体は、終始小刻みに震えていたのだった……。
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