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五十七話 道具屋のおっさん、グラッとする。
しおりを挟む……おかしい。
朝チュンタイムが来たこともあり、店に特製白ポーションを大量に置き、外で透明になって待機してたんだが、一向に勇者パーティーが来ないのだ。もう姿を見せてもおかしくない頃なんだけどなあ……。
「あいつら、来ねえなあ……」
「ですねぇ」
「うむ。遅い……」
「ふわあ。私も待ちくたびれました……」
奴隷たちも落ち着かない様子。待ち侘びた決戦を前にしておあずけ食らってるわけだしな。
「あれかな……。やっぱりミヤレスカを探してるんじゃないか?」
なんせ仲間が急に一人いなくなったわけだしな。これって結構大変なことじゃないか?
「なあ、占いカードで30分後を見てみるか?」
「はい、それがいいですね」
「同意だ」
「いえっ。その必要はありませんわ」
「「「えっ……」」」
俺を含め、ミヤレスカに視線が集まる。
「どういうことなんだよ、エクブス。説明しろ」
「はい、モルネト様。確かにクリスたちが私を探しているのは間違いありません。でも、少し探して見付からなかったらすぐ切り替えると思います」
「なんか薄情だな。まああいつらならやりかねんか……」
「ええ。彼らと出会ったときから仲間関係はとても希薄でしたの……。私がまだ駆け出しの頃、魔物との戦いで大怪我をしたときでも、見舞いに来てくれる人なんて誰もいませんでした。ぐすっ……」
「……」
ミヤレスカに寄りかかられるのと同時に嗚咽が聞こえてきて、ぐらっと来てしまった。こいつの泣き方は最早プロだな……。普通は泣かれるとうざったいだけなんだが、エクブスは喘ぐ感じで男心をくすぐるように泣くんだ。そりゃ男は騙されるわけだな……。
「で、今とどっちが幸せだ?」
「うぅ。それはもちろん、モルネト様と結ばれた今ですわっ……」
ミヤレスカが顔を上げる。切なそうな顔、ほんのりと赤く染まった頬……大人と少女が同居しているかのようだ。エクブスの癖に超可愛い……。
「ミヤレスカ……お前も色々あったんだな……」
「はい……。辛いことが多すぎて、かなり歪んじゃったかもしれませんです」
「俺がお前の心を癒してやる……」
「今でも充分癒されてます。モルネト様……」
「「ちゅうぅっ……」」
「「……」」
ミヤレスカとねっとりキスしてるわけだが、エレネとリュリアの視線が超怖い。ちっ、しゃーねえな。
「「「「ぶちゅううぅー……」」」」
少々面倒だが、クアドロプルねっとりキスを決めてやった。
――来た来た……。
興奮しすぎたせいか眩暈がする中、騒々しさを引き連れて勇者パーティーがやってきた。ミヤレスカの言う通りだったな……。
「ミヤレスカ、バリアを」
「はいなのですー。ディバイン・プロテクション……!」
こいつの結界は、アルタスの放つ例の無慈悲な火の玉を一回程度なら耐えられるという。ただ、連続だと厳しいとか。
結界は一度破られると、立て直すのに30秒程度時間がかかるみたいだ。いわゆるクールタイムというやつだ。
いよいよやつらが近付いてくる。三人しかいないが特に変わった様子はない。何気に転んだ子供がスルーされてて笑える。
勇者クリス、続いて戦士ライラが道具屋に入っていく。まずは俺が丹精込めて作った美味しい特濃ザー……白ポーションと黄ポーションをご馳走しないとな。
「――おええぇぇぇえええっ!」
「ヴォエエエエッ!」
「「「「プププッ……」」」」
ミヤレスカまで口を押さえて笑ってる。薄情さじゃこいつも負けてなかった。
しかし、耳に染み入る素晴らしい鳴き声だな。これを聞かないともう一日が始まった気すらしない。
最後に魔術師アルタスが店の中にゆっくりと入っていく。あいつは俺のポーションを飲んでも被っても平気なド変態だし、酷い目に遭わせるには実際にやっつけるしかない。
「エレネ、リュリア、ミヤレスカ。準備はいいな?」
「はいっ」
「オーケーだ」
「できておりますわよ」
よし……やるか。俺は迅雷剣を道具屋に向かって勢いよく振った。
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