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第四十二話 近いうちに必ず尻尾を出すはずだ
しおりを挟む水谷はあれからメディアには一切姿を見せなくなり、それに並行するように白崎と河波の姿も忽然と華やかな舞台から消えていった。新聞でも英雄たちについてあまり語らなくなったどころか、触れることさえも少なくなり、週刊誌でたまに毒を帯びた論調で裏の面が書かれる程度だ。
正直、もっと騒いでくれると期待したんだが、見込みが甘かった。おそらく、遺跡管理委員会というダンジョンを運営する組織が裏で動いてるものと思われる。情報通のコージの話だと、英雄パーティーの中で最も影の薄い幹根姿月というやつがその関係者だと目されているのだ。
遺跡管理委員会には膨大な資金力があり、メディアだけでなく政治にまで影響があるということで、躍起になって火消しに回っている可能性が高そうだ。となると、このままやつらの悪事が世間で忘れ去られてしまい、また何事もなかったかのようにのうのうと表舞台に現れる可能性だってある。
だが、俺は確信している。あいつらはそこまで待てるような辛抱強いタイプじゃないし、近いうちに必ず尻尾を出すはずだと……。
「――お昼ご飯ですよー」
英雄事変から二週間ほど経ったある日、俺たちのいる駄菓子屋二階に理沙がいつものようにご飯を運んできてくれた。
「あ、ありがとう、理沙」
「ありがとうでやんす、理沙ちゃん」
「ありがとうっす、理沙っち」
「いえいえ、ごゆっくりどうぞぉー」
「……」
やっぱり俺だけハート形のおかずだらけで目がくらみそうになる。
「さすが真壁兄貴でやんす」
「真壁どんは最高でごわす」
「お、おいおいっ! コージ、六さん、俺を誉めつつおかずを盗るなっ!」
「ふふっ……」
それに対して優しく微笑む理沙。今日もいつもの一日だ――
「――うっ……」
そう思った直後だった。理沙がうつ伏せに倒れてしまったのだ。
「り、理沙?」
「理沙ちゃん!?」
「理沙っち……?」
「ど、どうしたのよ!」
「何があったんだい……!?」
窓から流華、扉から鬼婆も飛び出してきて騒然となる。具合が悪そうには見えなかったが、一体……。
「ま、真壁君、とうとうヤッちまったのかい……? 妊娠させちまったんだね!?」
「そ、そうなの!?」
「そうなんでやんすか!?」
「そうでごわすか!?」
「い、いや、断じて違うっ! とにかく早く病院にっ!」
一応、防魔術の《治癒》と《安息》をかけたがびくともしない。何事もなければいいんだが……。
◇◇◇
タワーマンションの上方にある部屋にて、水谷ら英雄たちが一堂に会していたが、一面に広がる壮大な景色とは対照的に、その表情は一様に冴えないものであった。
「畜生がよぉ……今こそ団結するときだろっ! 俺たちをこんな目に遭わせたやつらを捕まえてやるんだよ!」
「そうよ、とことん懲らしめてやらないと……!」
「……」
興奮した様子の水谷皇樹と河波琉璃だったが、白崎丈瑠だけは浮かない顔で首を横に振るのみであった。
「俺はそれどころじゃない。お前らで勝手にやればいい」
「お……おい、一体どうしちまったってんだよ、白崎!」
水谷が白崎の胸ぐらを掴む。
「お前、ずっと500階層のボスをキチガイみてえに倒し続けてるけどよ、そこに一体何があるっていうんだよ!?」
「水谷……お前にそれを話す必要はない……!」
水谷の手を払いのける白崎は鬼の形相だった。
「俺たちは1000階層以降を攻略できずにずっと恥をかいてきたわけだが、水谷皇樹……お前がとどめを刺した」
「そ、それを言うならよ、そっちの夫婦仲も――」
「――黙れ。俺とやり合うつもりなのか……?」
「くっ……」
「も、もうやめてよおぉっ……!」
「……水谷、河波……俺は俺でやるべきことがある。犯人探しはお前たちで勝手にやれ……」
白崎が立ち去っても、しばらくその場には沈黙しか許さないほど重苦しい空気が鎮座していた……。
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