34 / 52
第三十四話 どうやら処世術には長けていたらしい
しおりを挟む「あら、ビビッておいでですか? また会えたらいいですねえ?」
不敵な笑みと意味深な台詞を残し、受付嬢が立ち去っていく。扉が閉まり、鍵がかかる音もしっかり聞こえてきた。
「閉じ込められやしたね」
「もう逃げられないっす」
「ああ……コージ、六さん、覚悟を決めるとしようか……」
俺は両手を合わせ、関節の音をパキパキと鳴らす。この人数相手でも負ける気は全然しない――
「「「――なっ……?」」」
俺たちの素っ頓狂な声が被る。生徒たちがこっちのほうを見ながら一斉に立ち上がったかと思うと、拍手をし始めたのだ。一体なんのつもりだ、これは……。
「そこの勇気ある見学人たちに告ぐ! 是非壇上へ立ちたまえ!」
「あ……」
お、あれが最高の攻魔術を持つとされる講師か? スーツを着てマイクを握ったおじさんが二人いるからどっちなのかわからないが、雰囲気的には左側に立つ白髪頭のダンディーなおじさんがそれっぽい。その隣にいるやつは頭頂部が禿げてて邪悪そうな顔で小物感を隠せてない……って、こいつ、まさか……。
「真壁……いや、ウォール兄貴、どうしたでやんすか?」
「ウォールどん?」
「あ、いや、気にしないでくれ」
間違いない。遠目からでもわかる。かつて俺に攻魔術の才能がないと言い切った糞野郎だ。姿を見なくなったと思ったら、河波琉璃の師匠の下で副講師でもやってたってわけか。当時の俺に嫉妬するくらい攻魔術の腕は大したことがなかったが、どうやら処世術には長けていたらしい。
「どうしたのかね? 早く来たまえ!」
「怖気づいたのかー? んー?」
「……」
やはり台詞もいちいち小物っぽいし、性格の悪さも相変わらずのようで楽しみが増えたな……。
「行くぞ、コージ、六さん」
「へい」
「うっす」
当初より弱まってはきたが威圧感バリバリの視線と拍手の中、俺たちはホール中央を割るようにして華やかなステージを目指し歩いていく。
「――やあ、よく来たねえ。こんなムードの中で見学したいそうではないか。中々見上げたものだ!」
「まあ、恐れを知らぬたわけ者といったところでしょうなっ」
まるでコバンザメのように河波の師匠にくっついてるな、こいつ。余裕があるようで内心じゃ俺たちのことを怖がってるのはバレバレだ。
「これはどうも。見学したいと言ったのに、最初に断られたんでどうしようかと……」
「今は忙しくてな。見たまえ、この膨大な数の生徒たちを前にして、攻魔術の素晴らしさを説いていたのだ」
「うむっ。先生の粋な計らいがあったからこそ、こうして見学できるのだから、少しはありがたく思わんか、バカタレッ」
「まあまあ、佐藤君、生徒たちも見ているのだから」
あ、そういや思い出した。サトーっていう名前だったな。その割りに厳しいことばかり言うもんだから、塩ってあだ名がついてたんだ。
「あのー……どうせ素晴らしい攻魔術を語るのであれば、蘊蓄よりも実際に力で見せるべきでは……?」
「こ、こやつ! 先生が貴様なんぞに――」
「――よいよい、佐藤君。見れば血気盛んな若者。立派な図体とギラギラした目を見ればよくわかる。ただし、来る場所をちと間違えたようだが……」
「まったくですっ! 攻魔術の才能など、欠片もなさそうなくせして、こやつはよくもぬけぬけと……!」
講師の台詞で、既に場内は笑いの坩堝だ。よし、この不愉快な空気を変えてやるとしよう。
「そんなこと言っちゃって、怖いんですか? 肉体だけのやつに負けるのが」
俺の発言で、ホール全体が俄かに色めきたつのがわかる。
「きっ、貴様あっ! 先生をどなたと心得るっ! あの偉大なる英雄、河波琉璃を育てた――」
「――まあまあ、よいよい、佐藤君。筋肉バカでは一生攻魔術には勝てないということを思い知らせてやるといたしましょうぞ」
「お、タイマンしてくれるのか。俺が勝ったら弟子にしてくれるのか?」
「弟子どころか、お前がこの私に指一本でも触れることができれば、免許皆伝にしてやるとも」
「免許皆伝? おー、すげえな!」
俺が素直に喜んでみせると、やつらは顔を見合わせてにんまりと笑った。場内からも次々と失笑が上がってる。どうせ筋肉脳みそのバカ野郎だと思われてるんだろうが、お前らが楽しめるのは今のうちだけだ……。
1
お気に入りに追加
135
あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました
akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」
帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。
謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。
しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。
勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!?
転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。
※9月16日
タイトル変更致しました。
前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。
仲間を強くして無双していく話です。
『小説家になろう』様でも公開しています。

【完結】元婚約者であって家族ではありません。もう赤の他人なんですよ?
つくも茄子
ファンタジー
私、ヘスティア・スタンリー公爵令嬢は今日長年の婚約者であったヴィラン・ヤルコポル伯爵子息と婚約解消をいたしました。理由?相手の不貞行為です。婿入りの分際で愛人を連れ込もうとしたのですから当然です。幼馴染で家族同然だった相手に裏切られてショックだというのに相手は斜め上の思考回路。は!?自分が次期公爵?何の冗談です?家から出て行かない?ここは私の家です!貴男はもう赤の他人なんです!
文句があるなら法廷で決着をつけようではありませんか!
結果は当然、公爵家の圧勝。ヤルコポル伯爵家は御家断絶で一家離散。主犯のヴィランは怪しい研究施設でモルモットとしいて短い生涯を終える……はずでした。なのに何故か薬の副作用で強靭化してしまった。化け物のような『力』を手にしたヴィランは王都を襲い私達一家もそのまま儚く……にはならなかった。
目を覚ましたら幼い自分の姿が……。
何故か十二歳に巻き戻っていたのです。
最悪な未来を回避するためにヴィランとの婚約解消を!と拳を握りしめるものの婚約は継続。仕方なくヴィランの再教育を伯爵家に依頼する事に。
そこから新たな事実が出てくるのですが……本当に婚約は解消できるのでしょうか?
他サイトにも公開中。

【完結】蓬莱の鏡〜若返ったおっさんが異世界転移して狐人に救われてから色々とありまして〜
月城 亜希人
ファンタジー
二〇二一年初夏六月末早朝。
蝉の声で目覚めたカガミ・ユーゴは加齢で衰えた体の痛みに苦しみながら瞼を上げる。待っていたのは虚構のような現実。
呼吸をする度にコポコポとまるで水中にいるかのような泡が生じ、天井へと向かっていく。
泡を追って視線を上げた先には水面らしきものがあった。
ユーゴは逡巡しながらも水面に手を伸ばすのだが――。
おっさん若返り異世界ファンタジーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる