43 / 52
第四十三話 これは紛れもなく俺の本音だった
しおりを挟む理沙はかなり疲労が溜まっていたらしく、しばらくの間安静が必要らしい。そんな様子は微塵も見せなかっただけにショックだった。
でもよくよく考えてみると、彼女は鑑定屋を一人で切り盛りしてて助手が欲しいって言うくらい忙しかったわけで、その上俺らの食事とか毎日のように作ってくれて、なおかつ常に元気で笑顔っていう気の使いようだったからな。いい人ほど早く死んでしまうっていうのもうなずける話だった。
そんなわけで、俺たちは用事があるという流華と店を経営する鬼婆を除いて、いつもの駄菓子屋二階に戻ってきたところなんだが、パーソナルカードをじっと見つめる六さんの様子がさっきからおかしい。
顔が真っ青だし、よく見ると震えてるしで今にも倒れそうな気配があった。
「六さん、どうした?」
「六さん、どうしたでやんすか?」
「く……」
「「く……?」」
「く、クビになったっす……」
「「ええ……!?」」
まさか、それって英雄のスキャンダル記事を載せた影響なのか……。
「こうしちゃいられんとでごわす!」
「「あっ……」」
六さんは俺たちが止める暇もないほど猛然と部屋を飛び出してしまった。おそらく新聞社に抗議をするために向かったんだろう。確かにあまりにも理不尽な話だ。いくら相手が英雄だからって、無差別殺人の犯人であるという証拠を載せただけでクビにされてしまうんだからな。それだけ遺跡管理委員会の権力が絶大で、恐ろしいほどの圧力が新聞社にかかったってことだろうが……。
「……」
って、これって実はかなりまずいんじゃ? 六さんだって口調を変えてバレないようにしてたはずなのに、英雄側に特定されてるってことだよな。
「――た、ただいまっす……」
「「あっ……」」
六さんがあまりにも早く帰ってきた挙句、ずっとうつむいてるので色々と察した。もうここが英雄たちの裏側を暴露した者たちの根城だと、やつらに気付かれてしまってるっぽい……。
「ここまで尾行されたしまったのは、油断したおいどんの責任っす……。かくなるうえは切腹するでごわす……!」
「お、おいっ!」
「六さん、ダメでやんすよ!」
六さんが座り込んだかと思うと、どこからともなく短刀を取り出したので慌ててコージと一緒に止める。
「大丈夫だ、六さん。むしろ、よくやったよ」
「「え……?」」
コージと六さんに意外そうな顔を向けられるが、これは紛れもなく俺の本音だった。
◇◇◇
「姿月ちゃんのやつ、おっせえなあ……」
苛立った表情で部屋の中を右往左往する水谷皇樹。
「あいつ、もう来ないと思う……」
「……へ? 河波、なんでそう言い切れるんだよ? やつは俺たちの中じゃ一番頭の切れる女じゃん。こんなときこそなんとかしてくれる――」
「――だからこそ、よ」
「だからこそ……?」
「そう。これほどまでに追い詰められたからこそ、琉璃も水谷君も梯子を外されたんだよ。あの女狐に……」
「バ、バカ言うなよ……」
「水谷は幹根姿月のこと信頼してたみたいだから言い辛かったけど……琉璃ね、あいつの正体、掴んでたんだ。遺跡管理委員会の会長の娘、宵山千影よ」
河波の告白に対し、水谷の目がこのうえなく見開かれる。
「う……嘘だろ……それ、マジヤベーやつじゃん……」
「この前の事件でわかったんだ。そうでもなきゃ、ここまで揉み消せないよ。いくら英雄でも、無差別殺人の証拠を握られたんだよ……?」
「くっ……そ、そんな大物だったとして、俺たちをどうしようってんだよ……」
「それはわかんないけど、ダンジョンの広告塔として利用してたんじゃないかなぁ。でもあいつが丈瑠と繋がってるのはこの目で見たから明白だし、汚されちゃった水谷君や琉璃は、もう不要な存在なんだと思う……」
「……クッソ! だから白崎のやつ、あんなに強気だったのかよ……!」
「とにかく、まずは水谷君を罠に嵌めた害虫を駆除しないと、何か行動を起こそうとしてもすぐ足を掬われるよ……」
「……確かにそうだけどさ、できんのか? 害虫とはいえ、結構ヤベーやつらだぜ……?」
「大丈夫だよ、水谷君。既に手は打ってあるもん……」
水谷を見つめる河波の目が怪しく光った。
1
お気に入りに追加
135
あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました
akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」
帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。
謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。
しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。
勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!?
転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。
※9月16日
タイトル変更致しました。
前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。
仲間を強くして無双していく話です。
『小説家になろう』様でも公開しています。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】元婚約者であって家族ではありません。もう赤の他人なんですよ?
つくも茄子
ファンタジー
私、ヘスティア・スタンリー公爵令嬢は今日長年の婚約者であったヴィラン・ヤルコポル伯爵子息と婚約解消をいたしました。理由?相手の不貞行為です。婿入りの分際で愛人を連れ込もうとしたのですから当然です。幼馴染で家族同然だった相手に裏切られてショックだというのに相手は斜め上の思考回路。は!?自分が次期公爵?何の冗談です?家から出て行かない?ここは私の家です!貴男はもう赤の他人なんです!
文句があるなら法廷で決着をつけようではありませんか!
結果は当然、公爵家の圧勝。ヤルコポル伯爵家は御家断絶で一家離散。主犯のヴィランは怪しい研究施設でモルモットとしいて短い生涯を終える……はずでした。なのに何故か薬の副作用で強靭化してしまった。化け物のような『力』を手にしたヴィランは王都を襲い私達一家もそのまま儚く……にはならなかった。
目を覚ましたら幼い自分の姿が……。
何故か十二歳に巻き戻っていたのです。
最悪な未来を回避するためにヴィランとの婚約解消を!と拳を握りしめるものの婚約は継続。仕方なくヴィランの再教育を伯爵家に依頼する事に。
そこから新たな事実が出てくるのですが……本当に婚約は解消できるのでしょうか?
他サイトにも公開中。
公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌
招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」
毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。
彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。
そして…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる