やつはとんでもないものを盗んでいきました。それは相手の一番大事なものです。

名無し

文字の大きさ
上 下
15 / 52

第十五話 うずうずしている

しおりを挟む

「処分って……? 捨てろっていうのか?」

「はい」

「……」

 理沙の言葉を受け入れるつもりなんてないが、気味が悪くなってきたことも確かだ。処分しろだなんて、それじゃまるでこの手袋がみたいじゃないか。

「冗談だよな……」

 冗談は嫌いだが、さすがにこのときばかりは冗談であってほしいと心底思った。この手袋は手放せないからな。これさえあればなんでも盗める。俺のあらゆる願望をかなえてくれる夢のアイテムなんだ。

 今はモテすぎるためにマスクで隠しているが、イケメンの顔も殺し屋自慢の筋肉もブサイク師範の究極の奥義も……全部これで奪ってやった。でも、まだだ。俺の満足度は1%にすら達してない。これからこの手袋でもっと色んなものを奪ってやるつもりなのに手放せるわけがない。

「残念ながら冗談ではないです。そのアイテムは呪われています。なので処分することを受け入れてください」

「ふ……ふざけるな! 誰が渡すか! そんなこと言ってこの手袋を奪うつもりだろう!?」

「……そんなことしません。燃やします」

「はあ?」

 思いっ切り凄んでやったが、彼女は異常なほど冷静だった。なんなんだ。この子、見た目も仕草も子供っぽいが中身は違う。16歳という年齢以上に大人びたものを感じる。それと、妙に威圧感があるんだよな。重さがあるというか……。

 別に怖気づいたわけじゃないが俺も興奮して大人げなかった。せっかく鑑定してくれたんだし話くらいは聞いとくか。たとえどんなに恐ろしい呪いだったとしても燃やすつもりはないが、気になるのは確かだ。

「……で、どんな呪いなんだ?」

「もうおわかりになられているはずです」

「は?」

「……あなたは、あらゆるものを奪いたいと思っています。違いますか?」

「……」

「本当はもっと謙虚な方だったはずです。でも今のあなたは……」

 確かに、この手袋を装着してから俺は迷いがなくなっていくのを感じた。それどころか、どんどん欲望が湧いてきて次から次へと盗みたくなった。それが呪いなんだろうか。でも、それのどこが悪いんだ?

「黙ってりゃ声がでかいだけのバカに奪われるだけだ。だったらこっちから奪ってやるだけのこと。それを教えてくれたのがこの手袋だ。むしろ呪いを解放してくれたんじゃないか」

「……あなたはきっと満足しないでしょう。喉が渇いた者が海水を飲むように、奪っても奪っても飢えるはず……。その先にあるのは真っ暗な荒野だけです」

「……」

 この子の言いたいことはなんとなくわかる。でも、それでもいい。元々毒を食らわば皿までと思っていたし。結末が悲劇だったとしても俺は構わない。英雄面してる水谷たちから大事なものを奪いつくし、どん底に突き落としてやるんだ。その先は……それから考えればいい。今考えても仕方ない。

「俺のことを考えてくれるのはありがたいけど、残念ながら処分できない」

「そう……ですか」

「ああ。それにな、手袋がなくなったら目標も全部なくなるし……。今更どうしろっていうんだよ」

 手袋なしで英雄の水谷たちに勝てるほど世の中甘くない。汗水垂らしてちんたら努力しろってか。一体何年かかるんだ。その間に水谷たちとどんどん差がついちまう。

「それなら、私の助手になってください!」

「へ?」

「常連さんは別なんですが、新しいお客さんが来るときは必ずお子様扱いされるんですよ。酷いですよね!」

「そ、そうなのか」

「はい! こんな感じなんですよ。ねぇねぇ、そこのお嬢ちゃん、鑑定士はどこかね? ってよく言われちゃいます。とほほってなりますよね……。そこであなたの出番です!」

「なんで俺……」

「そこで鑑定士の助手ですって言ってくだされば……風格があるので逃げられる心配はなくなります! 鑑定士は私ですって言うと、そこでお帰りになられる方も結構いて……」

 確かに見た目は完全な子供だからな。別の鑑定士に頼もうかってなるかもしれない。てかそれだと俺って助手っていうよりただのバックにいる怖い人じゃないか。脅せば確かに逃げられる心配もなくなるだろうが……。

「でもそういう役目なら、あの婆さんか六さんってやつにやってもらえば?」

「あのお二人は忙しいんですよ。おばさんは駄菓子屋のマスターですし、六さんは新聞記者ですから!」

「へえ……」

 ここで働くってのもいいのかもな。そういう人生も俺にはあったのかもしれない。けど、もう遅い。俺は盗みたくてしょうがないんだ。うずうずしている。この先、どんなに飢えたとしてもそのたびにこの手袋で奪ってやればいい。

「もう、いいんだ。ありがとう。これ以上止めるならあんたからも大事なお宝を奪ってやる。俺は冗談を言わないからな」

「……わかりました。そこまで言うなら止めません。あの……」

「ん?」

「お名前だけでも……。私は館花理沙たちばなりさっていいます。あなたは?」

「俺は真壁庸人まかべつねひとだ」

「……真壁さんですね。いつまでもお待ちしてます」

「……ああ」

「そのうち処分してくださいね!」

「しない!」

「うぅ……」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

【完結】元婚約者であって家族ではありません。もう赤の他人なんですよ?

つくも茄子
ファンタジー
私、ヘスティア・スタンリー公爵令嬢は今日長年の婚約者であったヴィラン・ヤルコポル伯爵子息と婚約解消をいたしました。理由?相手の不貞行為です。婿入りの分際で愛人を連れ込もうとしたのですから当然です。幼馴染で家族同然だった相手に裏切られてショックだというのに相手は斜め上の思考回路。は!?自分が次期公爵?何の冗談です?家から出て行かない?ここは私の家です!貴男はもう赤の他人なんです! 文句があるなら法廷で決着をつけようではありませんか! 結果は当然、公爵家の圧勝。ヤルコポル伯爵家は御家断絶で一家離散。主犯のヴィランは怪しい研究施設でモルモットとしいて短い生涯を終える……はずでした。なのに何故か薬の副作用で強靭化してしまった。化け物のような『力』を手にしたヴィランは王都を襲い私達一家もそのまま儚く……にはならなかった。 目を覚ましたら幼い自分の姿が……。 何故か十二歳に巻き戻っていたのです。 最悪な未来を回避するためにヴィランとの婚約解消を!と拳を握りしめるものの婚約は継続。仕方なくヴィランの再教育を伯爵家に依頼する事に。 そこから新たな事実が出てくるのですが……本当に婚約は解消できるのでしょうか? 他サイトにも公開中。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

【完結】蓬莱の鏡〜若返ったおっさんが異世界転移して狐人に救われてから色々とありまして〜

月城 亜希人
ファンタジー
二〇二一年初夏六月末早朝。 蝉の声で目覚めたカガミ・ユーゴは加齢で衰えた体の痛みに苦しみながら瞼を上げる。待っていたのは虚構のような現実。 呼吸をする度にコポコポとまるで水中にいるかのような泡が生じ、天井へと向かっていく。 泡を追って視線を上げた先には水面らしきものがあった。 ユーゴは逡巡しながらも水面に手を伸ばすのだが――。 おっさん若返り異世界ファンタジーです。

処理中です...