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第三十一話 なんだかこういうのも悪くない気がしてきた
しおりを挟む「……そ、それは本当なのか?」
朝食後、コージから真顔で伝えられた情報は、俺のそれまでの考えをより強固にするものだった。
「間違いありやせん……。透明になれるS級アイテムのインヴィジブルマントを水谷皇樹が所持してるっていうのは、レアアイテムのコレクターの間じゃ有名な話でして……」
「そうか……。じゃあ、氷の神殿で探求者を無差別に殺してたのはやっぱり水谷だったんだな。やつが例のインヴィジブルデビルってわけか……」
「確証はありやせんが、おそらく真壁兄貴の読み通りかと……。なんせ英雄たちの行動はバラバラなんで……」
「……バラバラ? どういうことだ?」
「へえ。なんでも、1000階層以降がそりゃもうヤバいくらいの高難度でなかなか攻略できねえってことで、最近じゃ関係がギスギスして単独行動をしてるって聞きやした……」
「なるほどな……」
それでストレス解消にインヴィジブルマントとやらで、しかも浅い階層で無差別殺人をやってたってわけか。当時から腐った野郎だとは思っていたが、さらに落ちたもんだな、水谷皇樹……。
「コージ、ほかの英雄……白崎丈瑠や河波琉璃の情報もわかるのか?」
コージは俺の問いに対し、即座にうなずいた。さすが情報屋だ。
「もちろん知っておりやす。二人は結婚式を挙げたそうなんでありやすが、結婚式やパレード以降、一緒にいる姿はほとんど目撃されておりやせん……」
「……仮面夫婦みたいになってるのか」
「へい。おそらく……。あっしの元に流れてきたのは、激しく言い争いをしているところを見たという情報くらいでありやす。今わかっていることは、以上でやんす……」
「ああ。ありがとう、コージ」
「へい。兄貴に鍛えてもらうため、頑張りやした……」
「……ああ、もちろん鍛えてやるよ。超ハードにな」
「……で、できれば最初はソフトにお願いしやす……」
「あははっ……」
それにしても、コージには面白い話を聞かせてもらった。
俺が去ってから何もかも上手くいっていると思っていた水谷ら英雄たちだったが、実際は全然そうではなかったのだ……。
やつらの恋路を邪魔する架空のストーカーである俺がいなくなり、上手く回らなくなってしまったんだろうな……。水谷の現状にしても、散々おもちゃにしていた俺がいなくなってストレスが溜まっていったのが大きいように見える。
この手袋で奪う必要もなく、水谷たちは勝手に落ちていきそうな気配だ。とはいえ、やつらをもっと酷い目に遭わせてやりたいという気持ちも当然ある。
「いずれ俺たちの手で、汚れた英雄どもの真の姿を世間の目に晒してやろう。コージ、六さん」
「へい!」
「うっす!」
「――あ、あのっ……!」
「「「あ……」」」
急にドアが開いて、理沙が慌てた様子で入ってきた。
「ど、どうしやした? 理沙ちゃん」
「どうしたっす? 理沙っち」
「どうした? 理沙」
「お客さんが……。真壁さんに……」
「……お、俺?」
「はい……」
一体、誰だろう……。
階段を下りると、店頭でツインテールの少女がこっちに背を向けた状態で立っていた。
誰……かと一瞬思ったが、こっちに振り返ってきて強い笑みを向けられたことで、すぐにあいつだと判明した。
「流華、お前なんで……」
「今度はちゃんとわかってくれたみたいね。随分呑気にしてるじゃない。あんなに手袋で奪ってやるとか燃えてた割に……」
「……こ、これは流れで……」
「ふーん。その割に、満更でもなさそうな雰囲気だったけど……?」
こいつ、ずっとこの辺で俺を監視してそうだな……。
「……まーかーべ君……。その子はなんだい……?」
「……はっ……」
俺のすぐ後ろで、額に青筋を立てたおばあさんが仁王立ちしていた。既に箒を振り被ってるし、めっちゃ怖いんだが……。
「……お友達かい……?」
「ううん、おばあちゃん。真壁庸人君はね、私の彼氏っ」
「お、おい……!」
「な、なんだって……? 真壁君……本当かい……?」
「ち、違う! 断じて違う!」
「真壁庸人君、酷い……ひっく……」
「お、おまっ……」
「こんなに良い子を泣かすなんて……。理沙もとんだ男に惚れちまったもんだ。あたい、怒ったよ……!」
「う、うわああぁぁ!」
気付けば俺は自分に《加速》を掛けて駄菓子屋を飛び出していた。鬼婆と言われるだけあってめっちゃ迫力ある……。
「待ちなあああぁぁ! こんの恋泥棒! お仕置きの時間じゃあああ!」
「ちょっと! あたしの真壁庸人! 待ちなさいよおおおぉぉぉ!」
「真壁さん! 待ってください!」
「真壁兄貴ー! あっしを鍛えてくれる約束でやんすよおおおっ!」
「真壁どんのスキャンダル記事書くっす……! 英雄は後回しっす……!」
「……ちょ……? だあぁああ!」」
振り返って俺は目を疑った。なんで俺、みんなに追いかけられてんだ……? 手袋であいつらから何か盗んだわけでもないのに、これじゃまるで俺がみんなから大事なお宝を奪った泥棒みたいじゃないか。
……でも、なんだかこういうのも悪くない気がしてきた……。
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