58 / 66
五十八話 道具屋のおっさん、脱帽する。
しおりを挟むもくもくと不穏な煙が上がる中、瓦礫の中から勇者クリスと戦士ライラが出てきたが、あまり元気がない。そりゃそうだろう。こっちもレベルが上がってるからな。それでも無事で済んでいるのはさすがだが……。
「エレネ、やれ」
「はい……」
エレネの氷結剣によってクリスとライラが凍る。すぐ元に戻るにしても奇襲としては充分だ。
「行け、リュリア」
「了解」
リュリアが突っ込んでいく最中、アルタスが出てきた。このタイミングで俺が迅雷剣を使ってしまうと、透明でもやつのカウンター魔法攻撃で命が危ないというのは学習済みだ。
俺はリュリアの透明化を解除すると、スターカードに彼女の名前を念じた。
これによって、リュリアの吸引力は相当なものになった。俺たちはパーティーメンバーだから平気だが、やつらからしてみたら視線を強引に引っ張られるレベルになるわけだからな。
「エレネ、ここからが本番だ」
「はい」
エレネが氷結剣を振ってやつらを僅かな時間だが凍らせることで、リュリアのサポートをする。俺はまだ攻撃に参加しない。スターカードでやつらの目を向こうにやれているといっても、迅雷剣まで使ったらさすがに目立つからな。
「はあっ! ていっ!」
「ライラ、このハーフエルフ! 王都にいたやつだ!」
「クリス、あたいも知ってるよ! 人間様、それも勇者パーティーに逆らった下種だね!」
「下種はどっちだ!」
「ぐはっ! ……くそ! 仲間がどこかにいて凍らせてきやがる!」
「どこにいるんだい!? アルタス、なんとかしておくれ!」
よし、いいぞ……エレネがいちいち凍らせるから、それまでやつらと互角だったリュリアが一方的に押す形になっている。ただ、アルタスだけはほんの一瞬しか凍らない。あいつ、魔法耐性が高すぎるんだ……。
「くうっ!」
アルタスが例の超威力な火の玉を出してきて、リュリアに命中した。それでクリスとライラが勝ち誇った顔を見せたが、すぐに動揺した表情で塗り替えられた。
「な、なんだこいつ!」
「う、嘘……! アルタスの火の魔法がまったく効かないなんて!」
そりゃそうだ。リュリアはただでさえ魔法耐性が高い上に俺がエレメンツカードで火に強い水属性に変えたんだからな。
「妙な術を使われている。しばし待て……」
「モルネト様、アルタスがこっちに気付いたみたいですわ」
「な、何?」
「あの人はとにかく勘がいいのです。リュリアに引きつけられている間も、おそらく氷結剣を使っている場所を正確に把握していますわ……」
……ミヤレスカの予感は当たっていた。やつはリュリア、それから俺たちのほうに向かって、同時にあの火の玉を放ってきたのだ。当然バリアは破られ、俺たちは場所を変えなければならなくなった。
「超一流の魔術師だけが使えるダブルキャスティングですわ」
「同時詠唱、か……」
実に器用なことだ。やはりあの男の力だけずば抜けている……。
走り撃ちでやつを仕留めようとするが、ダメだ。俺の電撃はほとんど効いていない。
「モルネト様、クリスとライラをまず仕留めたほうが……」
「それもそうか……」
軍師ミヤレスカの提言により、やつらを集中攻撃する。
「「――ぎゃああぁあ!」」
クリスとライラが折り重なるようにして倒れる。実にあっけなく終わった。やはりアルタスだけだな、強いのは……。
やつはリュリアの攻撃をかわし続け、俺の電撃を食らいつつも、それでも涼しい顔で火の玉を的確に放ち続けていた。そのせいで最早町は火の海状態で、愚民どもから悲鳴が起こってるが……。
「はぁ、はぁ……モルネト様、このままでは……」
「ああ、わかってる、ミヤレスカ……」
魔術師アルタスの放つ魔法の正確性は威力とともにどんどん上がっていた。走り撃ちをしているのに張っていたバリアを破られるレベルだった。おそらく、やつは戦えば戦うほど、誰かを殺せば殺すほど強くなり頭も冴えてくる戦闘狂タイプだ。戦いを長引かせるとまずい。
「リュリア、戻ってこい!」
「はっ!」
ミヤレスカがバリアを張ったタイミングで叫び、リュリアをやつから退避させる。
「うぐっ……」
そのタイミングで飛んできた火の玉によって結界は破られ、全身に焼け付くような痛みが残った。
「エクストラヒールッ!」
ほぼ同時にエクブスがヒールしてくれたからよかったが、意識が飛ぶかと思った。火の玉の威力も相当上がってるなこりゃ……。
「そろそろ終わらせてやる……」
俺の絞り出した小声に、奴隷たちは一斉にうなずく。それだけ信用しているということだ。
まず自分の透明化を解除すると、さらにスターカードで存在感を濃くしてアルタスに向かって走った。
「ジイイィイィクッ……モルネェエエトオオオォオッォオオオオオオオ!」
1
お気に入りに追加
121
あなたにおすすめの小説

外れスキル【転送】が最強だった件
名無し
ファンタジー
三十路になってようやくダンジョン入場試験に合格したケイス。
意気揚々と冒険者登録所に向かうが、そこで貰ったのは【転送】という外れスキル。
失意の中で故郷へ帰ろうとしていた彼のもとに、超有名ギルドのマスターが訪れる。
そこからケイスの人生は目覚ましく変わっていくのだった……。

ゴミスキル【スコップ】が本当はチート級でした~無能だからと生き埋めにされたけど、どんな物でも発掘できる力でカフェを経営しながら敵を撃退する~
名無し
ファンタジー
鉱山で大きな宝石を掘り当てた主人公のセインは、仲間たちから用済みにされた挙句、生き埋めにされてしまう。なんとか脱出したところでモンスターに襲われて死にかけるが、隠居していた司祭様に助けられ、外れだと思われていたスキル【スコップ】にどんな物でも発掘できる効果があると知る。それから様々なものを発掘するうちにカフェを経営することになり、スキルで掘り出した個性的な仲間たちとともに、店を潰そうとしてくる元仲間たちを撃退していく。

外れスキル【削除&復元】が実は最強でした~色んなものを消して相手に押し付けたり自分のものにしたりする能力を得た少年の成り上がり~
名無し
ファンタジー
突如パーティーから追放されてしまった主人公のカイン。彼のスキルは【削除&復元】といって、荷物係しかできない無能だと思われていたのだ。独りぼっちとなったカインは、ギルドで仲間を募るも意地悪な男にバカにされてしまうが、それがきっかけで頭痛や相手のスキルさえも削除できる力があると知る。カインは一流冒険者として名を馳せるという夢をかなえるべく、色んなものを削除、復元して自分ものにしていき、またたく間に最強の冒険者へと駆け上がっていくのだった……。

勇者パーティーを追放された召喚術師、美少女揃いのパーティーに拾われて鬼神の如く崇められる。
名無し
ファンタジー
ある日、勇者パーティーを追放された召喚術師ディル。
彼の召喚術は途轍もなく強いが一風変わっていた。何が飛び出すかは蓋を開けてみないとわからないというガチャ的なもので、思わず脱力してしまうほど変なものを召喚することもあるため、仲間から舐められていたのである。
ディルは居場所を失っただけでなく、性格が狂暴だから追放されたことを記す貼り紙を勇者パーティーに公開されて苦境に立たされるが、とある底辺パーティーに拾われる。
そこは横暴なリーダーに捨てられたばかりのパーティーで、どんな仕打ちにも耐えられる自信があるという。ディルは自身が凶悪な人物だと勘違いされているのを上手く利用し、底辺パーティーとともに成り上がっていく。

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~
名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

固有スキルが【空欄】の不遇ソーサラー、死後に発覚した最強スキル【転生】で生まれ変わった分だけ強くなる
名無し
ファンタジー
相方を補佐するためにソーサラーになったクアゼル。
冒険者なら誰にでも一つだけあるはずの強力な固有スキルが唯一《空欄》の男だった。
味方に裏切られて死ぬも復活し、最強の固有スキル【転生】を持っていたことを知る。
死ぬたびにダンジョンで亡くなった者として転生し、一つしか持てないはずの固有スキルをどんどん追加しながら、ソーサラーのクアゼルは最強になり、自分を裏切った者達に復讐していく。

救助者ギルドから追放された俺は、ハズレだと思われていたスキル【思念収集】でやり返す
名無し
ファンタジー
アセンドラの都で暮らす少年テッドは救助者ギルドに在籍しており、【思念収集】というスキルによって、ダンジョンで亡くなった冒険者の最期の思いを遺族に伝える仕事をしていた。
だが、ある日思わぬ冤罪をかけられ、幼馴染で親友だったはずのギルド長ライルによって除名を言い渡された挙句、最凶最悪と言われる異次元の監獄へと送り込まれてしまう。
それでも、幼馴染の少女シェリアとの面会をきっかけに、ハズレ認定されていた【思念収集】のスキルが本領を発揮する。喧嘩で最も強い者がここから出られることを知ったテッドは、最強の囚人王を目指すとともに、自分を陥れた者たちへの復讐を誓うのであった……。

転移術士の成り上がり
名無し
ファンタジー
ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる