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第三十六話 妙なことを口走ってたな
しおりを挟むあのあと、俺は暴徒化した生徒たちに襲われるかと期待したが、普通に蜘蛛の子を散らすかのように逃げられてしまったのでそのまま帰ることになった。
まあ、最強の攻魔術である《刹那》の習得でブラックカードのFランクになった上、それを見せつけてやったから仕方ないかもしれないが。例の生意気な受付嬢や警備員どもも俺のカードを見て失禁しながら許しを請うたくらいだからな。
「――いやー、そりゃもう、真壁兄貴の活躍、物凄かったでやんすよ……」
「真壁どんこそ、本物の英雄でごわす……」
駄菓子屋二階は、いつもの住人たちでごった返していた。
「どんどん最強になるわね、大泥棒の真壁庸人君?」
廻神流華のやつに冷やかされる。
「奪えるのも才能なんだからこれでいいんだよ」
「うふふ……男の子って、とことん強くなりたいものですから、真壁さんが飽きるまで見守っていきましょうっ」
「……」
館花理沙の生温い視線も中々きついものがある。なんか小さい子扱いされてるが、俺の中身はおじさんだからな。
「でも……もし奪うことに少しでも虚しさを感じたなら、いつでも手袋を渡してくださいねっ。すぐ処分しますから」
「俺の勝手だ」
「はぁーい♪ ふふっ……」
「……」
なんともやり辛い。
「あ、真壁庸人君、顔赤いわよ」
「はあ? 廻神流華、だからなんだよ」
「へー、真壁庸人君ってこういう、いかにも純粋って感じの子が好みなんだ? 騙されるタイプね。理沙の本性はヤバいやつかもしれないのに……って、い、今のは聞かなかったことにしてっ!」
「ん……?」
なんだ、流華のやつ、今妙なことを口走ってたな。
「流華さん、酷いですー……」
「まったくだよ。何言ってんだい! 理沙ちゃんほどいい子なんてこの世にいないくらいなのにさっ!」
「ご、ごめんなさい、理沙、おばあさん。あたし、大好きな真壁庸人君に露骨に冷たくされてるから、嫉妬しちゃって……あぐっ……」
「お、おい……」
流華のやつ、完全に俺に責任転嫁しようとしてやがるな。
「ま、真壁君……あんたって人は、未だに純粋な乙女心を両天秤にかけてるのかい!? いい加減、どっちかに決めなっ!」
「……」
あのなあ、なんで俺が鬼婆に睨まれなきゃいけないんだよ……。
「ところで、真壁兄貴、大丈夫でやんすかねえ……」
「何がだ、コージ?」
「だってほら、英雄の師匠に手を出してしまいやしたから、大騒動になりゃしねえかって……」
「それはおいどんも気にしちょるところっす」
「まあ、もう河波琉璃のやつには連絡が入ってるだろうな。でも心配ない。仮名のウォールだし、あの英雄の師匠が新人とタイマンで負けたなんて一般に知られたら恥でしかないし、一番弟子としての腕も疑われることになるわけだからな」
「「なるほど……」」
コージと六さんが真顔でうなずく傍ら、いつの間にか理沙と婆さんはいなくなってて、流華が漫画を読みつつチラチラとこちらを見ているのがわかった。気になってしょうがないってところか。
さて、《浮雲》《枯葉》《刹那》と、最強の体術、剣術、攻魔術が揃ったし、そろそろ本格的に始動しないとな。英雄の面に本格的に泥を塗りたくる作戦を……。
その先駆けとして、まずは浅い階層でインヴィジブルマントを使って無差別殺人でストレス解消してるクズの水谷皇樹をなんとかするか。
ただ、般木道真とやり合ったことで怪我をしてる可能性もあるんだよな。やつは仇討ちによって死んだように報道されてたが、それでも滅法強いんだし、いくら水谷でも無事じゃ済むまい。もしそれが原因で休んでるならダンジョンへ行っても無駄骨になりそうだし、どうしようか……。
「――はっ……?」
こ、これは……この感覚は……。間違いない、あいつだ。あいつがここに来る。
「客人だ」
「「「へ……?」」」
コージ、六さん、流華が怪訝そうな顔をしたが、俺にはわかった。急いで部屋を出て階段を駆け下りると、俺の想像通りの人物がそこにはいた。やっぱり……あいつだった。
っていうか、この光景……一体どうなってるんだ……? 俺はそっちのほうが信じられなくて、しばらく呆然としてしまっていた……。
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