やつはとんでもないものを盗んでいきました。それは相手の一番大事なものです。

名無し

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第十三話 一体どんな物語が脳内で展開されてるんだか

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「俺にその気はないから……。ごめんな」

「諦めません!」

 俺の背中に向かってくる女の子を《浮雲》で投げ飛ばすが、それでもついてくる。すれ違うやつらが呆れ顔で見てきた。俺も若くなってるがこの子はもっと若く見えるし、玩具を買ってくれと駄々をこねる娘と若い父親くらいに思われてそうだな。心を奪うってのはこういうことなのか……。

「好きです!」

 起き上がると、小さな体で何度も何度もダッシュ掴みしてくる。本当にしつこい。うざいとさえ思うレベルだ。これじゃ剣術の道場まで到着するのに丸一日かかりそうだ。相手の力が弱いから、投げ飛ばす力も弱くなっているということだろうが、ちっこい体なのに妙に体力や根性がある。何気に受け身も取ってるし、探求者なんじゃないかってレベルだ……。

 俺は恋愛というものをしたことがないし、これから先もするつもりはない。頭の中にはこの手袋でどんどん誰かの一番大事なお宝を盗んで強くなり、最終的には水谷たちからも奪ってやるんだ。

 かといって、殴って気絶させるのもなあ。今は人の往来が多いからアレだが、隙を見て全力で逃げるとするか。

 ……お、なんだ?

 向こうのほうにある古びた駄菓子屋から、が手だけを出してこっちに手招きしてる。この状況を見かねて助けてくれるっていうのか。だとしたら相当察しがいいな。その代わりに金とか要求されそうだが。まあいい。よし、あそこまで一気にダッシュするか。

「付き合うから、ちょっとあっち向いて待ってて」

「はい!」

 素直な子だ。その隙に《加速》を掛け、駄菓子屋に向かって猛然と走った。

 ――あっという間に着いたが、入ったところを見られてなきゃいいが……店からそっと女の子の様子を覗くと、まだあっちのほうを向いていた。騙されやすい子なのかもしれない。

「ん?」

 トントンと肩を叩かれて振り返ると、サングラスの男がいた。この男が俺に手招きしてくれたのか。駄菓子屋の店主かな? 客かもしれないが……。それにしても店内は薄暗いのにサングラスなんかかけて変なやつだ。

「金なら払うよ。それまでちょっとここに居させてくれ――」

「……」

 なんだ。男は首を横に振った後、にやっと笑った。嫌な空気が漂う。おいおい、まさかのホモだったりして。マスクつけてて目元しか見えないのにイケメンってわかるのかという疑問もあるが、とりあえず俺はガタイもいいしホモに好かれそうだから逃げることにした。

「待ちな!」

「なっ……」

 店を出ようとした俺の前に箒を持った婆さんが立ち塞がった。次から次へとなんなんだ……。

「何急いでるんだい! 言いな!」

「え、その……」

「言えないってことは泥棒だろッ!」

「え……?」

 まさか、この婆さんが雇われた殺し屋……なわけないか。

「その顔、図星だね! あたいにはわかんだよ、泥棒の目は!」

 確かにある意味泥棒だが……って、この婆さんこそが駄菓子屋の店主っぽいな。慌ててる俺の様子を見て万引き犯かなんかと間違えたらしい。

「いやいや、金なら持ってるし……」

「そういう問題じゃないんだよ! 見た感じまだ若いのに、その腐った根性が気に入らないね! お仕置きするからケツ出しな!」

「え……」

「六さん、そいつ捕まえといて!」

「……!」

 後ろから俺を捕まえようとしたらしいが、その六さんとやらは俺のS級体術《浮雲》によって投げられてそのまま動かなくなった。

 サングラスが外れて、目を開けたまま気絶してる。なんていうか、かなりの男前だ。ますますサングラスをつけてるのが謎だな。

「くッッ! 六さん、仇はとるよ……! さあ来い! あたいが相手になるよッ!」

 腰を一掃低くして箒を構える婆さん。一体どんな物語が脳内で展開されてるんだか。

「箒だからって舐めるんじゃないよ! 箒術っていう立派なものがあるんだからさッ!」

 でもよく見ると隙がまったくないな。ハッタリでもなさそうだ。この婆さん、結構強いのかもしれない……。

「ここにいた!」

「「あ……」」

 俺と婆さんの声が重なってしまった。あの子の声だ……。見つかってしまった。

「なんだ、理沙ちゃんじゃないか」

「おばさん、こんにちは! あれ、六さんこんなところで寝ちゃってる……」

 ……知り合いらしい。

「こいつにやられちまったんだよ。今から仇をとるところさ!」

「えええ!? ダメです! この人は私と結婚するんですから!」

「な、なんだって……り、理沙ちゃん、ついに……」

 婆さんが箒を落としてわなわなと体を震わせ始めた。なんだなんだ……。

「結婚する気になったんだね……。あんなに男に興味がなかった子が……」

 いつのまにか六さんとやらが起き上がって感慨深そうにうなずいてる。しかもサングラスもしっかりつけちゃってるし。というかだな、この子はまだ中学生くらいだろ。結婚ってなんだよ……。

「理沙ちゃんが惚れるような人が泥棒なわけなかったね。悪かったよ。この子をよろしく!」

「よろしくっす……」

「えへへ……」

「……」

 照れる女の子の前で婆さんと六さんに頭を下げられる。戦うんじゃなかったのか? この切り替えの早さはなんなんだ。頭痛くなってきたな。

「よろしくって言われても、子供と結婚なんてできないって」

「バカいうんじゃないよ! この子は、こう見えて16歳なんだから!」

「え……」

「えっと……私、なにかの病気で年を取らないみたいです。ちゃんとこうして生きてますけど……」

「なるほど……」

「というわけで、ふつつかものですがよろしくお願いします!」

「あ、ああ……あ?」

 こんなはずじゃ……なかった……。
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