37 / 52
第三十七話 思考が停止しそうだ
しおりを挟む「わあぁ、高いですー♪」
「あ、あたいは高いところが苦手だってばよぉー!」
「……」
そこにいたのはあの大男の般木道真であり、岩のような両肩には理沙と鬼婆が乗っていて両極端な様子を披露していた。般木は会心の笑みを浮かべてるし、どうやら知り合いっぽい……って、当初の予想通り生きてたんだな。
「よー、真壁庸人じゃねーか。お前もいたのかー」
「般木道真……よく生きてたな……」
「んー? 当然よっ」
さすがに彼の規格外の図体だと駄菓子屋の中に入れないので、このまま外で事情を聴くことになった。なんとも目立つため、通りすがりの人間から好奇の視線を浴びる羽目になったが。
「――ってわけだあ」
時折欠伸を挟みながら船木が今までの経緯を説明してくれたんだが、やはりスケールが違っていた。
般木は英雄の一人である水谷と戦うべく、自宅前で散々挑発を重ねたあとダンジョンに向かったそうだが、五十階付近をうろついていたところで見えない状態の水谷に何度も斬りつけられ、全然痛くも痒くもなくて戦う意欲が一気になくなるほど失望したんだとか。
それで寝不足気味なこともあり、しばらくダンジョンで寝てしまっていたとのこと。気付くとモンスターに囲まれ、血まみれになって意識が朦朧としていたものの、そいつらを朝食代わりに食べて地上へ帰還し、趣味のパチンコに興じていたらしい。
「色んな意味で壮絶だな……」
「でもよー、眠くなるのもわかるだろ? 内臓がはみ出て骨が幾つか折れるくらいの激しいバトルを期待してたってのによー。水谷ってやつは棒きれみたいな剣で痛くもねえのに何度も斬ってくるし、しかも透明のまんまだしで、一気に眠気が来ちまったってわけよ……」
「やつはそれで師匠の仇を討ったって勘違いしたみたいだぞ?」
「まー、ある意味やつに倒されたみてえなもんだな。弱すぎて眠気が来ちまったし! ふわあ……」
「……」
まだ眠いのか、般木はしきりに欠伸を繰り返し、目を擦っていた。
「しかし、大量のモンスターに囲まれて寝るってだけでも凄いのに、よくそれで死なないもんだな……」
「あぁ、このS級アイテムの鬼の腕輪があるから治りも超早いぜ。ただまあ、これがなくても唾つけて包帯巻いときゃなんでもねえがなっ」
真っ白な歯を出して陽気に笑う般木。なるほど、元々化け物染みた強さなのが、鬼の腕輪によってさらに桁外れになってるってわけだ。まさに異次元の怪物ってところだな……。
「それで、何をしにここへ?」
「俺はよー、この駄菓子の常連客なのよ。そんで家に帰る途中に立ち寄ったってわけ。おーい、婆さん、イチゴの飴玉1000粒、ラムネも1000本貰うぜー!」
「あいよー」
「え……」
般木のやつ、パーソナルカードのアイテム欄に収納するかと思いきや、そのまま大量の飴玉を口に入れてバリバリと噛み砕いてしまった。ラムネなんて瓶ごとだ。
「うちは現金のみだかんね!」
「わかってらー。釣りはいらねえぜ!」
般木が分厚い札束を婆さんに渡してて仰天する。行動がいちいち派手すぎて思考が停止しそうだ。
「ふー、おかげさんですっきりしたぜ。ラーメン100杯食ったあとだから油ギッシュでよー」
「……」
この男なら器ごとラーメンを食っててもなんらおかしくないな……。
「さーて、軽く一カ月くらい寝てくるぜー! あばよっ!」
船木が理沙と鬼婆を下ろして手を振りながら帰っていくが、そのたびに強い風が吹く怪力っぷり。
「――ま、真壁兄貴、やつは一際怪しいっす……」
「ああ……」
コージもわかるんだろう。般木道真がせがれの仇かもしれないってことを。
あの大雑把な性格なら普通にありえそうだからな。まあ誰であれ、殺された息子はグレーカードのBランクなわけで、それを殺せるようなやつと戦ったらコージも死ぬことになるかもしれないわけだし、般木が仇であるかどうかは抜きにして一層鍛えてやらないとな。
「ふう。あたい、久々に死ぬかと思ったよ……」
「般木さん、本当に力持ちですねえ」
「おいどんが聞いた話によると、般木道真はあれで一度も筋トレどころか、本気を出したことすらないみたいっす……」
「そりゃもう、化け物としか言いようがないでやんすね……」
「……」
俺は全身の血が滾るように熱くなっていた。般木道真……やつといつかお互いに本気でやり合ってみたいもんだな……。
1
お気に入りに追加
135
あなたにおすすめの小説

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~
大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」
唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。
そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。
「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」
「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」
一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。
これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。
※小説家になろう様でも連載しております。
2021/02/12日、完結しました。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました
akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」
帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。
謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。
しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。
勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!?
転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。
※9月16日
タイトル変更致しました。
前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。
仲間を強くして無双していく話です。
『小説家になろう』様でも公開しています。

【完結】元婚約者であって家族ではありません。もう赤の他人なんですよ?
つくも茄子
ファンタジー
私、ヘスティア・スタンリー公爵令嬢は今日長年の婚約者であったヴィラン・ヤルコポル伯爵子息と婚約解消をいたしました。理由?相手の不貞行為です。婿入りの分際で愛人を連れ込もうとしたのですから当然です。幼馴染で家族同然だった相手に裏切られてショックだというのに相手は斜め上の思考回路。は!?自分が次期公爵?何の冗談です?家から出て行かない?ここは私の家です!貴男はもう赤の他人なんです!
文句があるなら法廷で決着をつけようではありませんか!
結果は当然、公爵家の圧勝。ヤルコポル伯爵家は御家断絶で一家離散。主犯のヴィランは怪しい研究施設でモルモットとしいて短い生涯を終える……はずでした。なのに何故か薬の副作用で強靭化してしまった。化け物のような『力』を手にしたヴィランは王都を襲い私達一家もそのまま儚く……にはならなかった。
目を覚ましたら幼い自分の姿が……。
何故か十二歳に巻き戻っていたのです。
最悪な未来を回避するためにヴィランとの婚約解消を!と拳を握りしめるものの婚約は継続。仕方なくヴィランの再教育を伯爵家に依頼する事に。
そこから新たな事実が出てくるのですが……本当に婚約は解消できるのでしょうか?
他サイトにも公開中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる