上 下
25 / 52

第二十五話 なんで生きてるんだ

しおりを挟む

「……こいつは酷いな」

「……だね」

 見るも無残だった。

 86階層のスタート地点から真っすぐしばらく歩いたところにある十字路付近、例のパーティーがただの肉片になって寄り添っていたのだ……。

 転がっている首にはどれも見覚えがあった。バラバラになった手足は最早混然となっていて誰のものかもわからない状態だったが……。

 なんとも気持ち悪いが、それだけだ。なんの感情も湧かない。ムゲンも同じ気持ちなのか無表情だった。

《陽光》を展開させながら周辺の様子を窺うも、俺たち以外に誰もいる気配がない。血の匂いにつられたのか、フローズンゾンビが5匹ほど這ってきたがムゲンがすぐに一蹴してしまった。彼女はこんな光景を前にしてもまったく恐れてないように見える。相変わらず大人びている少女だ。

 インヴィジブルデビル、か……。

 この言葉を口にしたとき、ムゲンが露骨に顔色を変えていたのを思い出す。姿が見えないだけじゃないぞ。かなりの手練れだこれは……。

 普通は壁に赤い手形が残っているとか、死体があっちこっちに散らばってるとか、逃げようとした痕跡が多少あるものだがそれらがまったく見られない。

 ……おそらく、パーティーは襲撃されて悲鳴をあげるも、逃げる暇もなくバラバラにされたのだ。それを遠くから目撃したであろうあの遅刻した男でさえ追跡による致命傷を受けている。やった相手が本当にそのインヴィジブルデビルなのか確証はないが、相当に手強い相手なのは間違いなさそうだ。偶然、通りかかったパーティーを惨殺したんだろうか。

 誰であろうと絶対に逃さないという執念を感じる。姿を見られたわけでもないだろうに……。だとすると相当立場的に上のやつで、殺し方にも特徴があるやつなのかもしれない。見るやつが見ればわかるような殺し方だったのだろう。

 確かに、遺体ですら俺が見れば犯人が剣の達人なのはわかるが……。殺すところまでは見てないからそれくらいしかわからないな。

「なあムゲン、インヴィジブルデビルってやつも剣を使ってたのか?」

「……うん。達人」

「じゃあ、やっぱりそいつの仕業じゃないのか?」

「……」

 ムゲンはまた押し黙ってしまった。今のところほぼ間違いなさそうだが、それでも確信できないらしい。やつが現れればはっきりするわけだが、出てくるのは壁から滲み出るように発生してきたスノーマンくらいだ。産声を上げた瞬間、《枯葉》でバラバラにしてやったが。

「どうやらもういないっぽい――」

 効果が切れた《陽光》を掛け直そうとしたとき、何かが迫ってくる感覚がして反射的に《浮雲》を使った。なんだ、今のは……。俺は確かに何かを投げ飛ばした感覚があった。

「……え……」

 足元に何かが転がってきたのがわかって、見るとだった。

「む、ムゲン……?」

 当然だがもう息絶えていた。

 おいおい……いくらなんでもあっけなさすぎる。まさか、こいつが手袋を奪おうとしてきて、それで俺が無意識に殺した……? いや、投げ飛ばした感覚ならあるが俺は斬ってない。

 というか、パーティーメンバーだからな。仲間を庇うため、または諌めるために体当たりや殴打はできるが、その場合もダメージはかなり軽減されるし、死に至るような強い攻撃はできない仕様なんだ。昔、味方同士で殺し合いが頻繁に起きるようになってからこういう仕組みになったらしい。

「――っ!?」

 来る。また何かが迫ってくるのがわかる。まさか、これが例のインヴィジブルデビルなのか……。

「おおーい!」

 ん、この声は……。

 張り詰めた空気とはあまりにもかけ離れた妙に明るい声だった。この声の持ち主は、まさか……。

「おおーい、真壁ー!」

 やっぱりだ……。

般木道真はんぎみちざね……」

 なんだ、あいつもダンジョンに来てたのか。それにしても目立つ。体も大きいし何より異様に明るいからな。

「よ! って、この人殺しィィ!」

「お前が言うか……」

「へへ……! なんだ、喧嘩で殺しちまったのか!? 俺もよくあるけどよ!」

 よくあるのか……。

「喧嘩じゃないんだけどな……」

「じゃあ、一方的に襲ったのか! 俺もたまにあるけどよ!」

「……」

 危険人物すぎる……。

「って……!」

「ん?」

 なんだ、今ムゲンの死体を見て道真がぎょっとした顔をした。

「まさか、知り合いだったのか?」

「……いや、他人だっ!」

「……そうなのか、なんかあったかと」

「へへっ……」

「ん?」

「いや、まあいいや。そんじゃ、俺はそろそろ行くぜ!」

「あ、ああ……って……」

 インヴィジブルデビルのことを言おうとしたんだが、すぐに行ってしまった。というかさっきまでの差し迫った空気もなくなってしまってる。俺に加えて般木まで来たから逃げたんだろうか。

 それにしても……なんというか超絶にマイペースなやつだな、般木道真は。でも、ちょっと引っ掛かることもある。死体を見たときのあいつの顔、だった。

「……やられちゃった」

「え……」

 嘘……だろ。でも確かにムゲンの声だった。

「お化け……?」

 振り返るとムゲンが立っていた。ちゃんと足もある。しかもこうしてペタペタと触れる。

「くすぐったいよ……」

「……ああ、ごめん……って、なんで生きてるんだ!?」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

弓使いの成り上がり~「弓なんて役に立たない」と追放された弓使いは実は最強の狙撃手でした~

平山和人
ファンタジー
弓使いのカイトはSランクパーティー【黄金の獅子王】から、弓使いなんて役立たずと追放される。 しかし、彼らは気づいてなかった。カイトの狙撃がパーティーの危機をいくつも救った来たことに、カイトの狙撃が世界最強レベルだということに。 パーティーを追放されたカイトは自らも自覚していない狙撃で魔物を倒し、美少女から惚れられ、やがて最強の狙撃手として世界中に名を轟かせていくことになる。 一方、カイトを失った【黄金の獅子王】は没落の道を歩むことになるのであった。

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

道具屋のおっさんが勇者パーティーにリンチされた結果、一日を繰り返すようになった件。

名無し
ファンタジー
道具屋の店主モルネトは、ある日訪れてきた勇者パーティーから一方的に因縁をつけられた挙句、理不尽なリンチを受ける。さらに道具屋を燃やされ、何もかも失ったモルネトだったが、神様から同じ一日を無限に繰り返すカードを授かったことで開き直り、善人から悪人へと変貌を遂げる。最早怖い者知らずとなったモルネトは、どうしようもない人生を最高にハッピーなものに変えていく。綺麗事一切なしの底辺道具屋成り上がり物語。

転移術士の成り上がり

名無し
ファンタジー
 ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

闇の世界の住人達

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
そこは暗闇だった。真っ暗で何もない場所。 そんな場所で生まれた彼のいる場所に人がやってきた。 色々な人と出会い、人以外とも出会い、いつしか彼の世界は広がっていく。 小説家になろうでも投稿しています。 そちらがメインになっていますが、どちらも同じように投稿する予定です。 ただ、闇の世界はすでにかなりの話数を上げていますので、こちらへの掲載は少し時間がかかると思います。

サバイバル能力に全振りした男の半端仙人道

コアラ太
ファンタジー
年齢(3000歳)特技(逃げ足)趣味(採取)。半仙人やってます。  主人公は都会の生活に疲れて脱サラし、山暮らしを始めた。  こじんまりとした生活の中で、自然に触れていくと、瞑想にハマり始める。  そんなある日、森の中で見知らぬ老人から声をかけられたことがきっかけとなり、その老人に弟子入りすることになった。  修行する中で、仙人の道へ足を踏み入れるが、師匠から仙人にはなれないと言われてしまった。それでも良いやと気楽に修行を続け、正式な仙人にはなれずとも。足掛け程度は認められることになる。    それから何年も何年も何年も過ぎ、いつものように没頭していた瞑想を終えて目開けると、視界に映るのは密林。仕方なく周辺を探索していると、二足歩行の獣に捕まってしまう。言葉の通じないモフモフ達の言語から覚えなければ……。  不死になれなかった半端な仙人が起こす珍道中。  記憶力の無い男が、日記を探して旅をする。     メサメサメサ   メサ      メサ メサ          メサ メサ          メサ   メサメサメサメサメサ  メ サ  メ  サ  サ  メ サ  メ  サ  サ  サ メ  サ  メ   サ  ササ  他サイトにも掲載しています。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

処理中です...