32 / 52
第三十二話 世紀の大泥棒の力を見せつけてやろう
しおりを挟む
汚れた英雄たちに見え隠れする亀裂の深さは、おそらく想像以上だろう。
とはいえ、まだ満足できるはずもない。早くやつらに思い知らせてやりたいという気持ちとともに俺は朝を迎えた。
「……」
右手にはしっかりとあの手袋が装着されていたので安心する。周りになんと言われようと、俺はこれで奪い続け、水谷皇樹、白崎丈瑠、河波琉璃……やつらに俺が受けた苦しみを味わってもらわねば……。
「あ、真壁兄貴、おはようでやんす!」
「お、コージ、もう起きてたのか」
「師匠より先に起きてなかったらもう弟子とは呼べねえかと……」
「そうかそうか」
コージは本当に意識が高い。実際にグレーカードのCランクなだけある。
「ほら、六さんもいい加減起きるでやんすよ!」
「う……おいどん……もう無理でごわす……」
「……」
六さん、またサングラスつけたまま仰向けで寝てるな。これじゃ寝起きが悪いのも仕方ない。
「まあ、寝かせといてやろう」
「へ、へい――」
「――おはようですっ」
「「あ……」」
ガラガラとドアが開き、鑑定士の館花理沙が入ってきた。お盆に載った朝食の数々、美味しそうだな。ご飯に納豆、味噌汁、たくあん、緑茶……。
「……」
俺だけたくあんがハート型なのが超恥ずかしいわけだが……。
「ズズッ……いただくでやんす」
「お、おいっ」
「ズズッ。おいどんもっす」
「って、六さんまでっ!」
六さんも普通に味噌汁を啜りつつたくあんを奪ってくるし、一体いつの間に起きてたんだと……。
「うふふ……ごゆっくりどうぞ♪」
理沙が出ていったと思ったら箒で掃く音がして、窓から見下ろしてみるとやっぱり鬼婆がいたわけだが、近くの電信柱の陰から流華が監視してるのを隠す様子もなくこちらを見上げているという、なんとも相変わらずな光景が広がっていた。
「――それで、今日は何をするでやんすか、真壁兄貴?」
「んー……そうだなあ……」
正直、今のままでも英雄たちと真っ向からやり合える自信はあるんだ。何故なら、究極の体術である《浮雲》に加え、最強剣術の《枯葉》、さらには最高の筋力、顔面……何より相手の一番のお宝を盗めるS級アイテムの手袋ときたら、これ以上手にするものなんてないようにも見えるが、俺はそこで一切手を抜くつもりはない。
「最高の攻魔術を持ってるって噂の講師がいてな、そいつがいるリトルアカデミーへ行く。あの英雄の一人、河波琉璃の師匠だ」
「え……ええっ!? マジでやんすか、兄貴……?」
「ん? コージ、何か都合が悪いのか?」
「だって、ほら……例の道場破りの件が続きやしたでしょう。いずれも英雄たちの師匠がやってる道場が潰されたっていう……」
「あ、ああ、まさかそれに影響を受けてリトルアカデミー辞めてしまったとか……?」
「いや、今もやってるそうでやんすが……かなり警戒されてて、弟子も募集してねえみたいでして……」
「なるほど……」
まあそうなるか。しかし、まだやってるなら望みはある。
「それでも空いてるんだし、見学くらいはできるんじゃ?」
「無理かと……。弟子を含めて、むしろ道場破りを待ち構えてて、みんなで英雄の師の仇を討とうみたいなえげつねえ空気になってるって聞きやした……」
「そりゃ面白い。とりあえず行ってみるか」
「え、ええ……いくら兄貴でもやべえんじゃないかと……」
「コージ……心配する気持ちはわからんでもないが、そんなに弱気じゃ俺の弟子なんて務まらんし、せがれの仇だって取れんぞ……」
「そ……そうっすよね」
「コージどん、おいどんも真壁どんならやれると思うっす」
「あぁ、やれるさ。世紀の大泥棒の力を見せつけてやろう」
「わ、わかりやした……」
「合点」
こうして、俺はコージと六さんを引き連れてリトルアカデミーへと出発したのだった……。
とはいえ、まだ満足できるはずもない。早くやつらに思い知らせてやりたいという気持ちとともに俺は朝を迎えた。
「……」
右手にはしっかりとあの手袋が装着されていたので安心する。周りになんと言われようと、俺はこれで奪い続け、水谷皇樹、白崎丈瑠、河波琉璃……やつらに俺が受けた苦しみを味わってもらわねば……。
「あ、真壁兄貴、おはようでやんす!」
「お、コージ、もう起きてたのか」
「師匠より先に起きてなかったらもう弟子とは呼べねえかと……」
「そうかそうか」
コージは本当に意識が高い。実際にグレーカードのCランクなだけある。
「ほら、六さんもいい加減起きるでやんすよ!」
「う……おいどん……もう無理でごわす……」
「……」
六さん、またサングラスつけたまま仰向けで寝てるな。これじゃ寝起きが悪いのも仕方ない。
「まあ、寝かせといてやろう」
「へ、へい――」
「――おはようですっ」
「「あ……」」
ガラガラとドアが開き、鑑定士の館花理沙が入ってきた。お盆に載った朝食の数々、美味しそうだな。ご飯に納豆、味噌汁、たくあん、緑茶……。
「……」
俺だけたくあんがハート型なのが超恥ずかしいわけだが……。
「ズズッ……いただくでやんす」
「お、おいっ」
「ズズッ。おいどんもっす」
「って、六さんまでっ!」
六さんも普通に味噌汁を啜りつつたくあんを奪ってくるし、一体いつの間に起きてたんだと……。
「うふふ……ごゆっくりどうぞ♪」
理沙が出ていったと思ったら箒で掃く音がして、窓から見下ろしてみるとやっぱり鬼婆がいたわけだが、近くの電信柱の陰から流華が監視してるのを隠す様子もなくこちらを見上げているという、なんとも相変わらずな光景が広がっていた。
「――それで、今日は何をするでやんすか、真壁兄貴?」
「んー……そうだなあ……」
正直、今のままでも英雄たちと真っ向からやり合える自信はあるんだ。何故なら、究極の体術である《浮雲》に加え、最強剣術の《枯葉》、さらには最高の筋力、顔面……何より相手の一番のお宝を盗めるS級アイテムの手袋ときたら、これ以上手にするものなんてないようにも見えるが、俺はそこで一切手を抜くつもりはない。
「最高の攻魔術を持ってるって噂の講師がいてな、そいつがいるリトルアカデミーへ行く。あの英雄の一人、河波琉璃の師匠だ」
「え……ええっ!? マジでやんすか、兄貴……?」
「ん? コージ、何か都合が悪いのか?」
「だって、ほら……例の道場破りの件が続きやしたでしょう。いずれも英雄たちの師匠がやってる道場が潰されたっていう……」
「あ、ああ、まさかそれに影響を受けてリトルアカデミー辞めてしまったとか……?」
「いや、今もやってるそうでやんすが……かなり警戒されてて、弟子も募集してねえみたいでして……」
「なるほど……」
まあそうなるか。しかし、まだやってるなら望みはある。
「それでも空いてるんだし、見学くらいはできるんじゃ?」
「無理かと……。弟子を含めて、むしろ道場破りを待ち構えてて、みんなで英雄の師の仇を討とうみたいなえげつねえ空気になってるって聞きやした……」
「そりゃ面白い。とりあえず行ってみるか」
「え、ええ……いくら兄貴でもやべえんじゃないかと……」
「コージ……心配する気持ちはわからんでもないが、そんなに弱気じゃ俺の弟子なんて務まらんし、せがれの仇だって取れんぞ……」
「そ……そうっすよね」
「コージどん、おいどんも真壁どんならやれると思うっす」
「あぁ、やれるさ。世紀の大泥棒の力を見せつけてやろう」
「わ、わかりやした……」
「合点」
こうして、俺はコージと六さんを引き連れてリトルアカデミーへと出発したのだった……。
1
お気に入りに追加
135
あなたにおすすめの小説

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~
大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」
唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。
そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。
「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」
「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」
一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。
これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。
※小説家になろう様でも連載しております。
2021/02/12日、完結しました。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました
akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」
帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。
謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。
しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。
勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!?
転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。
※9月16日
タイトル変更致しました。
前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。
仲間を強くして無双していく話です。
『小説家になろう』様でも公開しています。

【完結】元婚約者であって家族ではありません。もう赤の他人なんですよ?
つくも茄子
ファンタジー
私、ヘスティア・スタンリー公爵令嬢は今日長年の婚約者であったヴィラン・ヤルコポル伯爵子息と婚約解消をいたしました。理由?相手の不貞行為です。婿入りの分際で愛人を連れ込もうとしたのですから当然です。幼馴染で家族同然だった相手に裏切られてショックだというのに相手は斜め上の思考回路。は!?自分が次期公爵?何の冗談です?家から出て行かない?ここは私の家です!貴男はもう赤の他人なんです!
文句があるなら法廷で決着をつけようではありませんか!
結果は当然、公爵家の圧勝。ヤルコポル伯爵家は御家断絶で一家離散。主犯のヴィランは怪しい研究施設でモルモットとしいて短い生涯を終える……はずでした。なのに何故か薬の副作用で強靭化してしまった。化け物のような『力』を手にしたヴィランは王都を襲い私達一家もそのまま儚く……にはならなかった。
目を覚ましたら幼い自分の姿が……。
何故か十二歳に巻き戻っていたのです。
最悪な未来を回避するためにヴィランとの婚約解消を!と拳を握りしめるものの婚約は継続。仕方なくヴィランの再教育を伯爵家に依頼する事に。
そこから新たな事実が出てくるのですが……本当に婚約は解消できるのでしょうか?
他サイトにも公開中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる